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千葉直師氏 My Story (vol.2)

ウィーン国立アカデミーに留学後、NHK交響楽団奏者、東京都交響楽団首席奏者を務め、長年にわたり後進の指導も行ってきた洗足学園音楽大学大学院 名誉教授千葉直師氏。楽器をはじめたきっかけや、留学時代、オーケストラでの活躍など、ご自身の「自分史」を振り返っていただきました。(インタビュー:今泉晃一 2020年9月1日 東京にて)
※ 本ページは後半部分です。記事前半はこちらからお読みください。

都響からN響へ。そして再び都響へ

  千葉さんのクラリネットにはウィーンの響きを感じますが、それをビュッフェ・クランポンというフランスの楽器で出しているのが不思議なところです。
千葉 ウィーンのクラリネットの音は太くて暗くて、とても柔らかく、独特の良い音ですよね。向こうに行ったとき、一度だけイェッテルに「楽器を(ウィーン式に)替えないか」と言われたことがありました。でも自分としてはウィーンに残って吹くつもりはなかったし、小さい頃からずっとビュッフェ・クランポンを吹いてきたので「替えない」と答えました。
ビュッフェ・クランポンでウィーン風の音を出すには、とにかく硬いリードを使う必要がありますが、そうするとすごくきつい。普段は4番のリードですが、当時は5番で吹いていました。でも そうやって、楽器はそのままで音にウィーンの香りを付けたいと思って練習していました。

  帰国して後の1979年に、小さいころから演奏を聴いてきたNHK交響楽団に入団されたわけですね。
千葉 当時の都響がまだ若いオーケストラであり、メンバーも若い人ばかりで和気あいあいとやっていたのですが、N響に入ったらベテランぞろいで怖くてね(笑)。クラリネットも浜中(浩一)さん、内山(洋)さん、三島(勝輔)さんと、親父と一緒に吹いたことがあるような大先輩ばかりです。いとこの千葉馨さん(ホルン)にも「おい、聴こえねえぞ」と怒られたりしてね。怖かったけれど、いろいろな名指揮者の元で演奏できたので、とても勉強になりました。
そうして5年ほど経った頃に、都響でホルンを吹いていた笠松(長久)さんに「都響に戻って来てよ」と言われたので「おう、頼むよ」と返事をしました。そうしたら彼が都響の主幹に話してくれて、1984年に都響に戻ることになりました。今度は首席だったので、ウィーンで勉強したことをときどきでも出せたらなあ、と思いながら演奏していました。

  最後にまた都響に戻ったというのは、やはり相性がよかったということでしょうか。
千葉 私が都響を辞めてから5年間、結局クラリネットを1人も取らなかったそうです。誰か入っていたら戻れなかったわけですから、縁があったのでしょうね。しかも都響のクラリネットは3人とも親父の弟子で、昔よくうちに遊びに来ていたくらいですから、同じ門下ということでやりやすかったのかもしれません。
ところが50歳のときに洗足学園の音楽大学の教授になるという話があり、そうなると当時はオケを辞めなければなりませんでした。「オケでは結構吹いたし、もういいか」と思って1998年に都響を辞めたのですが、その後4年間は客員首席奏者として演奏していました。

「要するに、R13の鳴り方が好きなのかな」

  ところで、クラリネットを始めてから今に至るまでずっとビュッフェ・クランポンの楽器をお使いとのことですが、今メインで使われているのは?
千葉  R13です。ウィーンに留学したときもR13を吹いていました。特にA管は、パリに行って(ジャック)ランスロ先生と一緒に選んだ覚えがあります。日本に帰って親父に見せたら、「それよりもこれを使え」と言って見せてくれたのが、ランスロが日本に初めて来たときにお土産として持ってきてくれたBC20のA管とB♭管でした。その楽器がまた素晴らしくて、特にA管がよかった。その楽器を受け継いで、N響を辞めるまでずっと吹いていました。
ただあるときB♭管を修理に出したら、急に鳴らなくなってしまったんです。「それならR13にしよう」と思ってビュッフェ・クランポンで50本ずつ3回選ばせてもらいました。1回目、2回目に良さそうな楽器を選んでおいて、「3回目でもっといい楽器がなければこれに決めよう」と思いながら、3回目の1本目を吹いた瞬間に「これだ!」と。
それから長年そのR13を使い続けていたのですが、普段練習するときはB♭管を使うので、くたびれてきてしまいました。「そろそろ替えないといけないな」と思いながら、生徒の楽器を選定するときに「自分のための楽器が見つからないか」と思い続けていたんです。でも「これ」という楽器に出会わない。
そうこうしているうちに、2015年の190周年を期に、ビュッフェ・クランポンのロゴマークが変更されることになりました。「BUFFET Crampon」の文字を丸で囲んだ旧マークを小さいときから見て育ったので、あれじゃないとダメなんですよ(笑)。だからR13のマークが変わる前に、「最後にもう1回だけ選ばせてよ」とお願いして、30本吹かせてもらったんです。そうしたらそのうちの1本が素晴らしく鳴る楽器でした。やっと見つかったそのR13を、今も使っています。

   R13のどういうところが気に入っているのでしょう。
千葉  まず、音の余裕があるというか、幅があるというか、吹いている人によってその人の音になるところでしょうか。
自分のイメージしている音で鳴ってくれる楽器である、とも言えます。クラリネットの音って、明るすぎるよりも暗めの方がいいですよね。オペラでも、哀愁を帯びるような場面で必ずクラリネットが使われるじゃないですか。《椿姫》の第2幕でヴィオレッタがアルフレードに手紙を書く場面も、クラリネットのメロディが延々と流れる。あれが明るい音だったら様にならない。泣けてくるような音じゃないと。《トスカ》の〈星は光りぬ〉も沈んだ音がいいでしょう? 日本の映画でも、哀愁のある場面ではクラリネットが流れていることが多いです。『男はつらいよ』のメロディもそうですよね。もちろん、曲や場面によっては華やかな音も出さなければいけないわけですが。
小学生のときに初めて持った楽器もR13だったし、要するにR13の鳴り方が好きなのかな。R13に限らず、ビュッフェ・クランポンの楽器全般に言えることですが、自然によく鳴るんですよね。変にこぢんまりしないから、オーケストラの中で自分の音が「ストーン」と通るんです。しかも良い音でね。そんなところも気に入っています。

   ありがとうございました。

※ 千葉氏が使用しているR13の紹介ページはこちらをご覧ください。

※ アーティストインタビュー一覧はこちら

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