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Paul Meyer Interview 2018

早くから才能を開花させ、名実共に世界トップレベルと称されるクラリネット奏者ポール・メイエ氏。指揮者としても活躍されるメイエ氏の才能の秘密や、使用楽器についてインタビューを行いました。
取材:ビュッフェ・クランポン・ジャパン(2018年10月31日・東京にて)

才能を開花させた「自分で考える力」

  フランス東部ミュルーズご出身と聞きましたが、演奏家一家のもとで生まれたのですか。
メイエ(敬称略) ミュルーズ近郊の森の近くで生まれ育ちました。両親は音楽家ではなく、父は家具職人でした。しかし私は5人兄弟で、全員が楽器を習い、私を含む3人がプロの演奏家になりました。クラリネットを始めたのも、私が8~9才の時に兄がクラリネットを吹いていて、真似をしたくなったのがきっかけです。

  どのようにクラリネットを学ばれたのでしょうか。
メイエ 初めは地元の音楽学校で学び、その後ミュルーズの地方音楽院で学びました。14歳でパリ国立高等音楽院に入学し、2年で卒業して、その後はバーゼルの音楽院で学びました。

   14歳でパリ国立高等音楽院に入学されるほどの才能だったのですね。何か特別な要因があったと思いますか。
メイエ  2つ思い浮かぶことがあります。まずは、クラリネットが本当に好きで、自分から積極的に練習し、演奏や上達に喜びを感じていたこと。音楽が喜びでなければ、才能は伸びません。そして、先生との相性が良かったということです。先生との相性が良い、もしくは先生の教えから良い点を見い出し、そこから学ぶことができる賢明さを持つことが重要です。私はミュルーズ地方国立音楽院の教授と気が合いました。レッスン中に決してお手本を見せてくれない教授でしたが、今思えば、それがとても良かったのだと思います。お手本がなければ、自分でいろいろ考えますからね。
 一般的に言う「才能」というものが私にはあったのかも知れませんが、自分のクラリネットへの取り組みに対して、常に精神的な調和が取れていたこと、上達するのに必要なことを全てやったことが成功できた理由だと考えています。

  パリ国立高等音楽院ではどなたに師事され、どのようなことを学ばれましたか。
メイエ ギイ・ドゥプリュ氏です。優しい先生であると同時に、真面目で厳しい先生でもありました。パリ国立高等音楽院は最高水準の教育施設ですが、そこで学ぶ学生はあくまで学生であり、完成された演奏家ではありません。そういう意味で、高等音楽院ではどの学生も、まずは主要なレパートリーを学び、技術を完成させる必要があります。私もドゥプリュ氏から技術を多く学びました。

  その後更にバーゼルで学ばれた理由は何でしょうか。
メイエ パリ国立高等音楽院のクラリネットのクラスを卒業したのは16歳半の時のことで、室内楽のクラスには引き続き在籍していましたし、クラリネットに関しても先生の指導がまだ必要でした。バーゼルはフランス国境沿いのスイスの都市で、フランスの実家からも電車で通える距離にありながら、ドイツ文化を持ち、住民もドイツ語を話す都市です。実は、私は模範的な生徒タイプというわけではなく、レッスンを受けるために学校に足繁く通うよりも、様々な奏者と出会って共演し、その交流の中から学ぶほうが好きでした。そういう意味で、パリとは異なる人々と出会って新しいことを吸収でき、パリ高等音楽院に通うことにも支障がないバーゼルは絶好の地でした。

  バーゼルの教授はどのような方でしたか。
メイエ ハンス=ルドルフ・シュタルダー氏に師事しました。ドイツ派の奏法を教えている先生で、クラリネットの歴史や古楽器、古いレパートリーへの造詣も深く、逆に現代音楽にも積極的に取り組む方でした。パリとは異なる音へのアプローチや、幅広いレパートリーを学ぶことができたと思います。

音楽は食事と同じ。日々違うからこそ素晴らしい。

  卒業後から今日に至るまでのプロとしてのご活躍ぶりは周知のとおりですが、今回はリサイタル公演のために来日され、名曲とあまり知られていない曲を織り交ぜたプログラムを演奏されますね。どのような意図があるのでしょうか。
メイエ 私のリサイタルやCDでは、できる限り人々の知らない曲も取り入れています。クラリネットの世界は保守的な傾向が強く、コンサートではいつも同じレパートリーばかりが求められ、演奏される傾向があります。しかし、音楽というのは実際は素晴らしく幅広く、大きなものです。例えばレストランでキャビアやシャンパンを食べるのは最高ですが、毎日キャビアとシャンパンばかり食べるわけにはいきませんし、もっと普通のメニューでも上手に調理されていれば、素晴らしく美味しく食事ができるのと同じことです。
 私はルイ・シュポアやフェルッチョ・ブゾーニ、イニャス・プレイエルなど、今まであまり収録されていない曲も演奏してきました。今夜の公演でもカール・ベールマンの作品を演奏します。彼はウェーバーやメンデルスゾーンの時代に有名だったクラリネット奏者・作曲家で、作曲家としてはあまり知られていませんが、ウェーバーもメンデルスゾーンも彼のために曲を捧げたほど優れた音楽家でした。また、フィリップ・エルサンも日本では無名ですが、謎めいた、どことなくオリエンタルな作品なので、日本とは相性が良いのではないかと思います。

