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対談:プロフェッショナルモデルを語る

ジャック・ランスロのフレンチスタイルを受け継ぎ、彼が開発し愛した〈ビュッフェ・クランポン〉のクラリネットを使い続ける武田忠善氏。武田氏に師事し、その音を目指して〈ビュッフェ・クランポン〉を使ってきた佐藤拓馬氏。そんなお二人に、現在お使いの楽器“レジェンド”、“トスカ”を選んだ理由や、〈ビュッフェ・クランポン〉のプロフェッショナルモデルのラインナップについてお話を伺いました。(取材:今泉晃一、写真:各務あゆみ)

  現在、武田さんは“レジェンド”、佐藤さんは“トスカ”をお使いですが、その楽器を使っている理由を教えてください。

武田(敬称略) これまで50年以上、〈ビュッフェ・クランポン〉のいろいろなモデルを使ってきました。今は“レジェンド”を使っていますが、その前は“トスカ”、その前が“フェスティヴァル”と、いわゆる「“R13”の系列」とメーカーが位置づけているものを長く使ってきました。“RC”も好きなんですけれどね。“トスカ”から“レジェンド”に替えたのは、ブラームスやシューマンなどドイツものを吹くときの深みのある音を求めたいと思っていたときにちょうど“レジェンド”が発売され、音の質感とか、下から上まで変わらない音の太さなどがいいなと思ったからです。

私は演奏会を聴いた人から「常に進化していますね」と言われます。とても嬉しいことです。それはまず音楽の進化があり、音楽に伴う音色の変化があると思うんです。自分で過去のCDを聴くと、テクニックもすごいしいい音だし「うまいなあ」と思うのですが(笑)、プーランクもブラームスもシューマンも全部同じように吹いている。それはダメですよね。私はフランス音楽を勉強したくてルーアン音楽院でランスロ先生に習いましたが、クラリネットの名作と言えばブラームス、シューマン、モーツァルトといったドイツものもあるわけです。そういう深い味わいがある曲を勉強しているときに、「この音楽に合う音色はどれだろう」などとチョイスしているうちはまだダメで、まず「この音楽をしたい」というものがあって、音は自然に付いてくるものなんです。そのときにすっと対応してくれたのが“レジェンド”でした。

要は、自分が少しずつ進化してきた過程において、使うモデルも変わってきたということなんです。何かが気に入らなくて替えたわけではなく、そのときに自分に一番合う楽器を使ってきたという気がします。

佐藤(敬称略) 私の場合、高校1年生のときから武田先生に習っていたので、自分にとってはクラリネットの音と言えば武田先生の音なんです。だから迷わず武田先生が長く吹いていた“トスカ”を選び、その後もずっと使い続けています。

  佐藤さんの場合、いきなりプロフェッショナルモデルから入り、早いうちに“フェスティヴァル”、そして“トスカ”に買い替えたわけですが、その恩恵は何かあったと思いますか。

佐藤 先生の真似をして、早く追いつきたいと思ったときに、できるだけ先生に近い機種を選ぶことで、やりやすくなりましたね。

武田 彼は学生の頃は真似ばかりしていました(笑)。日本で最初にジャック・ランスロ国際クラリネットコンクールが行なわれたときに、予選が録音審査だったのですが、私と一緒に審査員をしていたエマニュエル・ヌヴーが「ミシェル(アリニョン)にそっくりな人がいた」と言うわけです。すぐに佐藤君だとわかりましたよ。実は私にもそっくりだったわけですが(笑)。

武田忠善氏

佐藤 学生のときはお手本とする人をひたすら真似していましたね。でもそれが上達するのに一番早いと思います。

武田 確かに、本当の意味で真似ができたらすごいことですから。私も浜中先生に、「お前は俺の悪いところばかり真似してる!」と言われたことがありました。本人は悪いくせだと思っているところを、こちらは個性だと感じて真似していたんですね。同じことを佐藤君にも感じました(笑)。今はもちろん違いますよ。皆に認められる音でなければ、シエナ・ウインド・オーケストラのコンサートマスターなど務まりませんから。

佐藤 とにかく当時のクラリネットの音は、武田先生とかアリニョン先生の音しか頭にありませんでした。その真似のままコンクールで賞は取れたのですが、その後オーケストラのオーディションなど1次で落ちて、「どうしてだろう」と考えてもう一度基礎から見つめ直すということをしました。それまでは「聴いた音を出す」ということをやっていたのですが、自分で「こうするとこうだから、こういう音が出る」と考えて音を出すようになった結果、オーディションもうまくいくようになりました。

