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アレクサンドル・シャボ氏 Interview

パリ・オペラ座管弦楽団の首席奏者を務め、パリ地方音楽院、ヴェルサイユ地方音楽院、パリ12区立音楽院で若手奏者の育成を手がけるアレクサンドル・シャボ氏(以下、敬称略)。2023年9月開催のジャック・ランスロ国際クラリネットコンクールの審査、および、ビュッフェ・クランポン・ジャパン欧日音楽講座のための来日を控えた同氏に、書面インタビューを行いました。(2023年6月)
 
 
  ご出身と、クラリネットを始めたきっかけを教えてください
 
シャボ ちょうど音楽学校の隣に住んでいたので、両親が私を音楽学校に入学させてくれました。5歳の時です。そこで、ジャン=ポール・クレレ氏という素晴らしい先生に出会い、リコーダーを始めました。クレレ先生はクラリネット奏者でしたので、彼のもとで学び続けるために、クラリネットを始めることにしました。
 
  パリ国立高等音楽院に入学されるまでは、どのようにクラリネットを学ばれたのですか?
 
シャボ クレレ先生と3年間クラリネットを学んだ後、私はエヴルーの音楽院でジャン=クロード・ブリオン氏に師事しました。ブリオン先生はとても優れた教育者で、私のクラリネットに対する情熱を高めながら、試験に向けてしっかりとご指導くださいました。そして1992年、高等音楽院の入試の1年前に、彼は私をミシェル・アリニョン氏のもとへ送り出しました。
 
ミシェル・アリニョン
 
  ミシェル・アリニョン氏はどのような先生でしたか。
 
シャボ 私の音楽的、個人的な成長に最も大きな影響を与え、音楽家としての能力を開花させてくださったのが、アリニョン先生です。彼は完璧な芸術家であり音楽家です。レッスンでは生徒達が技術的、機械的、音楽的に改善すべき点を、即座に分析することができました。言葉数は少ないのですが、それは常に、私が上達するために何をすべきかを明確にイメージできるような厳選された言葉でした。また、彼が作品の構造を熟知していたことは、私が作品を理解するのにとても役に立ちました。先生は、よく生徒の楽器を使って模範演奏をしましたが、生徒の楽器から先生の出す音色や表現があまりにも素晴らしく衝撃的だったので、私もいつかその水準に到達できるように頑張ろうと心から思いました。
 
 パリ国立高等音楽院では、常に10人ぐらいの学生がアリニョン先生のレッスンを聴講していました。時には、同じオーケストラの入団試験に挑む学生ばかりが集まり、ほぼ全員が同じ曲で受講することもありました。アリニョン先生は、連続して4、5人の生徒のドビュッシーを指導することができましたが、同じ内容のレッスンをすることはなく、同じ語彙を使ったり、同じ箇所を強調したりすることもありませんでした。つまり学生は、1回レッスンに行けば、4回、5回分のレッスンを受講できたのです!
 
  パリ国立高等音楽院に、特に効果的だった練習法がありましたら教えてください。
 
シャボ 効果的な練習法、練習のリズムは人によって異なります。私は1日に数時間練習する必要がありましたが、常に集中し、自分の演奏に音楽的な意味を持たせるように努めました。それは、例えばスケール等の基礎練習においても同じです。スケールは、決してエキサイティングな譜面ではありません!しかし、フレージング、レガート、美しい音色などを作って、演奏することができます。
 
  シャボさんは現在パリ・オペラ座管弦楽団で演奏されていますが、その前はギャルド・レピュブリケーヌ管弦楽団に所属されていましたね。そちらでの経験について教えてください。
 
シャボ 私は1996年にギャルド・レピュブリケーヌ管弦楽団に入団しました。エキストラの演奏家を招かない楽団なので、楽団で演奏するためには入団試験に合格する必要がありました。入団後は、首席クラリネット奏者として、有名なソロの数々を初めて演奏することができました。入団前からこの楽団の評判や演奏水準の高さは知っていましたが、楽団に所属するアーティストのレベルは非常に高く、私が所属していた8年間で、ニコラ・バルデイルー氏、オリヴィエ・パテ氏、フランク・アメ氏、ヴァンサン・プノ氏、セバスチャン・バチュ氏…と肩を並べて演奏することができました。ギャルド・レピュブリケーヌ管弦楽団での経験は、その後コンクールに挑戦する際にも大いに役立ちましたし、勉強になりました。
 
アレクサンドル・シャボ氏
 

最も美しいクラリネットソロは、バレエやオペラのレパートリーの中にある

 
  その後、オペラ座で働くようになりましたね。なぜ、どのような経緯でオペラ座で働くことになったのですか?
 
シャボ オペラ座に関しては、最初はエキストラとして呼ばれ、その後、フィリップ・キュペール氏の後任選びのため開催された試験に合格して、入団しました。この試験に合格するために、私は全力を注ぎました!
 
