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Aude Camus Interview

〈ビュッフェ・クランポン〉のテスターを長年務めた20世紀のエコールフランセーズの巨匠ジャック・ランスロ氏の名前を冠した「ジャック・ランスロ国際クラリネットコンクール」が今年も開催されています。このたび、ルーアン地方音楽院で教育活動を行う傍ら、ジャック・ランスロ国際クラリネットコンクールを創設し、ディレクターを務めるオード・カミュ氏に、コンクールについてお話を伺いました。

 

  カミュさんはフランス国立管弦楽団やパリ国立オペラ座管弦楽団、ルーアン歌劇場管弦楽団などで演奏され、さらにソリストとしても国際的に活躍されていますね。ランスロ氏が教授として長く在籍されたルーアン地方音楽院では、氏と同じく教授を務められていらっしゃいます。どのような経緯でジャック・ランスロ国際クラリネットコンクールを創設されたのですか?

カミュ(敬称略) ランスロ氏は20世紀フランスを代表する芸術家の1人で、偉大な教師でもありました。ルーアンで生まれ、ルーアンの音楽院で42年間学生の指導を行い、2009年に亡くなりました。彼はずばぬけたカリスマ性を持った寛大な人物で、生徒たちのために非常に献身的に努力をしていました。彼にとって、教育は非常に重要な分野でした。
 私はランスロ氏に師事したことはありませんが、幼少の頃から、氏の録音やコンサート、教本(「ジャック・ランスロ流派」と言えるかと思います)から影響を受けてきました。1999年にルーアンの音楽院に赴任し、教育者としての使命を担った時、ランスロ氏に敬意を表し、彼の偉業を何らかの形で継続させることができないか考えているうちに、彼にオマージュを捧げたコンクールの開催を思いついたのです。

  「ランスロ氏にオマージュを捧げたコンクール」として、ジャック・ランスロ国際クラリネットコンクールにはどのような特徴があるのでしょうか。

カミュ ジャック・ランスロ国際クラリネットコンクールには3つの特徴があります。

 1つ目は、国際的な広がりです。ルーアンの町と音楽院はランスロ氏の活躍を象徴するゆかりの場所ですが、氏の活躍は国境を越えたものでした。特に日本とはつながりが深く、フランス木管五重奏団(メンバーにはフルートの巨匠ジャン=ピエール・ランパル氏も含まれていました)のメンバーとして頻繁に来日していましたし、エコールフランセーズ(フランス学派)を広めるためのマスタークラスも行っていました。さらに、彼に師事するため、浜中浩一氏や二宮和子氏など多くの日本人クラリネット奏者達が、ルーアンの音楽院に留学しました。こうして両国間の絆が結ばれていたため、本コンクールをフランスと日本で交互に開催することになったのです。
2か国で開催される国際コンクールというのは極めて珍しいケースだと言えると思いますが、それは、日本との交流やランスロ氏が行ってきたことを維持していくための有効な手段であり、本当に素晴らしい機会だと思っています。また、2か国で開催するということは、世界中の参加者を受け入れることができるコンクールだということも意味していると思います。

 コンクールの立ち上げにあたっては、日仏両国のメンバーで様々な要素について議論しました。手続きのルール、コミュニケーション、ロゴ、敬意の払い方、アイデンティティなどについてです。各コンクールにはそれぞれのアイデンティティがありまずが、本コンクールのアイデンティティは「ジャック・ランスロ氏」です。彼が成し遂げた素晴らしい偉業に、少しでも近づくことができるようなプロジェクトを実現させたいと思い、皆で話し合いました。ミシェル・アリニョン氏もまた、プロジェクトの発端から参加されてしており、特にコンクールの芸術面に関しては、深く関わっています。日本の実行委員長である二宮和子氏も、真に国際的なコンクールを開催するために重要な役割を果たしました。私たちは一緒に仕事をすることに意気込んでいましたが、文化の違いから、それぞれの国の特徴に合わせた形でコンクールを開催することに決めました。そのため、日本での開催時とフランスでの開催時では、細かい点において違いはあるものの、コンクールそのものや芸術的な面における違いはありません。