“トスカ”という楽器は、先生方を真似していたときの吹き方にも応じてくれたし、自分の吹き方というものを固めていったときにも対応してくれたので、実にさまざまな吹き方ができるという印象があります。

武田 そうなんです。“トスカ”は「誰が聴いても“トスカ”の音がする」とよく言われますが、柔らかでよく響いて、自分が思っているより遠鳴りする楽器なのでそう言われるわけです。でもそこから自分の音にしていかないといけない。

佐藤 実は今、新しく発売された“BCXXI”に魅力を感じているところです。あの楽器は、僕がやりたいと思う吹き方に合うんですよ。吹奏楽で使ってどうか確認してみないといけないのですが。

比べてみると“トスカ”の方が音も太く、太い息が必要で、コントロールしなければならない質量が大きい感じがあります。コントロールするべきことが多いということはできることが多いということでもありますが、“BCXXI”は細めに鳴るので、コントロールする際の負荷が減るんです。でも、コントロールの量が減っても、“BCXXI”ならできることの幅は変わらないのではないかなと感じているところです。

武田 “BCXXI”はいろいろなことがコントロールしやすいし、吹きやすいですよね。これまでより下管を長くしていて、最低音もE♭になっています。クラリネットの特長はやはり低音ですから、そこをアピールできる楽器でもあると思います。

  佐藤さんはコンサートマスターということで、自分の音と求められる音に差を感じていますか。

佐藤 まだシエナ・ウインド・オーケストラのコンサートマスターになって日が浅いのでわからないことも多いのですが、自分が普段出していた音だと、吹奏楽のコンサートマスターをするには張りが足りなかったように感じます。それだと音で指示することがやりづらい。学生時代には「鳴りすぎないように」と音を作ってきたこともあって、僕の音は細めというか、それほど強くない音なのですが、コンサートマスターをするときには十分に聴こえさせられる音を出すことも必要になってきます。最初の頃はよく「聴こえない」と言われて、たとえばリードを重くするなどセッティングは変えましたが、“トスカ”という楽器は十分対応してくれています。

佐藤拓馬氏

武田 少し話が横道にそれますが、国立音大にはストラディヴァリウスのヴァイオリンが2丁あって、以前はNHK交響楽団の歴代コンサートマスターに貸していましたが、今は本学の教授でもある永峰高志さんが使っています。彼と最初にモーツァルトのクラリネット五重奏曲を演奏したとき、ヴァイオリンの音がものすごくよく鳴っていました。ところが本人に尋ねると、「自分には頼りないくらいの音しか聴こえない」と言うんです。“トスカ”にもそれと似たところがあるのかなと感じています。自分が吹いていると細く感じるのですが、客席にはものすごくよく届くんですね。

今の佐藤君の話も、最初は「聴こえない」と言われたかもしれないけれど、全体を聴いてその中でコンマスとして響かせられる音を作ろうと意識した結果、シエナ全体のサウンドが変わったと思いますよ。

  〈ビュッフェ・クランポン〉のクラリネットは、“トスカ”をフラッグシップとする「R13系統」、“ディヴィンヌ”を頂点とする「RC系統」、そして“レジェンド”を頂点とする「トラディション系統」という、大きく3つの系統があるとされていますが、実際に吹いてみてどのように感じますか。

武田 確かに〈ビュッフェ・クランポン〉の楽器は、トーンホールの開け方や管内部の形状など、設計の部分で“トスカ”、“ディヴィンヌ”、“レジェンド”と3系統に分類できます。私が使っている“レジェンド”は、”トラディション”/“GALA”につながる系統とされていますが、むしろ“トラディション”がその名の通り、“BC20”という伝統的な流れを汲む音のように感じます。

佐藤 “ディヴィンヌ”は自分のものとして使ったことはないのですが、ちょっと軽めの音のイメージになります。音が出た瞬間にフワッと響くような印象でした。

武田 “ディヴィンヌ”は“RC”/“プレスティージュ”の最上位モデルということで、共通する柔らかさを持っています。学生が吹いているのを聴くと、“ディヴィンヌ”の音は明確にわかりますね。自分では使わないけれど“ディヴィンヌ”を否定しているわけではなくて、その特徴が好きな人にはぴったりくると思います。