 オペラ座は常に私を惹きつけてやみません。高等音楽院に在籍していた頃は、オペラ座の学生席を定期的に利用していました。音楽、演出、装飾、そして素晴らしい歌声など、総合的な芸術に魅了されました!私は、レパートリーやソリストの特性に応じて新しい音色を生み出すことができるオペラ座のオーケストラに、常に絶大な敬意を抱いていました。そして、先輩がた(モーリス・ガべ氏、ロマン・ギュイヨ氏、ジェローム・ジュリアン=ラフェリエール氏、ジャン=フランソワ・ベルディエ氏、フィリペ・キュペール氏など)のクラリネットソロを楽しみにしていました!今でもオペラを鑑賞する際には、突然新しい次元に導かれて、時間の流れが早くなったり(場合によっては遅くなったり!)することを感じるのが大好きです。
 
  パリ・オペラ座のクラリネット首席は、どのようなお仕事ですか。
 
シャボ パリ・オペラ座は350年もの間、パリの音楽生活の中心であり続けています。毎晩、オーケストラピットで演奏することは、とても特別な体験です。声楽を聴き、伴奏をすることに大きな喜びを感じています。音色、個性、フレージング、ビブラート、テクニックの多様性から、無限のインスピレーションを得ることができるのです。そして、最も美しいクラリネットソロは、バレエやオペラのレパートリーの中にあります。オペラ座では毎晩、重要なクラリネットパートが演奏されます。それと同時に、この仕事で、忍耐や、自分の演奏や楽器を周りに合わせることも学びます。年間130日もの夜の公演を、効率良くこなさなければならないのですから!
 
  オペラ座でのお仕事とは別に、長年室内楽にも取り組んでいらっしゃいます。特に、ヴァンドーム・カルテットを2002年に結成され、活動を続けていらっしゃいますが、こちらはどのような経緯で結成されたのでしょうか。どのような点がやりがいでしすか。
 
シャボ このグループは、ニコラ・バルデイルー氏、オリヴィエ・パテ氏、フランク・アメ氏、そして私の4人でギャルド・レピュブリケーヌ時代に結成しました。その後、オリヴィエがマーラー室内管弦楽団のソロクラリネット奏者に就任したので、私の弟のジュリアンがオリヴィエの後を継ぎました。
 
 ヴァンドーム・カルテットの活動で気に入っている点は、まず第一に、とても仲の良い友人同士のグループだということです。コンサートでは楽曲ごとに楽器を使い回しました(バスクラリネットからE♭クラリネットまで)!第二に、クラリネット四重奏団は小さなアンサンブルで、レパートリーも非常に限られているがゆえに、逆に自分たちの好みのレパートリーを自由に模索することができました。特に、ニコラと私は、有名なオペラやバレエ(カルメン、セビリアの理髪師、くるみ割り人形など)の変奏曲を書き、演奏会で楽しんでいました!
 

The Nutcracker, Op. 71a: I. Ouverture (Arr. for Clarinet Quartet)

 
  最近、特に力を入れている演奏活動があれば教えてください。
 
シャボ 現在、ニコラ・バルディルー氏と一緒に、古楽器によるモーツァルトの八重奏曲とグラン・パルティータの録音に取り組んでいますし、オペラのソリストたちと管楽器五重奏を作ったり、将来クラリネットの楽譜を出版するためにいくつかの編曲をしています。
 
  現在使用されている楽器について、どのような点を気に入っていらっしゃるか教えてください。
 
シャボ Bbクラリネットは”プレスティージュ“のグリーンラインを使用しています。選んだ理由は、素晴らしい音質、力強さ、深い響き、グリーンラインがもたらす安定性です。
Aクラリネットは “ディヴィンヌ“です。非常に幅広い音色のパレット、素晴らしい均質性、比類のない軽やかさが特長で、デザインも素晴らしいと思います!
 

教育活動を行っている3つの音楽院について

 
  パリ地方音楽院、ヴェルサイユ地方音楽院、パリ12区音楽院で教授をされていますね。それぞれどのような特徴があるのでしょうか?
 
シャボ パリ地方音楽院は、楽器演奏の専門課程、高等教育準備課程、演奏家課程、学士課程を設けています。学生は主に、パリとリヨンの高等音楽院、ローザンヌの高等音楽院(HEM)、その他ヨーロッパとアメリカなどの高等教育機関に進学するための準備をします。フローラン・エオー氏、フランク・アメ氏、ポール・メイエ氏と私は、学生たちに全力を尽くすよう求め、厳しく効率的な指導方法で学生たちをサポートしています。毎年、他の講師や生徒たちと一緒に、クラリネットアンサンブルのコンサートを開催しています。
 

