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質疑応答 vol.1

2021年8月末に開催されたビュッフェ・クランポン・ジャパン オンライン欧日音楽講座では、東京と大阪の会場に受講生が集まり、フランス学派を代表するクラリネット奏者、ミシェル・アリニョン氏フローラン・エオー氏のオンラインレッスンを受講しました。
 
本インタビューでは、欧日音楽講座の受講生から寄せられた質問に対して、アリニョン氏、エオー氏から得た回答を3本の記事に分けて掲載します。連載1回目のテーマは、日々の練習についてです。(2021年9月、東京、通訳:檀野直子)

 
 
日々の練習について
 
 
  オンライン欧日音楽講座2021では、受講生から沢山の質問をお寄せいただきました。その中でも最も多かったのが「日々の練習内容や練習時間はどうあるべきか」という質問でした。
 
アリニョン(敬称略) これはスポーツと同じです。生まれつきの能力によって、10秒で走る選手がいれば、14秒で走る選手もいます。クラリネットも同じで、指がとても速く回る人がいれば、そうでない人もいます。指が最初から速く回らなくてもクラリネットを演奏する妨げにはなりませんが、どのように練習すべきかという質問に対しては、相手によって回答が変わります。
 
日々の練習内容や練習時間に対して全ての学生に当てはまる答えを出すことはできません。「私は1日何時間練習しよう?」と自分自身に問いかけることには何の意味もありません。重要なのは、ここを改善しなければならないから、このくらい練習しましょう、と考えることです。
 
  大阪会場で実施した質疑応答では、「必要な練習時間は4時間」と回答されていましたね。今回の受講生のような、音大受験生から若い演奏家の方々の練習時間の目安は4時間でしょうか。
 
エオー(敬称略)  確かに4時間と言いました。ある意味、この数字はくだらなくもあるかもしれません。しかし、目安をおくことによって、例えば、1日に1時間しかクラリネットの練習をしていない人が、自分は平均的な練習量に達していないと気づくかもしれませんので、役に立つことだと思います。
練習には、本人に合ったやり方があります。2時間の練習を2回行う、1時間ずつ練習する、1日分を一気に練習する、午前中に練習する等、それぞれが自分のやり易い方法を感覚で知っています。
 
練習の内容は、楽器の上達に絶対欠かせない、スタッカート、音、息、指のテクニックを習得するための技巧練習や音階、エチュードやレッスンで受講している曲によって構成されます。具体的な方法としては、メトロノームやチューナーを使ってする練習があります。皆さんよくご存じの道具ですが、とても重要ですので特に言及します。「私の場合、スタッカートは上手くできるけれど、指が回らないから、指の練習により多くの時間を費やそう」等、自身の状態を客観的に把握して、「自分はこうだから、特にこのことを練習しよう」と、それぞれが自分に必要なことを考えて、自分に合った練習をする必要があります。
 
  自分で課題を認識して、練習を組み立てる必要があるということですね。
 
アリニョン 先生と一緒にです。先生の指導のもと練習をすることは、とても大切です。
 
  教本についてもう少し教えてください。エオー先生は技巧練習や音階の本を出版されていましたね。
 
エオー 例えば、今回の講座で指が上手く回らない生徒に、ジャンジャンの「ヴァドゥメカム」(Vade-Mécum du Clarinettiste)、クローゼの教本の中の633の技巧練習(633 Exercices pratiques et journaliers, Méthode complète de Clarinette)を勧めました。私も技巧練習を1冊書いています。題名は1111 mécanismes avancés(=アドバンスド・メカニズム)、クローゼのものに少し似ていますが、それより多少難しいと思います。そういうわけで、この題名にしました。より厳しく、難しい練習だからです。この本はこういう練習が特に必要な人に向けたもので、数ある練習手段の中の一つです。
 
私はその他に音階の本も書いています。学生時代に役立った方法を思い出しながら、音階練習のやり方について熟考した結果、1000の練習方法を知るようになりました。それを自分の生徒や他の学生に提案するために出版しましたので、こちらもお勧めします。インターネットで簡単に購入できますし、PDFをダウンロードすることもできます。
エチュードでしたら、さまざまなものがありますし、ドゥレクリューズ編曲のバッハのエチュードも練習すると良いと思います。
 
これらの教本やエチュードは、段階を追って練習するものです。私が小さい頃にアリニョン氏から教わって練習した633の技巧練習は、とても役立ちました。そして、最初に練習すべきものだと思っています。これができるようになったら、多少難易度の高い私の本を始めると良いでしょう。
 
アリニョン 練習について重要な点は、生徒には指導者が必要であるということです。インターネットの情報だけではクラリネットを習得することは不可能です。つまり、エオー氏や、ほかの著者のエチュードをやるように助言してくれる指導者が必要です。指導者は生徒がやるべきことの道筋を示します。彼は生徒の演奏を聴き、「これを練習したらこの生徒にとって良いだろう」、と考えます。これはとても大切なことだと思います。
日本には素晴らしい先生がいます。成長を促してくれる先生の元へ行くことは、生徒にとって大きな励みになるでしょう。
 

