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滝上典彦氏 インタビュー

国立音楽大学、国立音楽大学附属中学高等学校および東海大学教養学部で非常勤講師を務め、Quartet颯、タッド・ウインドシンフォニーのメンバーとして演奏活動を行っている滝上典彦氏。その経歴や現在の活動、また愛奏するアルトサクソフォーン“SENZO”について、お話を伺いました。(取材:今泉晃一)

  サクソフォーンを吹き始めたのは?
滝上(敬称略) 中学のときは運動部でしたが、リコーダーなどを吹くのは好きだったので、高校に入ったら楽器をやりたいと思っていました。ではなぜサクソフォーンかというと、同級生に渡辺貞夫さんのレコードを借りて聴いてみたことから興味が湧いたのを覚えています。夏のコンクールまではシンバルをやっていたのですがそれも面白かったので、音楽全般が好きになりました。秋からはサクソフォーンに移ることができて、素晴らしい卒業生の先輩に刺激を受けたりしながら、夢を膨らませてがんばっていました。アンサンブルも、サクソフォーンカルテットで全国には行けませんでしたが、最終的にアンサンブルコンテストの東海大会で金賞までは取ることができました。

  個人的にレッスンなど受けていたのですか。
滝上 高校の非常勤の音楽の先生であった小坂法幸さんにサクソフォーンの個人レッスンを受けるようになりました。また、当時高校の先輩である岩本伸一さんが東京藝大の学生であり、大きな影響を受けました。そして岩本さんの先生でもある冨岡(和男)先生を紹介していただき、月に1~2回ほどレッスンに通っていました。

  国立音大ではどなたの門下に?
滝上 大室勇一先生という高名な方が亡くなられた後、下地(啓二)先生がちょうど東京佼成ウインドオーケストラを退団されて国立で教えるようになった頃で、4年間下地先生のクラスでした。もちろん下地先生を一番大事にしつつ、時々石渡先生のレッスン室をたずねては、いろいろお話をうかがいました。石渡先生は興味をもってお話しすれば何でも教えてくださる方ですので、ちょっとした機会にフラジオの指遣いを教えていただいたりしました。その後大学院に進学し、石渡(悠史)先生に師事し、音楽はもちろん人間性も学ばせていただきました。
 デファイエ先生に関しては気持ちが抑えられず、下地先生にご相談してマスタークラスに通いました。

  下地先生と石渡先生は、どんな教えでしたか。
滝上 下地先生は「アンブシュアをこうするとこうなる」というような技術的なことよりも、「こういう音楽をするためにはこういうフレージングで」のように音楽に直結すること、つまりいかに音楽的に演奏するかということを大事にされていました。音楽を彫刻作品に例えたりすることもあり、先生に言われたことをかみ砕いて考えることが最初は難しかったですが、想像力を掻き立てられる部分もあってだんだん楽しく感じるようになりました。
 それに対して石渡先生は理論的な内容で、調性や和声のこととか、楽器の構造的なこと奏法の関係とか、そういうことをよく研究されていて、実践的に教えてくださることが多かったです。

  さきほどおっしゃったデファイエ先生への憧れというのは?
滝上 高校時代に小坂先生に薦められてレコードを聴いたのが最初です。ソロはもちろんですが、特にカルテットの演奏に衝撃を受けました。実際にレッスンを受けてみると、唯一無二の他にはない音に感激しましたし、だからこそ表現はああいうニュアンスにつながるのかなと感じました。
何度か海外に行き、デファイエ先生のマスタークラスを受けましたし、キャンプ等にも参加しました。木造の広い会場でも、デファイエが演奏すると部屋中がワーンと鳴るような感じとか、ガラス窓などがジリジリと震えるような感じさえありました。とにかく音の通り方が全然違いましたね。卓越した演奏が出来ている受講生相手でも、自分の思っているのと違う解釈だとかなりきつい言葉で批判することがあり、それは逆にうらやましかったです(笑)。
 デファイエ先生は、「自分はマルセル・ミュールから習ったことを受け継いで、きちんと伝えたいんだ」ということをおっしゃっていました。「自分がこうだ」というよりも、「フランスのサクソフォーンはこういうものだ」ということを大事にされていたように思います。