Choeur de clarinettes du CRR de Paris : La Muerte del Angel – Astor Piazzolla –

 
 ヴェルサイユ地方音楽院では、ディプロマ「Diplôme d’Etudes Musicales」(DEM)の取得を目指す楽器演奏専門コースや、学士や修士課程があります。非常に充実したカリキュラムを提供している音楽院で、世界中から多くの生徒が集まっています。
 
 パリ12区音楽院でも、DEMの取得を目指す楽器演奏専門コースがあります。ここでは、パリ地方音楽院に直接入学できなかった学生を、1年後、2年後にしっかりとした準備が整った状態で再度入試にチャレンジできるように指導することが多いです。また、オーケストラコースで学ぶ学生もいます。これは、既に音楽学の学士号やDEMを取得している学生が、オーケストラやその他の入団試験の準備のために、私のもとで学ぶコースです。
 
  レッスンで心がけていることは何ですか?
 
シャボ 生徒のレベルや性格に合わせながら、改善すべき重要なポイントに的を絞って指導を行い、生徒が次回のレッスンに向けて何をすべきかをはっきりと意識できるようになることが、毎回のレッスンのゴールです。
 

ジャック・ランスロ国際クラリネットコンクール

 
  今秋、ジャック・ランスロ国際クラリネットコンクールの審査員として来日されますが、パリ国立高等音楽院の同級生であるニコラ・バルデイルー氏、松本健司氏も審査員を務められます。彼らとの音楽院での印象的なエピソードはありますか?
 
シャボ そうですね、彼らとの思い出はたくさんあります!パリ国立高等音楽院でレッスンを受け始めた頃のことは強く印象に残っています。私は地方の小さな音楽院から来たのですが、彼らの演奏を聴いて、入学時にこんなに上手な生徒がいるのなら、私も頑張らなければ!と思ったのを覚えています。
 現在、お二人は素晴らしいキャリアを持つアーティストです。素晴らしい個性を持ち、新世代のクラリネット奏者の演奏にインスピレーションを与えています。彼らと審査員をご一緒できるのは、大きな喜びです!
 
   ジャック・ランスロ国際クラリネットコンクールに期待することは何ですか?
 
シャボ 候補者達の演奏で幅広い課題曲を聴くことを楽しみにしています。このコンクールが彼らにとって実りある経験となることを祈っています。
 

欧日音楽講座

 
  2018年、2023年に、アリニョン氏の代理として、アリニョン氏から欧日音楽講座の講師に指名されていらっしゃいますが、前回参加された時の印象はいかがでしたか?
 
シャボ 欧日音楽講座で再び教える機会をくださったミシェル・アリニョン氏に、改めて感謝したいと思います。また、強い絆で結ばれているフローラン・エオー氏に会えることを嬉しく思っています〈ビュッフェ・クランポン〉は、常に、確立したアーティストと成長中の若いアーティストとの間の知識の伝達と出会いをサポートしてきました。私自身、30年前に学生としてビュッフェ・クランポンのアカデミーに参加したことがあります。私にとって、仲間意識、学び、発見に満ちた素晴らしい思い出です。ビュッフェ・クランポンによるアーティストに対する長期的な投資や支援は非常に重要です!
 
 来日することは、私にとっていつも大きな喜びです。学生たちの楽器へのこだわりと、音楽への情熱が大好きです。2018年に経験したすべての交流の瞬間に感謝しています。1週間共に過ごすことで、お互いをよく知ることができ、さらにモチベーションを高め、素晴らしい思い出をたくさん持ち帰ることができました。
 
  アリニョン氏が、自分の代わりにあなたをコンクールの審査員やアカデミーの講師に任命したのは、あなたを後継者の一人と考えられているからなのではないかと思います。あなたは、アリニョン氏のどのような点を引き継いでいるとお考えですか?
 
シャボ ミシェル・アリニョン氏の後を継ぐというのは、とても難しいことです。彼はクラリネットの巨匠の一人であり、器楽的、美学的、音楽的な観点で、非常に重要な足跡を残しています。フローラン・エオー氏、ニコラ・バルディルー氏、松本健司氏、カルロス・フェレイラ氏など、アリニョン先生に師事した我々は皆、彼の足跡を辿ろうとしているのではないかと思います。彼は私たちが成長できるよう、常に私たちの思考と知性を刺激してくださいます。それは、情熱、要望、問題提起からなる芸術の道であり、何よりも、彼が好んで言うように、「常に音楽と共にある」ことを心がけなければならない道なのです。
 
  今回のアカデミーに参加される方へのメッセージをお願いします。
シャボ 学ぶ意欲、好奇心、そして音楽への情熱に満ちた皆さんとお会いできることを楽しみにしています!
 
  ありがとうございました。
 
 
※ アレクサンドル・シャボ氏が使用している楽器の紹介ページは以下をご覧ください。
〈ビュッフェ・クランポン〉”ディヴィンヌ
〈ビュッフェ・クランポン〉”プレスティージュ

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