オンライン欧日音楽講座2021 大阪会場(写真左)、東京会場(写真右)のレッスンの様子
 
 
タンギングについて
 
 
  タンギングについても数多くの質問が集まりました。どのように練習すると良いのでしょうか。
 
アリニョン これは初期のレッスンで習うことです。難しいし、上手くいかないし、何度も繰り返すのみで、決して面白い練習ではありません。しかし、舌の動きは非常に大切ですので、肝要な練習です。数回のレッスンの末、この概念が分かれば、素早い動き、少し遅めの動き、あまりはっきり音を区切らない、逆にスタッカートのように区切る、等を可能にする口の中での舌の位置が分かるようになります。しかし、これは本当に最初のレッスンで習うことです。
 
  日本では部活でクラリネットを始める学生が多く、プロの先生から基礎的な指導を受けずに練習を進めるケースも多いのですが、そのような場合は、タンギングを改めて習得する必要があるかと思います。
 
エオー タンギングには、2つのステップがあると思います。
まずは、質です。質の良いタンギングを習得するには、心を落ち着かせた状態で感覚を掴み、どうしたら上手くいくか感じ取る必要があります。この作業には時間がかかりますが、良い演奏には質の良いタンギングが不可欠です。もし、舌の動きが良くなければ、テンポを速くする練習には進めません。
そして、一度感覚が分かったら、練習していきます。だんだんとテンポを上げながら練習します。まるでスポーツ選手が、1m、1m5㎝、1m10㎝とバーの高さを上げていくようにです。
 
また、タンギングをする際には、重要な要素が2つあります。1つは舌、もう1つは息の支えです。息の支えが十分でなければ、タンギングはできません。これは、多くの生徒が忘れていることです。彼らは、タンギングをするのを怖がり、息を吹き込むのをやめてしまいます。
 
他にも重要なポイントがあります。クラリネットの発音と言葉の発音は同じで、タンギングと口で「タタタ」と言うのは、全く同じ動作です。舌が歯に当たるのか、リードの先端に当たるのか、という違いがあるだけです。実際、言語の発音にはない舌の動かし方でクラリネットを吹く人がいます。彼らは、舌の先だけでタンギングをしようとしていますが、ほとんどの場合、上手くいっていません。そこで、もっとシンプルな方法で、どの言語にもある、「タタタ」を発音するかのように舌を動かして、リードの先端でタンギングするよう助言します。このことを理解すると、ほとんどの生徒が上達します。
 
タンギングで難しいのは、口の中が見られないことです。見られないものは、お手本を見せてあげられません。ですから、見えなくても理解できる習得方法を見つけなくてはなりません。
 
  レッスン中にタンギングに課題がある受講生には、マウスピースやリードは何を使用しているか質問されて、場合によっては変えることをアドバイスされていましたね。マウスピース、リガチャー、リードは、どのように選ぶと良いのでしょうか。選ぶ際の基準はありますか?
 
アリニョン 難しい質問です。ご存知の通り、全ての芸術においてそうであるように、流行は移り変わります。つまり、ある一定の期間、人々はある音色、その他、を好みます。しかし、現在YouTube上でさまざまな演奏家が、それぞれ全く違う演奏をしており、彼らがどのような仕掛けで吹いているのかまでは知ることができません。そういう意味ではかなり不安定な時期にいると言えます。
 
このような状況の中で、リードやマウスピースを選ぶのは難しいことですが、私は、今まで高く評価されてきたものに近いものを使うべきだと思います。決して、変えてはいけないというのではありません。そして、自分がしっかり基礎を身につけたと確信できたら、変えて良いと思います。
 
エオー 先ほどお話した先生の役割がここでも重要です。先生と生徒の信頼関係や、先生の指導力によって、先生は生徒を堅実で本人に合った仕掛けへと向かわせるべきです。あとは、楽器を選ぶようなものです。結局、ほかのものよりも本人にぴったり合う楽器があります。(インタビュー「クラリネットの選び方」参照)
 

オンライン欧日音楽講座2021で会場とオンライン通信を行うアリニョン氏、エオー氏
 
連載2回目(新しい楽曲への取り組み方、表現力の磨きかた)に続く

 
 
◆関連インタビュー
記事タイトルよりアカデミー講師のインタビュー記事をご覧いただけます。

MY STORY ミシェル・アリニョン(元フランス国立パリ高等音楽院教授、大阪音楽大学客員教授)
フローラン・エオー(フランス国立パリ地方音楽院およびローザンヌ高等音楽院教授、大阪音楽大学客員教授)
【連載】
BCJ Clarinet Academy 2019
第1回「音楽的教養、伝統の尊重と表現の自由」
第2回「教師の責任、音色づくり、フランス留学ついて」
第3回「エコール・フランセーズ(フランス学派)とアカデミーの今後」
ジャック・ランスロ
国際クラリネット・コンクール2018
ミシェル・アリニョン(元フランス国立パリ高等音楽院教授、大阪音楽大学客員教授)
クラリネットの選びかた フローラン・エオー(フランス国立パリ地方音楽院およびローザンヌ高等音楽院教授、大阪音楽大学客員教授)
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