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柘植製“レジェンド”による初のデュオリサイタル

ソリストとして活躍し、桐朋学園大学の准教授を務める亀井良信氏。読売日本交響楽団のクラリネット奏者として活躍し、桐朋学園大学で非常勤講師を務める芳賀史徳氏。第一線で注目を浴びるお二人が、2022年7月7日、〈ビュッフェ・クランポン〉柘植製“レジェンド”で初のクラリネット・デュオ リサイタルを開催されるにあたり、お二人のご経歴や活動、また柘植製“レジェンド”とデュオリサイタルについてお話を伺いました。(取材:今泉晃一)

  まず、お二人の現在の主な活動について教えてください。

亀井(敬称略) 桐朋学園大学の准教授をしていますが、クラリネット奏者としてはソロをメインでやっています。管楽器のソロというとそこまで演奏の機会が多いわけではなく、世界的に見てもソリストとして挙げられる名前は限られています。ソリストとして生きていくのはそのくらい大変なことだと思っていますが、幸いチャンスをいただけることがあって、フランスから日本に戻って19年続けています。
大学で教えるきっかけを与えていただいたのは、村井祐児先生でした。僕が帰国して間もなく「日本には履歴書というものがあるから、書いて送ってください」と言われて、よくわからずに送ったら東京藝大から通知が来て、「非常勤で来てください」と。そこでの最初の生徒が芳賀君なんです。今は先生より立派になってしまって、僕がやりたかったオケマンになっています(笑)。

  どんな先生でした?

芳賀(敬称略) 当時からミシェル・アリニョンのようなフレンチ・スタイルに興味があったので、最初に亀井先生の音を聴いた瞬間に「これだ!」と思いました。思い描いていた音がそのまま目の前にあったのが衝撃的でした。僕自身も卒業してからフランスに留学して、亀井先生の先生であるアラン・ダミアンに習うことになりました。

  お二人とも目指していたところは同じだった。

芳賀 そうですね。大学に入る前から、欧日音楽講座のアリニョンの講習会に出ていましたから。そういうこともあって、フランスに興味を持つようになりました。

亀井 私の場合は、アリニョンがフランス人だったからフランスに行ったというだけです。彼が録音したウェーバーのクラリネット協奏曲第1番をCDで聴いて「この人すごい!」と思いました。メシアンの《世の終わりのための四重奏曲》第3曲のクラリネットソロも圧巻。高校1年生のときにアリニョンが来日してマスタークラスを開いたのですが、初めて間近で音を聴いてまさに衝撃でした。もちろん音も素晴らしいのですが、何より音楽が、聴いたことのないような豊かさを持っていました。「この人のそばに行きたい」と思い、高校を卒業してフランスに渡りました。

亀井良信氏

  日本の音大は考えませんでした?

亀井 アリニョンとの出会いがなければ考えたかもしれませんが、とにかく彼のところに行きたかったので。パリ市12区ポール・デュカ音楽院で彼と過ごせたのは幸せな時間でしたね。レッスンでただ吹いていると「ちょっと貸してみろ!」と僕の楽器で全部吹いてしまうんです。本当に圧倒的でした。エチュードを吹いてもものすごく音楽的で、機械的に吹いていたりすると「それは美しくない」と言われました。
その後にオーベルヴィリエ・ラ・クールヌーヴ地方国立音楽院で習ったアラン・ダミアンは、アリニョンと同じユリス・ドレクリューズの弟子で、やはりミシガン大学に留学しています。「フランスのコンパクトさと、アメリカのワイドな感じがミックスできたらいい」と話していたと聞いたことがあります。

  亀井さんと同じオーベルヴィリエ・ラ・クールヌーヴ地方国立音楽院を卒業した後、芳賀さんは日本フィルハーモニー交響楽団に入られたわけですね。

芳賀 留学中のある日「音楽で生きていかなければいけないんだな」と思い、日本フィルのオーディションを受け、通ったので、フランスにもう少しいたい気持ちはあったのですが、帰国して入団しました。日本フィルには6年くらい在籍して、2017年に現在の読売日本交響楽団に移籍しました。

芳賀史徳氏

  今さらですが、オーケストラでクラリネットを吹くことの魅力とは?

