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二コラ・バルディルー、コンクールを語る

フランス放送フィルハーモニー管弦楽団 クラリネット首席奏者を務め、リヨン国立高等音楽院で若手奏者の指導にあたるニコラ・バルディルー氏(以下敬称略)。2023年、横須賀で開催される第6回ジャック・ランスロ国際クラリネットコンクールの審査員長を務める予定の同氏に、コンクールについて書面でお話を伺いました。(2023年5月)
 
 

ご自身のコンクール経験について

 
  まずはじめに、バルディルーさんのコンクール参加者としてのご経験について、教えてください。
 
バルディルー 私自身は、コンクールに参加することを常に楽しんできました。競争心があったからではありません。コンクールでは、新しいレパートリーを学び、他の候補者と出会い、審査員から貴重なアドバイスを頂き、上手くいけばオーケストラと共演したり、様々な演奏の機会を得ることができる、という喜びがあるからです。
 
  最も印象に残っているコンクールは?
 
バルディルー 1998年、19歳の時に優勝したミュンヘンのARD 国際音楽コンクールです。
 
  ARD 国際音楽コンクールで優勝した理由は何だと思いますか。
 
バルディルー 当時の審査員に聞いてみなければわかりませんが、おそらく、私がまだ若かったので、新鮮さや自発性が感じられたのでしょう。
 
  逆に、コンクールで失敗したことはありますか?どのような失敗をしたか、もしあれば教えてください。
 
バルディルー 私の失敗は、ほとんどの場合、準備不足や音楽的成熟度の不足が原因でした。コンクールは非常に多くのレパートリーをカバーするマラソンであり、すべての曲を同レベルの完成度で演奏することは、慣れないうちは難しいのです。 
 
 

審査員としての視点

 
  コンクール審査員の仕事について、どのようにお考えですか。
 
バルディルー コンクール審査員は、とても難しい仕事です!100%の集中力を保ち、全ての候補者を記憶し、可能な限り公正な方法で審査し、全く異なる個性同士を比較し、自分とは全く異なる個性をもつ候補者であっても正しく評価する… とてもデリケートな仕事なのです。
更に、コンクールでは、成功も失敗も、将来への手がかりとなるべき審査員のコメントも、候補者の人生をさまざまな形で変えてしまうことがあるという点で、私たち審査員は大きな責任を負っています。
 
  ハイレベルな国際コンクールでは、審査員は「音楽」を評価すると言われています。この「音楽」を具体的にいくつかのパラメータに分けるとしたら、バルディルーさんはどのように分けますか。
 
バルディルー 音楽を評価するためには、全てのパラメーターが重要です。しかし、私にとって特に重要なものを3つ挙げるとすれば、「個性」「楽譜と作曲家への敬意」「技術的な熟練度」でしょう。
 
  コンクール参加者は楽譜に忠実であることが求められますが、楽譜に忠実であることと、個性を発揮することのバランスについて教えてください。
 
バルディルー 個性的であることは素晴らしいことですし、偉大なソリストになるために必要不可欠なことでもありますが、演奏家は、自分が音楽と作曲家に奉仕するのであって、その逆ではないことを決して忘れてはいけません!
 
  モーツァルトの音楽について、時代(例:ランスロの時代と現代)や人(例:同時代の各演奏者)によって解釈が異なるにもかかわらず、それを審査することについて、どのようにお考えですか。
 
バルディルー 解釈は進化していると思いますし、これはとても良いことです。楽曲が作られた時代の演奏に関する資料の発見や、ニコラウス・アーノンクールのような偉大な古楽専門家の活動のおかげで、史実に基づくオーセンティックな演奏法が知られるようになり、それが音楽界に強力な発展をもたらしています。だからこそ、私は古楽器にも情熱を注いでいます。
しかし、このような進化や新しい解釈は、そのインスピレーションと真摯さによって多くの感情を伝えてくれたジャック・ランスロやジャン=ピエール・ランパルのような偉大なソリストの、時代を超えた魅力を誇る演奏の価値を、何ら損ねるものではありません。
 
  審査員の意見が一致しない場合、どのようにして結論を出すでしょうか。
 
バルディルー そのような場合に備えて、コンクールのルールは明確でなければなりません。また、他の審査員に影響を与えないようにするために、議論もできる限り避けたほうが良いと思います。
通常、コンクールの審査は民主的で、多得票を得た候補者が審査を通過し、同点の場合は審査員長が決定票を行使する権限を持っています。
 
 

コンクールに向けたアドバイス

 
   最後に、これからコンクールに挑む奏者の方のために、アドバイスをお願いします。
 
① 効果的な準備のコツ

 
バルディルー 長期間かけて十分な準備をすること、楽曲を徹底的に分析すること(スタイル、構造、フレーズの構成、和声分析、ピアノやオーケストラのパートの知識)、忍耐と細心の注意を払って自分の練習内容を整理すること、より明晰に現状を把握するために自分の演奏を録音したり撮影したりして練習すること、プログラム全体の通し稽古を沢山行うことです。
 
② 暗譜に不安がある場合の対処方法
 
バルディルー あなたが聴覚的に記憶するタイプなのか、視覚的に記憶するタイプなのかを判断し、自分に合った方法で少しずつ楽譜を覚え、何よりも一度覚えた記憶は維持できるように努力しましょう。定期的に復習しないと、記憶は消えてしまいます。
 
③ コンクールや、重要なコンサートで緊張をほぐすための方法
 
バルディルー 「準備」が、常に重要なポイントです!音楽的にも技術的にも曲を熟知していて、音楽表現も整理できていれば、緊張しても自分をコントロールしやすくなります。
 
④ 自分の前の番の候補者が極めて優秀だった場合、どのように精神的に備えれば良いか。
 
バルディルー 自分の直前に出場する候補者の演奏は、絶対に聞いてはいけません!!! ドアの向こう側の演奏は、常に上手に聴こえるものですよ ;-)))
 
⑤ コンクールに向けて、リードはどのように準備すればよいでしょうか?
 
バルディルー 基本的にはコンサートと同じですが、違う点もあります。コンクールは数日間に渡って開催されるため、暑さ、湿度、音響などの条件の変化に対応できるよう、より多くのリードを準備しておく必要があります。
 
 
  ありがとうございました。
 
 
※ ニコラ・バルディルー氏の2023年の来日公演情報は以下のとおりです。
2023年8月25日(金)日経ホール 第537回日経ミューズサロン ニコラ・バルディルー クラリネット・リサイタル
2023年9月2日(土)横須賀芸術劇場 第6回ジャック・ランスロ国際クラリネットコンクール 審査員コンサート
2023年9月5日(火)東京オペラシティ リサイタルホール 第6回ジャック・ランスロ国際クラリネットコンクール 入賞者披露コンサート
 
※ ニコラ・バルディルー氏が使用している楽器の紹介ページは以下をご覧ください。
〈ビュッフェ・クランポン〉クラリネット”フェスティヴァル
〈ビュッフェ・クランポン〉クラリネット”レジェンド

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