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クラリネットの選びかた

パリ地方音楽院やローザンヌ高等音楽院で教鞭をとり、学生達の楽器選びをサポートするとともに、〈ビュッフェ・クランポン〉の楽器開発にも協力してきたフローラン・エオー氏に、上級者を対象とする「クラリネットの選び方」を教えていただきました。
(2019年、通訳:檀野直子)

 
楽器選びの重要性
 

 「腕の良い職人には、良い道具が必要だ。」と言われています。演奏家についても同じことが言えます。良い演奏には、優れた楽器が必要です。優れた奏者でも、自分に合わない楽器では音楽に集中できず、限界が生まれます。私たちの表現を妨げる楽器は選んではなりません。理想とする楽器とは、インスピレーションを与えてくれて、頭の中にある音楽をそのまま再現できるスピーカーのような役割を果たす楽器です。演奏することが私たちの仕事ですから、しっかりと見極めましょう。

 
楽器選びのステップ
 

1.機種選び
 〈ビュッフェ・クランポン〉のプロフェッショナルモデルは種類が多いため、まずは自分に合う機種を見つける必要があります。私が生徒の楽器を選ぶ場合は、まず学生自身が全ての上級、最上級機種を試してみるように提案します。様々な機種を自分で試してみることによって、どの機種が自分に合うかわかります。その後、私が生徒の試奏を聴きますが、ほとんどの場合、即座にどの機種が合っているのか分かります。実際の楽器選びでは、学生のレベルによっては、機種を自分だけで選ぶこともあると思います。
 先生の中には、自身の考えだけで生徒の機種を決める人もいますが、機種は自分で選ぶべきです。逆に、子どもの場合は先生が選ぶことになりますが、今回は上級者の話をしています。
 
〈ビュッフェ・クランポン〉プロフェッショナル・ソプラノクラリネットのラインナップ全9機種15種類
 *RC GL(グリーンライン)はB♭管のみ。
 

2.楽器選び
 機種が決まったら、同じ機種の楽器の中から一番良いと思う1本を選びます。同じ機種でも手作業で行われている箇所があるため、僅かながら個性が生まれます。何本も集めて試奏することは難しくても、可能な限り自分に合う楽器を選びましょう。
 学生が購入する場合は、このステップでも、まずは生徒自身に選ばせます。その後、私が同じように選びます。互いの選んだ楽器が一致すれば、それは良い楽器だということです。ほとんどの場合一致しますが、同じ楽器を選ばなかった時には、2本とも同じくらい良い楽器だったりします。

 
試奏方法
 
試奏の注意点
 
● 試奏時間と手順
 試奏は最初の印象が大切で、決断は素早く下すべきです。そして、以下に詳しく述べる「①抵抗感と自由度、②音程と高音域、③音色と均一性」という順番で、確認をしましょう。時々、逆の順番で試奏し、時間をかけて選んでいる人を見かけることがありますが、誤った判断を下してしまう恐れがあります。それは、長時間試奏している間に、楽器に自分の演奏を合わせてしまい、楽器の欠点と折り合いをつけたために、本当に合っているかどうかが分からなくなってしまうからです。また、音色にこだわりながら選んでも、それが抵抗の強い楽器であれば、難しいパッセージを吹くときに問題が起こります。このように、楽器を選ぶ順序は非常に大切です。順番を間違えると、一日中試しても決めることができません。
 
● 場所と協力者
 できるだけ広い場所で試奏し、他の人に遠くから音を聴いてもらいましょう。耳元で聞こえる音と、距離が離れた場所から聞く音には違いがあるからです。特にオーケストラ奏者やソリストは、ホールで試すことが必要です。ポール・メイエ氏は、新しい試作品ができると、ホールでのレ・ヴァン・フランセのリハーサルの際に試奏を行い、エマニュエル・パユ氏などに、「この楽器どう思う?」と聞いているそうです。
 立ち会ってもらうことには、「ほかの人の楽器を選ぶことの方が簡単だ」という点でもメリットがあります。自分自身の楽器を選ぶ時には感情的になってしまい、難しく考え過ぎてしまうことがありますが、ほかの人のためなら客観的に選びやすく、一番良い楽器をすぐに判断しやすいものです。選ぶことに慣れていない学生の場合は、他の学生に聴いてもらうことも有効です。例えば、あるイベントで、”レジェンド“、”ディヴィンヌ“、”トスカ“の展示があり、楽器選びをしている学生が、それぞれの機種で短いフレーズを吹きました。私とほかの学生が同席していましたが、どの機種が一番合っているかについて、全員の意見が一致しました。そこでその学生は、どの機種を選ぶべきか、確信が持てたのです。
 更にプロの場合は、実際のコンサートで新しい楽器を試すことも必要です。音程や、どのように楽器が機能するか、聴衆がどう受け止めるか、自分はどう感じるか、などを知ることは重要です。
 
