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P.トーンドル氏 レジェンド・ハイブリッドを語る

アメリカの名門オーケストラ、フィラデルフィア管弦楽団で首席オーボエ奏者として活躍し、〈ビュッフェ・クランポン〉オーボエの開発を担当するテスター、フィリップ・トーンドル氏(以下敬称略)。2023年に発売され、世界中の奏者の注目を集めるオーボエ新製品“レジェンド・ハイブリッド”について語っていただきました。(通訳:壇野直子、2023年 東京)
 
  この秋、日本でも“レジェンド・ハイブリッド”が発売されました。トーンドルさんは、フィラデルフィア管弦楽団、ヨーロッパ室内管弦楽団、水戸室内管弦楽団、サイトウ・キネン・オーケストラと、様々なオーケストラで活躍されていますが、楽器と仕掛けは何をお使いなのでしょうか。
 
トーンドル 楽器は“レジェンド・ハイブリッド”とグレナディラ製の“レジェンド”です。両方を使うこともありますが、最近は新しいモデルであるハイブリッドを吹くことが多いです。
 
 リードは3種類のリードを使っています。初心者の頃から使っているのは、ショートスクレープです。先端の表皮が削られている部分が比較的短いリードで、V字の削り出しのものを使っています。
 
 2つ目は、アメリカンスタイルのロングスクレープです。先端の表皮が削られている部分が比較的長いリードです。リードの開きを保ち、ウィンドウズを支えるため、レイルに強度があります。この強度のおかげで深みのある音色を求めることができます。
 
 3つ目は私のオリジナル。作り方はハイブリッドです。楽器と同じですね。笑。ガウジングやほかの工程はショートスクレープのようにしますが、ロングスクレープなのです。バロックオーボエのリードの削り方からヒントを得たハイブリッドリードです。
 
 チューブはいつも同じものを使っています。Guido GhettiのChiarugi 2 AurumとChiarugi 2 Rhodiumです。長さは47mmです。この2種類のチューブは音をしっかり作ってくれるので、とても気に入っています。
 
フィリップ・トーンドル氏の作業場
 
  2020年から〈ビュッフェ・クランポン〉の開発プロジェクトに参加されていますが、〈ビュッフェ・クランポン〉のオーボエの魅力はどのような点にあるとお考えですか。
 
トーンドル 音色です。ずっとアルブレヒト・マイヤー氏が奏でる〈ビュッフェ・クランポン〉の音色に惹かれていました。当時、彼はグリーンライン製の“プレスティージュ”を吹いていましたが、世界で一番美しいオーボエだと思っていました。私にとっては音色が〈ビュッフェ・クランポン〉の魅力です。
 
  トーンドルさんが開発に参加された“レジェンド・ハイブリッド”の特徴を教えてください。
 
トーンドル 5つの特徴をご紹介しましょう。
 
 1つ目は「イノベーション」です。〈ビュッフェ・クランポン〉で初めて2つの異なる素材から1本のオーボエを作りました。〈ビュッフェ・クランポン〉の特徴的な素材グリーンラインと木材の結合です。これは今までにない革新的な組み合わせです。
 
 2つ目は音色です。この2つの素材から作られる最高の音の響きを完成させるために、内径の完璧なバランスを見つけるまで作業を重ねました。グリーンラインの性質を最大限に活かすためには、今までの内径を全体的に見直す必要があったからです。そして、新たな音色を得ることに成功しました。
 
 3つ目は安定性です。グリーンラインは硬く、高密度ですから、通常の使用なら壊れない素材です。この性質は楽器の安定性につながり、奏者にも安心感を与えます。演奏する上で一番使われている部分である上管にグリーンラインが用いられていることは、安定性の象徴であります。すなわち、信頼できる確かな楽器であるということです。
 
 4つ目は柔軟性です。高密度な素材グリーンラインは、奏者の吹き込んだ息に素早く反応します。息を入れて即座に音が鳴るということは、コントロールがしやすい楽器だと言えるでしょう。これは大きな強みだと思います。
 
 そして5つ目の特徴は、木製の下管です。丸みのある音色を奏者が探し求めるときに大いに力を発揮してくれます。オーボエ奏者にとって心地よい、適度な抵抗感がこの楽器にはあります。彼らは楽器が持つ色彩豊かで深みのある音色を感じることができ、その音色の中に身を委ねることもできます。
 
 これら5つの点が“レジェンド・ハイブリッド”の特徴だと私は考えます。
 
レジェンド・ハイブリッド
 

吹き易く、耐久性が高い“レジェンド・ハイブリッド

 
   “レジェンド・ハイブリッド”には、トーンドルさんのどのような意見が反映されていますか。
 
トーンドル 吹きやすさです。オーケストラでも、ソリストでも、室内楽でも、教育現場でも、吹きやすくて、息を無駄に消費しない楽器が必要です。吹き心地がよく、演奏する喜びをもたらしてくれるオーボエ。毎日ケースから出して吹くのが楽しみになる、そのような楽器です。喜びという感情はとても大切です。
 
 そのうえ、現在のオーケストラは昔に比べて規模もサウンドも大きくなっています。ですから、“レジェンド・ハイブリッド”のような特徴を持つ楽器は私たちを大いにサポートしてくれるわけです。楽器自体が吹きやすければ、奏者は思い通りの表現ができ、音量豊かに響かせることができます。私にとって吹きやすさとは大切です。それは楽器自体に備わっているべきなのです。
 