大事なことは、同じメーカーの中で、プロフェッショナルモデルのベーシッククラスからフラッグシップに至るまで、個性の異なるモデルがそろっていて、様々な奏者の求めるものに応えられるということです。なにしろフラッグシップが3種類もあるわけですから。しかも、さらに楽器を進化させるべく研究を続けているという姿勢がすごい。

でも、さきほど休憩時間に“レジェンド”と“トスカ”でデュエットをやりましたが、聴くとたぶんどっちがどっちかわからないと思います。佐藤君と私が師弟関係ということもありますし、何より本人の音がしているので、楽器の違いははっきりと出てこないんですね。

要するに、「この楽器はこういう音だから」ではなく、「自分が求めるものに一番合う楽器」という選び方。これがもっとも正統的な選び方だと思いますよ。

取材の途中で「久しぶりに一緒に演奏しよう!」と武田氏(写真左)が楽譜を取り出され、「ええっ!」と驚きながらも嬉しそうに応じられた佐藤氏(写真右)。取材班だけが観客の贅沢な空間で、美しいデュエットの音色が響き渡った。 (演奏の様子をこちらからご視聴いただけます。)

  では、“R13”や“RC”といったベーシッククラスからさらに上位のモデルに替えるタイミングは?

武田 ホールで大勢に聴かせるにはパワーが必要です。それにはまずパワーのある吹き方をしなければなりませんが、そうなったときに“R13”クラスでは物足りなく感じるケースも出てきます。そのタイミングでしょうね。

佐藤 「パワー」というのは、「響きの量」と言い換えていいかもしれません。さっきの武田先生のお話にもありましたが、例えばストラディヴァリウスのような楽器と一緒にやるときに負けないように響かせないといけない。そういうときに上位モデルでないと太刀打ちできない場面が出てくるのではないでしょうか。

武田 だからと言って、息をたくさん入れて鳴らせばいいということとは違います。佐藤君の言ったように、「パワー」という意味合いは単純に「大きい音が出る」ということではありません。自然に吹いたときにそれに十分反応して響いてくれるような楽器ということです。

  佐藤さんは、“フェスティヴァル”から同じ系統の上位モデルである“トスカ”に替えたとき、どう感じましたか。

佐藤 昔のことではっきりとは覚えていないのですが、“フェスティヴァル”の方がよくも悪くも息を入れたままの音が出ると感じました。それに対して“トスカ”は楽器自体が響いてくれるんですね。だから僕も、同じ感覚で吹いた結果、吹きすぎてしまったわけです。でも息をコントロールして音を作ることをしていった結果、“トスカ”の方ができることはずっと多くなりました。例えば高校生で“トスカ”を持つというのも全然ありだと思いますよ。

武田 特に音大を受験する人には多いですね。ただ初心者にはさすがにもったいないかな。「もうちょっと苦労してから使え」と言いたくなる(笑)。その前に別の楽器で試行錯誤して音の出し方とか息の入れ方を身に付けてほしい。その楽器と一緒に自分が進化してから、フラッグシップの3モデルから選ぶというのがいいと思います。

言ってみればフラッグシップモデルというのはオートマのF1マシンみたいなものですから、誰でも運転はできるかもしれないけれど、F1レーサーが運転したときに本領を発揮するようにできているんです。われわれはクラリネットに関してはF1レーサーのようなものですからね。フラッグシップモデルというのはその要求に応えられる楽器なんです。

  最後に、製品としての〈ビュッフェ・クランポン〉らしさとは?

武田 〈ビュッフェ・クランポン〉のルーツはジャック・ランスロ先生と工場長であったロベール・カレさんが作った“BC20”とその発展形の“R13”であり、それをベースとして、さまざまな奏者の要求に応えるべく、現在に至るラインアップを構築してきました。そこには、ランスロ先生が後継者と認めたミシェル・アリニョンとの協力関係もあります。つまり、〈ビュッフェ・クランポン〉の楽器は、奏者と製作者が常に歩みを共にしてきたからこそ、ここまで来たと言うことができるのです。

  ありがとうございました。

※ 武田忠善氏が使用している“ レジェンド ”の紹介ページは以下をご覧ください。
※ 佐藤拓馬氏が使用している“ トスカ ”の紹介ページは以下をご覧ください。

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