芳賀 交響曲などのオーケストラ曲を演奏すること自体が、幸せだなと思うんです。その作曲家の、クラリネットソロ曲以外の側面を知ることができるし、交響曲や管弦楽曲というのは作曲家の集大成という部分もあると思いますので。特にマーラーやブルックナーなど、オーケストラを経験してからすごく好きになりました。

  亀井さんはこれまで何枚もソロアルバムを発売されてきました。

亀井 そろそろ50歳ですから、昔に比べると瞬発力のようなものはかなわないですが、その分柔軟性が出せるようになったのかなと思っています。去年リリースした『ロマンス』は、録っているときはそこまでの意識はなかったのですが、出来上がったものを聴いてみると「かなり落ち着いたなあ」と自分の変化の大きさに驚きました。できなくなったことよりも、できるようになったことの方が多いのかなと。
“BCXXI”とか、柘植(ツゲ)製の“レジェンド”といった、普段使っている“ディヴィンヌ”以外の楽器を手に取ってみるというのも、そのひとつの表れなのかなと思います。

  お二人ともメインは“ディヴィンヌ”ということですが、〈ビュッフェ・クランポン〉歴は長いのですか。

亀井 僕は〈ビュッフェ・クランポン〉しか吹いていないです。最初のクラリネットとの出会いからして、“R13”だったので。ちなみに父は“RC”を使っていました。「クラリネットの音」というのはそこから始まっているので、それを変えてまで別のメーカーの楽器を探したいと思いませんでした。

芳賀 僕は最初は別の楽器でしたが、アリニョンの講習会に行って楽器を選んでいただき、それ以来ずっと〈ビュッフェ・クランポン〉です。しばらく“プレスティージュ”を使っていましたが、響きの豊かさであるとか、もう一歩先にあるものを求めたいと思うようになり、亀井先生をはじめいろいろな方の“ディヴィンヌ”を吹かせていただき「これだ!」と思って“ディヴィンヌ”に替えました。

〈ビュッフェ・クランポン〉“ディヴィンヌ”

亀井 僕の場合、フランスから帰ってきてずっと“トスカ”を吹いていました。初代“トラディション”が出たときに吹いてみて、そのダイレクト感やホッとするような響きに惹かれて“トラディション”を使っていた時期もありました。
ところがある楽器屋さんのイベントでビュッフェ・クランポンの全モデルを試奏する機会があって、そこにあった“ディヴィンヌ”を吹いた瞬間「これ下さい!」と(笑)。一目惚れですね。それまでずっと“R13”系統で来ていたこともあり、“ディヴィンヌ”は吹いたことはあっても選択肢に入っていませんでした。それが突然“RC”系統に行った。その個体が本当にビンゴだったんだと思います。

  では柘植(ツゲ)製の“レジェンド”との出会いは?

亀井 もともと同じ“レジェンド”でもグラナディラとグリーンラインでは響き方の特徴が全然違ったのですが、さらに柘植の楽器には何とも言えない独特の響きがありました。しかも細かい動きもすごく楽にできる。例えば十六分音符のスタッカートで上下するような速いパッセージなど、とにかく小回りが利く印象で、しかも少ない息で吹けるので、自分が上手になったかのように感じてしまうんです。

芳賀 木が違うということの影響がこれほど大きいとは思いませんでした。持った感じ、重さがそれほど違うようには思いませんが。

亀井 柘植といってもいろいろな種類があって、この楽器は「欧州柘植」と言われるもので、柘植の中でも比重が重いと聞いています。だからグラナディラと比べて重量が軽いわけではなさそう。

芳賀 僕の場合、「もう1セット楽器が欲しい」と思っていたところに、この楽器を限定受注するという話を聞いて試奏してみました。その前から、ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団のオリヴィエ・パテがこの楽器を吹いている動画を見て興味を持っていました。実際に試奏したときにすごく感触がよくて、「これなら持っていたい」と思って注文しました。

〈ビュッフェ・クランポン〉柘植製“レジェンド”

  どのあたりが魅力ですか。

芳賀 以前は「室内楽に向く」と言われていましたが、響きがとても豊かなので、大ホールでも遠くまで鳴るのではないかなと思って、実際に読響でも使ってみましたが、「広がりがあって音が溶けやすく、アンサンブルしやすい」と言われました。何より、「あの楽器は何だ?」とすごく話題になりました(笑)。弦楽器の人も興味津々で。特にモーツァルト、ベートーヴェン、シューベルトあたりはすごく合うと思いますね。

亀井 昔はクラリネットに限らず、オーボエやフルートも柘植で作られていましたからね。古楽器は今も柘植で作られています。柘植製の古楽器も持っていますが、あの柔らかさは木から来ているのだなあと、これを吹いて感じました。一方でグラナディラの方は音に強さがあるので、音量が得やすい気がします。もちろん柘植の楽器が弱いということはなく、豊さの中に包容力があるという感じです。

芳賀 オーケストラの中で吹いても埋もれて聴こえないということはないと思います。

  楽器になるような柘植の木はものすごく貴重だということですが。

亀井 柘植は弦楽器のペグや肩当てにも使われるのですが、柘植が大好きな人がいて、この楽器を見た瞬間に「この木すごい!」と驚いていました。彼によると、木目の入り方も理想的だそうです。見てみると、ベルは広がりのある木目のものを選んで使っています。それから、全体に節目が少ないんですよね。そういう木を見つけるのも大変なんだと思います。

亀井良信氏と芳賀史徳氏の柘植製“レジェンド”

  日本で今この楽器を持っているのは?

