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ドビュッシー、クラリネットとピアノのための第一狂詩曲

国際的なクラリネット奏者として多彩な演奏活動を行い、パリ地方音楽院やローザンヌ高等音楽院で教鞭をとるフローラン・エオー氏。エオー氏がフランスで執筆中のブログの日本語版を、シリーズ化してお届けいたします。
 
 
フローラン・エオー氏 ブログ Vol.1
ドビュッシー、クラリネットとピアノのための第一狂詩曲
 
「感性に幻想的なところがあるのが、フランス音楽の素晴らしさだ。」ドビュッシー
 
1909年、パリ国立高等音楽院の理事会メンバーに選ばれたドビュッシー(1862-1918)は、1910年のコンクール課題曲として、クラリネットとピアノのための”第一狂詩曲”を作曲します。
 

クロード・アシル・ドビュッシー

 
ドビュッシーは音色と響きの美しさにこだわります。
彼は、「明晰さと優雅さ」や、「繊細で魅力的な優しさを持つフランスの伝統」を特長とするフレンチスタイルを追及しているのです。
 
ピアニストとして、低音のまろやかさ、倍音の空間への響きに気を配りながら、音作りに取り組みます。
“ラプソディー”では「柔らかく、表情豊かに」、次に「柔らかく、心に深く沁み入るように」演奏することを求めています。
“沈める寺”では、「深く静かに」、「やわらかな音の霞の中に」と記しています。
 
ドビュッシーはフォーレと同様、控えめな表現(緩叙法)とピアニッシモ、繊細な色合いと光を生み出す音楽家ですが、狂詩曲の最後の旋律が示すように、情熱を爆発させる方法も知っています。
 

ドビュッシーとサティー

 
そのため、「フレンチスタイル」の演奏には、ニュアンスの質、アーティキュレーションの明確さと正確さ、音色の多様さ、しなやかなフレージングなど、洗練された優雅さと同時に、華麗で名人芸的な演奏が要求されます。
 
テンポの柔軟性については、ドビュッシー自身が「朝の間に咲くバラのように、メトロノームの数字は1小節、最初の1回しか使えない!」と冗談交じりに語っています。
 
以下は、彼のパフォーマンスに対する同時代の人々のコメントです。
 
「ドビュッシーはアップライトのベヒシュタインと、共鳴する小型グランドピアノのブリュスナーを所有していました。エラールの中でも、彼は平行弦を張った古い楽器を好みました。それは、音色が素晴らしいだけでなく、素晴らしい正確性と機械的な軽快さを備えていました。“プレリュード”を発表するために選んだのは、ピアノでした。ドビュッシーは、ギーゼキングと同様の音の魔法をかけました。不正確なもの、歪なものは一切ありませんでした。リズムは正確でした。しかし、ドビュッシーは、私たち同時代の人間にはない個性、辛辣さや、ざわめき、野性、虎のようなものを加えています。」 ラザール・レヴィ
 
「比類なきピアニスト! 彼のタッチのしなやかさ、やさしさ、深さをどうして忘れることができるでしょう。ドビュッシーは鍵盤の上を優しく滑るように演奏すると同時に、鍵盤をぎゅっと握りしめ、並外れた表現力を持つアクセントを出すことができました。そこに彼の特別な技術、継続的な圧力の中の柔らかさ、そして、そこから彼が得た色彩があったのです。アタックに全く固さを感じさせない、ふくよかで強烈な音色を聴かせてくれましたた。」 マルグリット・ロン
 

ドビュッシーとストラヴィンスキー

 
ドビュッシーは、表現しようのないもののために作られた音楽を欲します。
 
「音楽は自然の表現にとどまらず、自然と想像力をつなぐもの」、「内なる風景」、「主観的な世界」にまで及びます。
 
ピアノのためのプレリュードのタイトルは、各曲の最後に、押し付けるのではなく、示唆するように、音楽の後に配置されています。タイトル(“デルフィの舞姫たち”、 “野を渡る風”、 “夕べの大気に漂う音と香り”、 “沈む寺”など)は額面通りに受け取るのではなく、想像力を繰り広げるための誘い、空想への煽りであり、インスピレーションへの「触媒」のようなものです。
 
したがって、アンセルメによれば、“ラ・メール”では、「タイトルが作品を照らし出す以上に、音楽が作品のタイトルを照らし出している」のだといいます。

ピアノ曲では、ドビュッシーは自分のテキストをとても自由に扱っています。“夜想曲”では、いくつかの修正案の中で迷い、結局「良さそうなのを選んでくれ!」と言ったと言われています。トスカニーニやアンセルメのものには、自筆の異なる修正が施されているものがいくつかある。ドビュッシーにとって、作品が決定的に完成することはありません。
 

Claude Debussy / Florent Héau, clarinet & Pascal Godart, piano / REMUSICA 2004

 
“第1狂詩曲”についても、いくつかの曖昧な点を除き、デュラン版にはいくつかの訂正があります。
 
– 次の抜粋の最初の小節では、2分音符の後の点が欠落しており、scherzandoという表示も欠落しています。
 

 
– 数字の5のところの最後の音符群は、16分音符の6連符です。
 

 
– 数字の5の4小節目後は、ディミヌエンド。
 
– 次の抜粋の2小節目では、16分音符のCを♮で演奏します。
– 5小節目では、リズムはここで修正されているとおりに演奏すること。
 

 
– 次の部分の2小節目の16分音符の最初のグループは、クレッシェンドして演奏してください。
 

 
個人的には、譜めくりしやすいレイアウトになっているペータース版が好きです。
このペータース版には、冒頭にドビュッシーがパリ音楽院の初見のために書いた魅力的な”小品”が収録されています。ほかにも板倉康明編など、優れた楽譜が沢山あります。
 
この最新版では、デュランの「大きな数字」が欠落していますが(下記の「12」という数字など)、それは追加すればよいのです。
 
また、数字の12の後の5小節目の音は、デュランが提案したように、以下の音に変更する必要があります。
 

 
最後に、ドビュッシーとその作品について書かれた魅力的な本を紹介します。
 
 

クロード・ドビュッシー、喜びと情熱、ジル・マカッサー/ベルナールメリゴー著

 
また、ドビュッシー自身によるアドバイスも紹介します。
「ドビュッシーらしく演奏するために、心を砕く必要はありません。ただ、ちょっとしたセンスの問題だと思います。」
 
 
 
フローラン・エオー氏 関連リンク
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※ 本記事は、フローラン・エオー氏のご承諾のもと、2010年2月5日に公開されたブログ記事を株式会社 ビュッフェ・クランポン・ジャパンが翻訳したものです。翻訳には最新の注意を払っておりますが、内容の確実性、有用性その他を保証するものではありません。コンテンツ等のご利用により万一何らかの損害が発生したとしても、当社は一切責任を負いません。

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