● 試奏の注意点まとめ
 
試奏による確認ステップ
 
1.抵抗感・自由度
 楽器の試奏で初めに確認すべき項目は、抵抗感、つまり「楽に鳴り、自由に吹けるかどうか」です。楽器が存在する目的は、奏者の演奏を助けることであり、妨げることではありませんので、抵抗が強すぎる楽器を選んではいけません。例えば、試奏でブラームスのソナタを吹き、音色が気に入ったとします。ところが、フランセやコープランドなどの難度の高い協奏曲や、ガロワ・モンブランのコンチェルトシュトゥックなどを演奏する時に、楽器の抵抗が強すぎたら、演奏するのにかなり苦労をすることになります。そのような楽器は選ぶべきではありません。
 抵抗感を確認するためには、少し難しい短いフレーズを吹き、そこで自由さが感じられるかを試します。例えば私が試奏する場合、クラリネットのレパートリーの中でスタッカートが難しいコープランドのカデンツァのパッセージを吹いて、楽に吹けるかどうか、つまり、即座に感じる楽器の自由度を確認します。それぞれの楽器を5秒くらいずつ試します。例えば、「タタタタタタタタタタター(コープランド)」と吹くときに、すんなりとできる楽器と、「タ・・・タ・・・タ・・・」と感じる楽器があります。3音吹いただけで無理だと分かる時もあります。タンギングが楽器に妨げられ、自由さが感じられないのです。
 強い抵抗感を感じた場合、この時点でその楽器は落選です。逆に、このスタッカートのように、難しいフレーズでも上手く吹ける楽器は良い楽器と判断します。ここで残った楽器はどれを選んでも間違いはありません。マウスピース選びに関しても同じことが言えます。
 
2.音程と高音域
 次に、音程に問題がないかどうか、楽に高音域まで上がっていけるかを確認します。音程は基本的に工場でしっかり検査されているので、通常何の問題もありません。それでも、やはり意識して確認すべきです。
 ここでは、私はドビュッシー第1狂詩曲の2⃣の6小節目(レミソシレミソシミ・レ・ド・シ)を吹いて、音程や、楽に高音域まで上がっていけるかを試しています。ミシェル・アリニョン氏がテスターとして製品の試奏をする際も、同じフレーズを試しています。この第2ステップを終えると、楽器の候補数も減ってきます。
 
3.音色と均一性
 最後に、どの楽器の音色に魅力を感じるかを確認します。その際、均一性も確認します。ゆっくりとしたフレーズを吹きながら、均一性を確かめ、楽器がどのように鳴っているかを聞きます。この最終ステップで大切なのは、心がときめく楽器を選ぶことです。選んだ楽器とずっと過ごしていくのですから、気に入った楽器を選びましょう。私はシューベルトの交響曲やプッチーニのトスカのような、ゆっくりで歌うようなソロのフレーズを吹き、心がときめく楽器を選びます。
 
● 試奏の順番チャート
 
 
購入後のポイント
 
● 慣らし作業
 新品の楽器は慣らし作業が必要です。そして、自分自身も楽器に慣れなくてはなりません。この作業は大変です。オーケストラ奏者は、他の奏者から「いつもと違うね。」と言われることもあり、もっと大変でしょう。
 私が”ディヴィンヌ“に替えたときは、楽器に合わせるために少し考えを変える必要があり、慣れるのに数週間かかりました。楽器を演奏すること自体は可能でも、新品の楽器はまだ性能を十分に発揮できませんし、楽器の特質を全て活かせるような吹き方を習得して、完全に楽器を操るためにも時間が必要です。”ディヴィンヌ”は独特な楽器で、音程や内径も他と異なります。例えば、一般的にクラリネットの(第4線の)レはいつも少し高いのですが、”ディヴィンヌ”は高くなりません。他の機種では、常にこの音を下げることを考えながら吹いていたのですが、”ディヴィンヌ”では他の音と変わりなく吹くことができるため、逆に慣れが必要になります。
 また、”トスカ“を吹き始めたときも、楽器の性能を最大限に活かすために数週間はかかりました。”トスカ”は”フェスティヴァル”と同じ内径ファミリーですので、”フェスティヴァル”を吹いている人は”トスカ”をすぐに吹けますが、内径ファミリーが異なる楽器から変える場合は、時間が必要です。
 なお、試奏する際のマウスピースは重要です。使用しているマウスピースによって選ぶ機種が変わってきます。ピッチが違うマウスピースもありますので、そのマウスピースと相性が良い機種があったり、合わない機種があったりします。少し複雑ですが、クラリネット、マウスピース、リードの選択は重要です。
 
● ベルの合わせかた
 〈ビュッフェ・クランポン〉では、ベルを管体と合わせる位置をテスターが決めています。最上級機種に関しては、ミシェル・アリニョン氏、ポール・メイエ氏、二コラ・バルディルー氏のような国際的なアーティストがテスターを務めています。クラリネットが製造される時、これらのテスターが楽器と相性の良いベルを15度ずつ回転させながら試奏し、最も良い「合わせ位置」を見つけると、購入者がその位置に合わせて組み立てられるように、正面に刻印を入れて、楽器が完成します。
 楽器を組み立てる際には、必ず全てのロゴをまっすぐに揃えましょう。見た目にも美しいだけでなく、楽器が最も良く鳴る位置だからです。
 
● お手入れ
 私自身のエピソードですが、昨年、楽器から拒否されているような感じがし始めて、調子が悪くなりました。技術者に見てもらったところ、トーンホールの一つが少し小さくなり、他のトーンホールにも埃が溜まっていました。そこで、穴を削り直し、掃除をしてもらったところ、調子の良い楽器に戻りました。スワブを何度も通しているうちに、トーンホールにゴミが溜まり、音程が狂ったり、楽器の響きや吹き心地が変わることもあるので注意してください。良い楽器を選ぶことも大切ですが、手入れすることも大切です。古すぎたり、手入れがされていない楽器を吹いている奏者は、鳴りの良い楽器を吹いている奏者の演奏に劣ってしまいます。
 毎日の手入れは大切です。管体やバレルの水をしっかり拭き取り、キーの手入れをします。そして、定期的に点検、修理をすることが大切です。
 
 BCJ クラリネット・アカデミーでの試奏
  
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