芳賀 数名だけだと聞いています。あとNHK交響楽団の松本(健司)さんも吹いていますね。

  そのうち2人が、デュオでリサイタルを開くというのはこれまたレアですね。この楽器に興味を持った人は、絶対に生音を聴きたいと思っているでしょうから、絶好のチャンスだと思います。

亀井 7月7日の七夕になったのはたまたまですが、内容的にも七夕に合うものになりました。僕がロベルト・シューマンの《3つのロマンス》を吹き、奥さんであるクララ・シューマンの《3つのロマンス》を芳賀君が演奏する。こういう機会もなかなかないと思います。

芳賀 もっと古典の曲にしようかと考えていたのですが、デュオでテレマンもクルーセルもやることは決まっていたので、前から気になっていたクララ・シューマンのヴァイオリンとピアノのための《3つのロマンス》を並べることにしました。

亀井 ロマン派どころか、今度メシアンをこの楽器で吹こうと思ってますから。近・現代も全然いけますよ。むしろ楽に吹ける。前情報として、用途を選ぶ楽器とも言われていましたが、実際吹いてみると決してそんなことはない。ここ1~2か月くらい、実はこの楽器しか吹いていないですよ。どんな現場に持って行ってもまったく問題ないです。

亀井良信氏(写真左)、芳賀史徳氏(写真右)

芳賀 柘植独特の柔らかさはありますけれど、それを鋭く吹くことはできますから。

亀井 通常だと逆のパターンの方が多いじゃない。でもそこでバランスを取るのは難しい。柔らかさを求めて芯のない音になってしまうこともありますが、この楽器はほどよい抵抗感があって、きちんと響きを作ってくれる楽器なので、どちらの方向にも振れるんです。

  テレマンの《2つのシャリュモーのための協奏曲》がプログラムにありますが、シャリュモーはクラリネットの前身の楽器であり、柘植でできていたものですから、現代の柘植の楽器で吹くとどうなるのか興味のあるところです。

亀井 オリジナルのシャリュモーの演奏を聴いてみると、何とも言えない妖艶な雰囲気があります(笑)。柘植のクラリネットで演奏すると近いものを感じていただけるかなと思います。

芳賀 元はチェンバロ、通奏低音と共に演奏するのですが、今回はピアノ伴奏。

亀井 こういうものを素晴らしく形にしてくれるのが鈴木慎崇さんというピアニストです。彼の古典ものを聴くと、まるでオーケストラのように感じます。一度バッハとモーツァルトのみの演奏会を聴いたのですが、本当に素晴らしくて耳から離れず、今回も「絶対ピアノは彼だよね」となりました。

  クルーセルとベールマンはどちらもクラリネット吹きによるデュエット曲ですね。

亀井 クルーセルはデュオを3曲書いていますけれど、第3番(ペータース版で第3番、シコルスキー版で第2番)は特に起伏があり、シンフォニックな印象です。言ってしまえば、モーツァルトのシンフォニーでクラリネットパートが目立つところが曲になっているような感じ。クラリネットの音域の幅の広さや速いパッセージを聴かせるところもあるので、柘植の楽器で演ったら上手に吹けるかもしれないな、と(笑)。

芳賀 ベールマンの《デュオ・コンチェルタンテ》もヴィルトゥオーゾ的な聴かせどころが多い曲です。変奏曲なのですが、両方のパートが交互にソロを吹くような作りになっています。

亀井 テレマンは逆に完全に上と下で分かれていて、芳賀君が上を吹きます。クルーセルとベールマンは僕が1番。

芳賀史徳氏(写真左)、亀井良信氏(写真右)

  では、演奏会について最後にもう一言お願いします。

芳賀 めったに見られない楽器によるコンサートです。バロックからロマン派までのプログラムで、柘植の楽器ならではの響きを楽しんでいただけたらと思っています。

亀井 この楽器が2本合わさった響きというのは、僕自身生で聴いたことがないので、本当は客席で聴きたいくらいです(笑)。でもそれは無理ですから、多くの方に来ていただいて、ぜひ感想を聞いてみたいです。今回の会場は感染対策のために80人くらいに制限する予定ですが、手応えによっては、もっと大きな会場でやるときが来るかもしれませんね。

  ありがとうございました。


「亀井良信&芳賀史徳 クラリネットリサイタル」のチラシ

※ 2022年7月7日(木)に開催される「亀井良信&芳賀史徳 クラリネットリサイタル」のチケットは、ビュッフェ・クランポン・ジャパン ショールーム(電話 03-5632-5728)にてお取り扱いしています。チラシのPDFはこちらからダウンロードいただけます。
※ 柘植製“レジェンド”の紹介ページは以下をご覧ください。
〈ビュッフェ・クランポン〉柘植製“レジェンド”

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