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Pierre Genisson Interview 2019

パリ音楽院でフランスの伝統を継承しつつ、さらに新しい可能性を追求しながら音楽を磨いているピエール・ジェニソン氏。“LÉGENDE”および“TRADITION”という2タイプの楽器で自らの音楽を作り上げ、ソリストおよび室内楽奏者として自由に活動されている中、音楽に対する思いなどをうかがいました。

注意深く自分の音を聴くことが大事です。

  2019年5月に来日した際、ビュッフェ・クランポン・ジャパンでのコンサートでも、ご自身のCD『Made in France』でも、サン=サーンスやドビュッシー、プーランクなど近代フランスのスタンダードな作品を演奏されていました。こうした作品はフランスでクラリネットを学ぶ者として、必ず演奏しなくてはいけない曲でしょうか。
ジェニソン(敬称略) 必然的なものかどうかはわかりませんが、自分にとっては大変に近い存在であり、心に語りかけてくるような音楽です。私はこうしたフランスの音楽と共に育ってきましたから、音楽的DNAの一部になっているのでしょうね。こうした作品はパリ音楽院の教授たちと作曲家による結晶であり、次の世代へと受け継がれています。私はミシェル・アリニョン先生に、フランス音楽のレパートリーをすべて教えていただきました。私を成長させてくれた曲ばかりです。

  アリニョンさんに師事して、エコール・フランセーズ(フレンチ・スクール)の伝統を継承されていると思いますが、そうした意識はありますでしょうか。
ジェニソン たしかに後継者の一人であるとは思います。ただし教えていただいたことだけをしているわけではありませんし、先人たちの演奏を単になぞるだけではなく、さらに自由になっていると思っています。それは一種の変化だといえるでしょうね。たとえば1960年代のエコール・フランセーズと1990年代のエコール・フランセーズを比較すると、大きな違いがあり、それは「何かが失われた」のではなく「進化した」ということになると思います。私はパリ音楽院で学ぶのと並行して、ブルターニュ交響楽団の首席奏者も務めていましたが、音楽院卒業を機にオーケストラも退団し、2012年から数年間はアメリカのロサンゼルスへ移住して活動を続けました。アメリカ生活の中で私の演奏は確実に変わっていったのですが、エコール・フランセーズの伝統を忘れているわけではありません。

   ジェニソンさんご自身もパリのエコール・ノルマル音楽院で教授というポストに就任されました。生徒には伝統をそのまま伝えますか。それとも自分で開拓しなさいと教えますか。
ジェニソン  文化や伝統、音楽の解釈などを教えることがまず必要でしょうね。生徒たちを自由にさせようとは思いません。親が子に教えるように、決まりというものをまず教えることが重要です。私はきっと厳しい先生になるでしょうね(笑)。教師とはまだ生徒がもっていないものを教えたり、知識を与えるのが役目ですから、私は自分が受け継いできたものを同じように渡していきたいと考えています。

  マスタークラスなどでは、どういうことを生徒たちに教えているのでしょうか。
ジェニソン 重要なことは、注意深く自分の音や演奏を聴くということです。これが実は、なかなかできていない人が多いのも事実ですし、自分が考えている音と違っていたり、表現しているつもりでも一部しか伝わっていないことがあります。たとえばドビュッシーやプーランクの曲と、ブラームスやシューマンの曲を同じ音色で吹くということはあり得ません。それは自分で聴き分けてどうするべきかを考えるしかないのです。そして最も大切なことは、楽譜に忠実であれということです。音楽家は自分が思うように勝手な演奏をするのでなく、作曲家の意図や作品を理解して演奏しなくてはいけません。マスタークラスは短い時間ですから、このあたりを伝えているともう終了の時間がきてしまいますね。

  さらに時間があるときは、また別のことを教えるのでしょうか。
ジェニソン 基本を理解できる人であれば、その先のこと、つまり自己を表現することについて話をします。ただしこれも、ただ自由にふるまうのではなく、決められた範囲の中でという注意書き付きですね。

  先ほど、アメリカへ移住されたことについて言及されましたが、なぜ活動の拠点を移したのでしょうか。
ジェニソン とてもシンプルな話で、アメリカで生活することが子供の頃からの夢だったのです。音楽院を卒業し、それまでの自分とは違ったことをしたいと思ったとき、目標のひとつはソリストとして活動することでした。国際コンクールを受けたり、自分がやりたいと思ったことに時間を使いたかったのです。コンサートや演奏旅行、CD制作などやるべきことはたくさんありました。これは、オーケストラに属していては不可能だったというわけです。ではアメリカのどこに住むか。東海岸のニューヨーク、それとも西海岸のロサンゼルス。両方とも音楽が盛んな街ですけれど、「カール・ニールセン国際音楽コンクール」を受けた際に出会ったヨーダ・ギラード先生に師事したいと思い、ロサンゼルスの南カリフォルニア大学へ留学しました。