フィラデルフィア管弦楽団(写真左)とヨーロッパ室内管弦楽団(写真右)で演奏するフィリップ・トーンドル氏
 
  吹きやすさを実現させるためには、楽器のどの部分を変える必要があるのですか。
 
トーンドル 内径ですね。内径は楽器の心臓ですから、時間をかけて試行錯誤をしなければなりません。やり過ぎだったり、足りなかったり、何度も実験を繰り返し完璧なバランスを見つけなくてはなりません。思い通りにいかないことが続くと、ときには悪夢のように思うこともあります。内径の研究をする際は、楽器には必ず固定点があるので、それを軸にもっと角度を開き気味にしたり、閉じ気味にしたり、このようにしながら最良のバランスを見つけます。大変な労力を要します。
 
 また、今の開発チームにいる私やマチュー・プティジャン氏が気に入るだけでなく、すべてのオーボエ奏者が好むような楽器になるように、開発チームの中だけでなく外部の声にも耳を傾け、その反応を冷静に受け止める必要があります。
 
  1つ目の特徴で挙げられたグリーンラインですが、複合材料のオーボエは他にも存在しています。
 
トーンドル そうですね。しかし、グリーンラインの技術を持っているのはビュッフェ・クランポンだけで、木材主体の複合材料を用いているメーカーはほかにないはずです。それらのメーカーは、フェノール樹脂やアクリル樹脂などのプラスチックで製造しています。
 
 グリーンラインは環境に配慮した素材です。内径やトーンホールなどを削る際に出る木くずを使用するので、資源のリサイクルになります。これはプラスチックの使用と比べて価値のあることです。そして、木材を基に作られた複合材は、プラスチックよりも音色に豊かさをプラスしてくれます。グリーンラインがプラスチックより楽器に適した素材であることを疑う余地はありません。
 
 グリーンラインは耐久性が高い素材で、プラスチックは、種類によるかと思いますが、暑さによって変化することがあります。特に暑さに対してはグリーンラインの方がプラスチックより耐久性があります。寒さに対する耐久性はほぼ同等でしょう。実は、“レジェンド・ハイブリッド”を開発するにあたり、我々はこの度、新しいグリーンラインを研究開発しました。評判がよく、すばらしいものができあがりました。
 
   “レジェンド・ハイブリッド”は何年程度使用することができるのでしょうか。
 
トーンドル ほぼ壊れることがなく、変形することもあり得ない楽器なので、半永久的に使い続けることができます。もちろん、経年劣化はしていくでしょう。でも、いつまでも限りなく使い続けることができます。
 
フィリップ・トーンドル氏
 
木製とハイブリッド、2つの“レジェンド”
 
  先に発売されたグレナディラ製の“レジェンド”との違いを教えてください。
 
トーンドル  “レジェンド・ハイブリッド”は抵抗感がグレナディラ製より弱いため、より鳴らしやすいです。“レジェンド”特有の丸みのある音色と優れた特徴を保ちつつ、木製に比べて吹きやすい楽器になっています。第一にこの点を挙げたいと思います。
 
 2つ目はグリーンラインを用いることにより、木製に比べて明らかに安定性が高いことです。そのため、楽器の技術上の問題の発生も少なくなるでしょう。オーボエ奏者にとっては嬉しい安心感があります。
 
 3つ目は内径が違うので、吹奏感が少し異なることです。グリーンラインを用いるために内径も再設計したので、きっと微妙に音程にも違いがあると思います。ただ、細かい違いはあるとしても、“レジェンド”の美学、“レジェンド”の音色は両方の楽器に存在しています。ハイブリッドは木製とかけ離れた楽器ではありません。音程の取り方などはどちらもほぼ同じです。楽器の吹きやすさは違いますが、これはハイブリッドの方が息のスピードに少し勢いが加わるからだと思います。ほかにも、音色の丸みにも違いがありますが、とても魅力的な楽器です。
 
  吹きやすく、安定していて、音色が良い、という3点が揃うハイブリッドと比較して、グレナディラ製の“レジェンド”の魅力はどのような点にありますか。
 
トーンドル グレナディラ製にも数えきれないほどの長所があります。ハイブリッドにはない魅力的な丸みのある音色を出すことができます。グレナディラ製は独特な性格なので、正に「レジェンド」なのです。
 一方、“レジェンド”の美学を結集したのみならず、多くのオーボエ奏者を惹きつける素材、グリーンラインによるメリットを付加したという点で、ハイブリッドはより万人向けの楽器です。グレナディラ製以上に音楽界に広まっていくでしょう。
 
  〈ビュッフェ・クランポン〉のオーボエの魅力は音色だと語られましたが、最後に、“レジェンド・ハイブリッド”の音色について教えてください。
 
トーンドル 太くてよく響く音です。音の中身が詰まっていてピントが定まっています。つまり、コアがしっかりしている音です。レジェンドは鮮烈な楽器です。この言葉が似合うと思います。奏者がたくさん働きかけると、それに対して多くのことを答えてくれる、寛容な楽器でもあります。そこが良いところで気に入っています。
 
  ありがとうございました。
 
〈ビュッフェ・クランポン〉オーボエ開発チーム。写真左からフィリップ・トーンドル氏、マチュー・プティジャン氏(モンテカルロ・フィルハーモニー管弦楽団第一首席オーボエ奏者)、レミ・カロン氏(ビュッフェ・クランポン オーボエ部門責任者)。© Edouard Brane
 
※ フィリップ・トーンドル氏が使用している楽器の紹介ページは以下をご覧ください。
〈ビュッフェ・クランポン〉オーボエ”レジェンド・ハイブリッド”、 “レジェンド”(グレナディラ製)

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