  オーケストラで吹かれる機会も多かったとうかがっております。
滝上 さきほどお話しした岩本さんを含め、地元出身の先輩音楽家の方ですでにプロオーケストラに所属し演奏されている方いらして「すごいなあ」と思いましたし、自分でも様々な作品を聴いていく上でオーケストラが好きだったので、サクソフォーンという楽器を持ってオーケストラで仕事をしたいと常々思っていました。実際にある時期そういうお仕事をたくさんいただいたのはすごく嬉しくまた貴重な経験でした。
 思い出はたくさんありますが、挙げるとすれば、テミルカーノフ指揮のサンクトペテルブルク・フィルハーモニー交響楽団が来日したときにずっとご一緒させていただいたことでしょう。曲は《展覧会の絵》で、とても印象に残っています。指揮者のカリスマ性からか、マエストロに対して楽団員の背筋が伸びている感じがしました。(畏敬の念を持っているようでした)。音楽も素晴らしいものがありました。以前のレニングラード・フィルの時代と比べると金管など世界標準の音に近くなってはいましたが、それでも金管の鳴り方の強力さはすごかったです。トランペットが本気で吹くところでは、クラリネットの人が耳を塞ぎながら吹いていたりとか(笑)。楽団員の皆さんも、気さくな方が多かったです。プロコフィエフの《アレクサンドル・ネフスキー》という合唱の入った曲が急遽追加されて、テナーサクソフォーンを吹きました。めったに演奏しない曲をそんなオーケストラでできたのはよかったですね。プロコフィエフと言えばデュトワ指揮チェコ・フィルで《ロメオとジュリエット》を何公演かやらせてもらったこともありました。

  コンチェルトもいろいろと吹かれていますね。
滝上 名古屋芸術大学のウィンドオーケストラの定期演奏会で、ジルソンの《第1協奏曲》とドスの《スポットライト》を日本初演させていただきました。ドスはサクソフォーン4本のためのコンチェルトで、とても面白い曲ですよ。ちなみに、ドスのサクソフォーン1本の《ピルグリム・コンチェルト》はリサイタルでピアノと演奏しましたが、めちゃくちゃ難しかったです(笑)。オーケストラ・アンサンブル金沢とブートリーの《ディヴェルティメント》という曲もソロを吹かせていただきましたが、この曲のオーケストラ版が演奏される機会は少ないので、貴重な演奏をさせていただけてよかったです。

  以前は「はやぶさ四重奏団」、現在は「Quartet颯」でカルテットを続けてらっしゃいますね。
滝上 ずっとカルテットをやってみたいと思っていたところ、国立音大の卒業生で賛同してくれるメンバーとともに「はやぶさ四重奏団」を2011年に結成して、リサイタルも行ないましたし、2015年にはアルバム『VARIATIONS』も発売しました。これらは僕が考えていることをメンバーに話してプロデュースさせてもらいました。その後メンバーや担当パートが変わって「Quartet颯」の活動をしており、現在はテナーは公演ごとにエキストラに入っていただいています。
 2023年7月には倉敷で「ワールド・サクソフォーン・コングレス」という世界規模のイベントが開催される予定です。すでにコロナ禍で2年延期され、来年もどうなるかまだわかりませんが、開催されれば日本では2回めのコングレスとなります。前回2018年にクロアチアで開催したときには、僕たちもカルテットで参加しましたので、次もまた出演したいなと思っています。なお、「Quartet颯」のリサイタルは2022年11月17日にかつしかシンフォニーヒルズで行なう予定で動いています。
 2019年に発売した『QUARTET HAYATE』というアルバムも、僕が考えているイメージを元に始動したこともありましてプロデュースという形にさせていただいています。すべて日本の作曲家の作品で、酒井格さんは以前からの友だちで、あらためてお願いしたらすごくいい曲を書いてくださいました。田村修平さんはメンバーの大貫さんの紹介で依頼したのですが、すごく力のある曲です。倉知竜也さんと伊藤康英さんの曲は自分の青春時代に発表された曲ですが、それをもう一度やってみたいと思っていたところ、いろいろなご縁で収録することができました。想いを詰め込んだアルバムが特選盤に選出していただけたことに感激しました。

2019年にCDアルバム「QUARTET HAYATE」をリリースした際の「Quartet颯」の写真。写真左から、佐藤広理氏(バリトン・サクソフォーン)、滝上典彦氏(ソプラノ・サクソフォーン)、竹内沙耶香氏(アルト・サクソフォーン)、大貫比佐志氏(テナー・サクソフォーン)。

  アンサンブルグループとしては、どういう特色があるのでしょうか。
滝上 ひとつのコンセプトとして、全員が〈ビュッフェ・クランポン〉の楽器を使っているということが挙げられます。アルトは“SENZO”ですが、それ以外はプレスティージュで統一しています。もともと大貫(比佐志)さんがテナーを吹いていたのですが、〈ビュッフェ・クランポン〉のバリトンは順応するのに高い能力が必要なので、今は彼がバリトンを吹いています。テナーのエキストラの方にも、〈ビュッフェ・クランポン〉の楽器に関心を持って使っていただける方にご依頼しお願いしています。
 最初に〈ビュッフェ・クランポン〉の赤い楽器で4本そろえたときには、重厚感といいましょうか「こういう鳴り方をするんだ!」と本当に驚きました。カルテットでは自分はソプラノを吹いているのですが、全体に柔らかめで重めの音がするように感じています。ストレートの楽器ですが、ピッと真っすぐ飛んでいく音よりも響きが多く温かい音を目指してやっていますし、〈ビュッフェ・クランポン〉の楽器はそういう音を持ってるような気がします。

