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ブラームス「ソナタ op.120 第1番」

国際的なクラリネット奏者として多彩な演奏活動を行い、パリ地方音楽院やローザンヌ高等音楽院で教鞭をとるフローラン・エオー氏。エオー氏がフランスで執筆中のブログの日本語版を、シリーズ化してお届けいたします。
 
 
フローラン・エオー氏 ブログ Vol.9
ヨハネス・ブラームス、クラリネットとピアノのためのソナタ op.120 第1番
 
1890年、ブラームスは2つのヴィオラ五重奏曲、opus 111を完成させ、自分の最高傑作と考えました。そのため、ブラームスは作曲家としてのキャリアに終止符を打とうと考えました。

ヨハネス・ブラームス(1833年~1897年)

 
1891年、マイニンゲン宮殿に滞在していたブラームスは、クラリネット奏者のリヒャルト・ミュールフェルトと出会います。そして、この類まれなクラリネット奏者からインスピレーションを受け、三重奏曲 opus 114、そして五重奏曲 opus 115が誕生しました。
 
1894年の夏、バート・イシュルで、ブラームスはクラリネットとピアノのための2つのソナタ opus 120を書きました。1895年1月、ミュールフェルトとブラームスによってウィーンで初演され、その後ライプツィヒなどいくつかの都市で演奏され、大きな成功を収めました。
 

リヒャルト・ミュールフェルト(1856-1907)ブラームスはミュールフェルトを「Fräulein Klarinette」(クラリネット嬢)と呼びました。

 
リヒャルト・ミュールフェルト(1856-1907)は、マイニンゲン公爵家のオーケストラのヴァイオリン奏者として音楽人生をスタートさせ、その後、同公爵家の首席クラリネット奏者となりました。バイロイト祝祭管弦楽団の首席クラリネット奏者でもありました。
 

オッテンシュタインのベールマン式クラリネットを演奏するリヒャルト・ミュールフェルト

 
ここで、一般的な音楽家、特にクラリネット奏者のために、ちょっとした音楽分析をします。題材は、クラリネットとピアノのためのソナタ op.120 第1番 ヘ短調のアレグロ・アパッショナートです。
 
この楽章には、2つの明確なテーマと、冒頭部分に由来する4つのテーマの、合計6つのテーマがあります。
まず、2つのテーマから見ていきましょう。
 
テーマ 1.
5小節目の叙情的なテーマで、表情豊かな開きのある音程が特徴です:

25小節目ではピアノが繰り返します:

自筆譜から、ブラームスは当初、クラリネットのテーマをオクターブ下で考えていたことがわかります:

138小節目でテーマが再提示されます:

テーマ2.
53小節目のリズムのエッセンスを取り入れたテーマで、ベン・マルカートと表記されています:

この楽章で注目すべきは、この序奏から生まれるテーマと展開の豊富さです:

これは、序章であると同時に、ブラームスが新たなテーマを生み出すための材料となります。枠1~3で囲んだ部分(上記)は、移調され、増加し、新しいテーマの始まりとなります:

 
この新しいテーマは、上昇する5度、それに続き上昇する短3の音程で始まります(4)。(4)を枠1の最後の8分音符3つと組み合わせることで、ブラームスは102小節目に別のモチーフを作り出し、展開部では変容して異なる調を「旅」することになります。

テーマ1は壮大なコーダで繰り返され、最初は葬送行進曲として(227小節)、クラリネットのsotto voceで再び取り上げられ(231小節)、ヘ長調となり(233小節)、大きなアルペジオで展開し、平和な楽園に向かって高まっていきます:

ブラームスが冒頭のモチーフから作り出したバリエーションや変容をご自身で発見し、楽しんでいただくために、私は楽譜を徹底的に分析するつもりはありません。
 
シェーンベルクは、ブラームスの「型通りの作曲家」としてのイメージを覆した最初の人です。彼は、ごく限られた素材(一つのモチーフや音程など)を曲の大部分に展開させるこの手法を「発展的変奏」と呼びました。
 
ウェーベルンも、ブラームスの自作への貢献を強調しています。「中心的な思想から他のすべてを発展させること!これこそ最大の一貫性だ… ブラームスはこの分野で、特別な存在である。」

 
「ドルチェとピアニッシモを真の詩で歌わせる F・エオーの柔軟性とエレガンスをここに見出すことができる。」(雑誌「レパートリー」、2003年5月号)
 
分析を超えて、この音楽を支配しているのは、ヴィルトゥオジティを排した詩的な内容です。クロード・ロスタンは、これらのソナタを「日記のように、自分のために書かれたもの」と表現しています。
 
出展:出版社 Wiener Urtext の楽譜
 
 
フローラン・エオー氏 関連リンク
※ ブログVol.1 「ドビュッシー、クラリネットとピアノのための第一狂詩曲」はこちら
※ ブログVol.2「プーランク、クラリネットとピアノのためのソナタ」はこちら
※ ブログVol.3「シャルル=マリー・ヴィドール、クラリネットとピアノのための序奏とロンド」はこちら
※ ブログVol.4「ストラヴィンスキー、クラリネットのための3つの小品」はこちら
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※ ブログVol.6「タンギングについて」はこちら
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※ 本記事は、フローラン・エオー氏のご承諾のもと、2011年5月5日に公開されたブログ記事を株式会社 ビュッフェ・クランポン・ジャパンが翻訳したものです。翻訳には最新の注意を払っておりますが、内容の確実性、有用性その他を保証するものではありません。コンテンツ等のご利用により万一何らかの損害が発生したとしても、当社は一切責任を負いません。

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