  アメリカで生活し、音楽は変わりましたか。
ジェニソン もちろんです。でも音楽というより自分が変わったというべきでしょうか。いろいろな経験が自分の音楽を変えたのでしょう。たとえば、あまりにフランス的過ぎた部分がまろやかになったと思いますし、私の性格も丸くなりました。

発売時から“LÉGENDE”を愛奏しています。

  初めてクラリネットを手にした頃のことを教えてください。
ジェニソン 9歳のときでした。永久歯がきちんと生えそろってからですね。曾祖父がクラリネット奏者で、祖母はオルガニストでしたが、地元マルセイユの音楽院でクラヴサン(チェンバロ)を教えていました。私の姉はピアニストで、もちろん共演したこともあります。私も最初はピアノを習っていましたが、母は一家にピアニストが二人もいなくていいと思ったのか、私には別の楽器を勧めたのです。そんなとき、プロコフィエフの「ピーターと狼」を初めて聴き、クラリネットの音色に魅せられてしまいました。あの曲ではネコを吹いていますけれど、そのせいもあってか面白そうなキャラクターの楽器だなと思い、自分の性格にも合っていそうだと感じたのです。

  お家でネコを飼っていらっしゃいましたか。
ジェニソン ははは、飼っていましたよ。ネコと犬を一匹ずつね。でも、ネコがいたからクラリネットを選んだわけではありません。

  日本では多くの人が学校の吹奏楽でクラリネットを手にしますけれど、フランスではどうだったのでしょうか。
ジェニソン 吹奏楽で始める人もいますが、ほとんどの場合は吹奏楽の文化が根付いているフランス北部でのことでしょうね。私は南部のマルセイユ育ちですから違いました。フランスの音楽教育は制度化されており、小学校~高等学校と並行して、5歳から18歳までが通える音楽院があります。15歳~18歳でこの音楽院を修了するレベルになると、パリもしくはリヨンの国立高等音楽院を受験するチャンスがやってきます。ただし入学試験は非常にレベルが高く、全員が入学できるわけではありません。たとえばパリ音楽院におけるクラリネットのクラスは12席しかありませんから、一学年では2~3名ほどなのです。

  現在演奏されている楽器について教えてください。
ジェニソン ビュッフェ・クランポンの“LÉGENDE”は発売と同時に吹いています。それ以前は“TRADITION”を吹いていました。どちらも素晴らしい楽器で気に入っていますが、私には“LÉGENDE”のほうがより素晴らしく思えます。“TRADITION”も音に均一性があり、音程も安定していて音色もまろやかですが、改良の余地があるとも感じていたのです。それをすべてクリアしたモデルが“LÉGENDE”でした。 音の力強さが増したと感じますし、音がより豊かに響きますから、 ソリストとして演奏する際に役立つのです。“TRADITION”はどちらかといえば暗めで、奥の深い音色だと感じています。

  具体的には“LÉGENDE”のどういった部分が素晴らしいとお感じになりますか。
ジェニソン キーポストに金めっきが施され、トーンホールの一部にはグリーンライン素材が採用されています。内径は“TRADITION”と同じサイズですが、接合部分の補強リングは“LÉGENDE”のみに付いており、さらにはキーも操作しやすくなっています(※)。ほかにも細部にいろいろな相違点がありますけれど、内径が同じだということはとても重要だといえるでしょう。現在は“LÉGENDE”と“TRADITION”を、演奏する曲によって替えながら演奏しています。ひとつのコンサートの中で持ち替えて吹くことはありませんが、室内楽では“TRADITION”を吹くことが多いですね。
(※)“TRADITION”は2019年6月にバージョンアップされ、接合部分の補強リングやLowFコレクションキーなど、仕様の一部が“LÉGENDE”と同等になりました。詳しくはこちら

  レパートリーも幅広いと思いますが、どういった作品を演奏されていますか。
ジェニソン クラリネットの場合、協奏曲はさほど多くありませんから、すべてがレパートリーだといっても過言ではありません。モーツァルトやウェーバー、シュポア、シュターミッツなどから、ティエリー・エスケシュやフィリップ・エルサンほか現代の作品、さらには私のために書いていただいたエリック・タンギーの曲や、来年(2020年)に初演が予定されているカロル・ベッファ(Karol Beffa)の協奏曲もあります。

  クラシック以外の音楽を演奏することもあるでしょうか。
ジェニソン 数ヶ月前にBBCコンサート・オーケストラ と、かつてベニー・グッドマン(ジャズ・クラリネット奏者)が演奏した作品を集めて録音しました。バーンスタインの「プレリュード・フーガ&リフ」、コープランドのクラリネット協奏曲、ストラヴィンスキーの「エボニー協奏曲」、それにグッドマン自身のナンバーである「シング・シング・シング」や「サヴォイでストンプ」などを、グッドマンのスタイルで演奏したのです。CDの発売が待ち遠しいですね。

  楽しみにしています。ありがとうございました。

※ ジェニソン氏が使用している楽器の紹介ページは以下をご覧ください。
レジェンド
トラディション

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