  〈ビュッフェ・クランポン〉の楽器にだいぶ思い入れがあるようですが、いつ頃からお使いですか。
滝上 高校生のときからです。最初の小坂先生もそうでしたし、高校の先輩の岩本さんもみんな〈ビュッフェ・クランポン〉でしたので、憧れるようになりました。その方たちの音が素晴らしかったのもあるのですが、透明度が高い、よく伸びる音という印象でした。最初に手にしたアルトは“S-1”の真鍮のモデルで、以来ほぼ〈ビュッフェ・クランポン〉です。その後“プレスティージュ”に替えて、それを使っていた期間が長かったです。現在は“SENZO”ですね。
 ソプラノは今も“プレスティージュ”を吹いていますし、テナーも“プレスティージュ”を吹いています。「颯」のエキストラの方が〈ビュッフェ・クランポン〉を持っていない場合はこれを使ってもらっています。アルトだけは“SENZO”なので、もちろん共通点はあるのですが、音の通り方など違う部分もあります。ある意味それが面白かったりするのですが、“SENZO”のテナーとかソプラノ、バリトンを待ち望んでいるところもあります。アンサンブルで音を重ねてみたいと思いますね。

  アルトを“プレスティージュ”から“SENZO”に替えて、どんな印象でしたか。
滝上 管体の材質が銅や真鍮などありますし、仕上げもいろいろありますがやはり〈ビュッフェ・クランポン〉と言えば赤い楽器ですので、最初は銅の楽器を選びました。 “プレスティージュ”はしっかり高密度の息で吹いて鳴らすみたいなところがあって、その感覚のまま“SENZO”を吹くと、どこか抵抗感の違いがあると感じたため、最初はネックを替えたりマウスピースを替えたりと試行錯誤していましたが、そのうちに金めっきや銀めっきの楽器が出るということを聞き、試奏してみたら、以前の“プレスティージュ”に近い感じで吹けるのが金めっきの楽器だったんです。新しいタッチも、以前のタッチも両方出せると感じて、今は金めっきを使っています。
 金めっきは音が明るめになるので、太めで落ち着いた音というのは銅めっきの楽器の方があるかもしれません。一方で真鍮製の“SENZO”は昔使っていた“S-1”に近いイメージがあって、反応が素直なところが魅力だと思います。

2019年7月にビュッフェ・クランポン・ジャパン「Salle Pavillon d’Or」で開催されたコンサートでは、ドスの《ピルグリム・コンチェルト》の演奏が披露された。

  “SENZO”ならではの魅力はどういうところだと思いますか。
滝上 音程は本当にいいですね。操作性も良くなっているし、新しい機構のおかげで音の抜けもいいです。それから、音域による鳴り方の偏りもなくより均一になっていますね。本体の設計の基本が変わっていないためでしょう、音色は〈ビュッフェ・クランポン〉としての統一感があり、その上で「こうだったらいいな」というところが改善されているんです。
 今使っている楽器は金めっきの影響か明るめの音がしますが、やはり〈ビュッフェ・クランポン〉の音ですね。抵抗感はちょっと強めで、特に右手のポジションの音の立ち上がりは“プレスティージュ”と似た感じもあります。ドスの《ピルグリム・コンチェルト》のような現代の技巧的な曲でも十分に対応できるレスポンスが良さを持っていますし、フラジオもよく当たるし、音程も定まりやすい。
カルテットでアルトを吹くと、エキストラの方に「その楽器、すごく良い音がしますね」と褒めてもらえるんです。「まあ、楽器ですよね」と思わないでもないですが(笑)、実際楽器のおかげです。他のメンバーが“SENZO”を吹いているのを聴いても、「良い音だなあ」と常々思っています。響き方がちょっと特徴的で、直線的に貫くような響きも出せるとは思うのですが、それよりも周りの空気が響いている感じが聴こえてくるところが〈ビュッフェ・クランポン〉ならではですね。
 基本的に落ち着いた中に「ここぞ」という強い表現もできる。音楽になりやすいというか、音楽的な思考回路に行きやすい、音楽をしたくなるような音色を持っているんですね。ですから、強い息で直線的に吹く吹き方よりも、声楽家が歌うような吹き方の人に合うような気がします。手を暖めたり、誰かに気持ちを優しく伝えるときのような息遣いに反応してくれる楽器だと思います。

  ありがとうございました。

※ 滝上氏が使用している〈ビュッフェ・クランポン〉アルトサクソフォーン“センゾ”の紹介ページはこちらをご覧ください。
※ 滝上典彦氏の最新の活動は、オフィシャルサイトからご確認いただけます。
※ クァルテット颯のFacebookページはこちら、YouTubeチャンネルはこちらからご覧ください。

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