  開催国によって違いもあるのですね。

カミュ そうです。これからお話する内容は、特にフランスに当てはまるものです。

 コンクールの2つ目の特徴は、キャリア支援としての側面が強いことです。コンクールには一般的に「若い才能に受賞の機会を与え、キャリアにつなげる」という役割がありますが、フランスではその役割を拡大し、優勝者には、フランスやドイツなどでの2年間のツアー演奏をする機会が提供されます。このツアーにはオーケストラとの共演も含まれます。若い音楽家が芸術に専念できるように、入賞者に金銭的な援助をすることも重要ですが、公の場で演奏する機会を与えることは、それ以上に重要だと考えています。

 3つめの特徴は、教育に力を入れていることです。本コンクールは、演奏家として国際的に活躍する審査員、コンクール参加者、音楽院の学生のほか、興味を持ってくださった全ての方々の間で、感動の共有や対話が活発に行われるように企画されています。コンクールの最後には審査員のメンバーとプロの演奏家を招いたガラコンサートを開催し、フランスでは音楽院の学生もガラコンサートに出演します。さらにフランスの場合、期間中に無料のマスタークラスも開催しています。

 また、クラシックから現代まで非常に幅広い作品と、開催の度に特別に作曲された委嘱作品(これまでのところ、これらの委嘱作品は日本の作曲家によって書かれています)を含むプログラムが課題曲になっていることも、候補者にとっては幅広いレパートリーを学ぶ良い機会だと言えるでしょう。

 そのほかにも、フランスのコンクール主催団体「ジャック・ランスロ国際クラリネットコンクール協会」は、コンクールが開催されない年にも教育的な活動を行っています。障害を持つ子供たちのためのクラス、農村部でのクラス、入院している子供たちのためのクラス、MJC(Maison des Jeunes et de la Culture=青少年文化センター)との科学と音楽のワークショップ(音、即興、リサイクル素材を使ったクラリネットの製作、プロのアーティストとのコンサート)などです。ジャック・ランスロ氏と出会った子どもたちは、彼との出会いを深く心に刻んでいました。私たちの教育活動においても、彼の精神に寄り添うように心がけています。そして、それらの活動は全て無償で行われています。

  フランスの「ジャック・ランスロ国際クラリネットコンクール協会」は、一般的なコンクールの枠に留まらず、多角的にクラリネット奏者を育成しているのですね。

カミュ そうですね。しかし、それはフランスだけの特長ではありません。日本では、コンクールの開催に協力くださっている一般社団法人日本クラリネット協会ほか様々な団体が、幅広い活動を行っていると聞いています。

  ジャック・ランスロ国際クラリネットコンクールは、数あるコンクールの中では比較的新しいコンクールだと言えるかと思いますが、今後の抱負について教えてください。

カミュ ジャック・ランスロ国際クラリネットコンクールは、2012年から開催されています。第1回開催時には、ルーアン地方音楽院のホールが「ジャック・ランスロ講堂」と命名され、ランスロ氏の精神を受け継ぐという決意を音楽院も表明しました。その後コンクールは隔年で開催され、毎回優秀な若者が参加し、プロの奏者として羽ばたいています。現在、ジャック・ランスロ国際クラリネットコンクールは、70年以上の歴史を持つミュンヘン国際音楽コンクールと比較されることもあるほど高く評価されてきています。
 ランスロ氏の精神に基づいた活動の継続、伝達、継承、といった、氏にオマージュを捧げる行為が確実に未来につながるよう、これからも様々な活動を長く続けていきたいと考えています。

  ありがとうございました。

※ 2020年にフランスで開催予定のジャック・ランスロ国際クラリネットコンクールの公式ウェブサイトはこちらからご覧ください。
※ 2018年に開催されたジャック・ランスロ国際クラリネットコンクールに関する記事
  ミシェル・アリニョン氏 インタビュー
  武田忠善氏 インタビュー
  四戸世紀氏 インタビュー
  アレッサンドロ・ベヴェラリ氏 インタビュー

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