  メイエさんのCDには数多くの名盤がありますが、例えばシュポアの協奏曲は日本でも非常に高く評価されています。シュポアを演奏する際に心がけたことはありましたか。
メイエ シュポアは古典派とロマン派の中間にあたる時期の作曲家で、彼の生きた時代には最高の作曲家と称されていました。現代ではベートーヴェン、モーツアルト、ヘンデル、バッハのような評価は得ていませんが、個人的にとても好きな作曲家です。シュポアのコンチェルトは、非常に美しく、心地よい音楽です。
 この作品を演奏するには歴史を理解しなければなりませんし、技術力はもとより、音楽的なアイディアや想像力、即興性、作品に新たな命を与える勇気が必要です。更に、自分の演奏をよく聞くことも大切です。

  メイエさんが演奏される際に、最も大切にしていることは何ですか。
メイエ 上手に演奏することは勿論ですが、曲の構成に注意を払い、作曲家が何を言いたかったのか、作曲家が表現したかったことを形にする手助けをしたいと考えています。また、実際に演奏する際に音楽家として一番難しいのは、互いの音をよく聞きながら演奏することです。

クラリネットと指揮、それぞれからの学び

  指揮者としても活躍されていますが、指揮をやりたいと考えたのはいつからでしょうか。
メイエ クラリネットは大好きでしたが、実は、子供の頃からオーケストラの公演に行くと、クラリネット奏者ではなく指揮者に目が釘付けになっていました。どのようにこの曲を解釈するのか、どのように指揮しているのか、もっと上手に演奏するためにはどうすれば良いのかなどを考えながら指揮者を眺めたものです。
 そして13歳の夏、ミュルーズの国立地方音楽院を一位で卒業した時に、それまでは将来について考えたことなどなかったのですが「将来はクラリネット奏者と指揮者になろう!」と決心しました。また同時期に、音楽院の一位卒業者による凱旋コンサートでミュルーズのオーケストラと共演し、クラリネット奏者としてソロデビューしました。

  メイエさんは、ソロ奏者としての活動が50%、そして指揮者としての活動が50%だと聞いています。指揮者としての経験はクラリネットの演奏にも影響がありますか。
メイエ もちろんです!オーケストラの指揮をすると、クラリネット以外の楽器からのインスピレーションも、より鮮明に湧きます。例えば、「ここはトランペットのように」、「ここは声のように」、といったイメージが膨らみます。クラリネットだけを経験している奏者とは同じアプローチになりません。また、モーツアルト一つ例に挙げても、クラリネット協奏曲は一曲しか存在しませんが、指揮者として、ピアノ、ヴァイオリン、バスーン、フルート、オーボエといった様々な楽器の20以上の協奏曲や、オペラ、交響曲を経験しています。これらの経験による学びが、クラリネット奏者としての演奏に与える影響は膨大です。

  その逆はいかがでしょうか。
メイエ クラリネット奏者としての経験は、もちろん指揮に役立ちます。指揮をするためには、ハイレベルな奏者であることが必須条件だと考えています。指揮の仕事とは、曲の分析と腕の上げ下げだけではありません。イメージを具現化するにあたり、楽器奏者達が実際にどれだけ上手く演奏してくれているのか、どんなことは難しく、どれだけ改善可能なのかを理解している必要があります。どのように演奏の質を高められるのかを理解していれば、奏者達に効果的に練習してもらうことができます。

  指揮者として、日本のオーケストラをどのように評価されていますか。
メイエ 日本のオーケストラの奏者たちは頭の回転が速く、指揮者の要望をすぐに理解します。クラシカルなスタイルを確立しており、モーツアルトやベートーヴェンなどの演奏は驚くべきレベルに達していると思います。私はこの日本のオーケストラのスタイルがとても好きです。

  指揮者としての今後の予定を教えてください。
メイエ マンハイム・チェンバー・フィルハーモニーの指揮者に就任しました。これからの活動を楽しみにしています。

音楽性と技術を鍛えるために重要なこと

  現在教職につかれていますか。
メイエ パリ8区のパリ地方音楽院でクラリネットのレッスンやマスタークラスをしています。日本人を含むアジア人の学生も多い音楽院で、私は上級レベルの生徒を担当しています。フランスで3番目の音楽院とされていますが、パリ地方音楽院の教授に師事するために、国立高等音楽院の卒業生が在籍することも多いですよ。

  音楽院で生徒に一番伝えたいと考えていることは何でしょうか。
メイエ 自分で成長できるように、「教わる」ことを教えています。先日ジャック・ランスロ国際クラリネット・コンクールでファイナルに残ったアン・ルパージュは私の生徒で、長年教えていました。彼女のように生徒が成長する姿を見るのは大きな喜びです。

  先ほど音楽性についてお話頂きましたが、音楽性を培うために必要なことを教えてください。
メイエ ジャンルを問わず音楽を知ることです。全ての楽器、歌手、オーケストラ、ポピュラー音楽、ジャズなど、様々な音楽を聴き、ぜひコンサートで生の演奏を聴いてください。録音だけではわからない様々なことを学ぶことができます。また、吹奏楽や室内楽、フォークロア等の演奏を経験することも大切です。興味を広げて様々な音楽をしっかりと聴き、そこから考えることができるようになると演奏も改善されます。

  メイエさんは技術的にも世界的な評価を得られています。技術レベルを上げるためにお勧めの練習法はありますか。
メイエ 私は、技術は音楽を表現する手段でしかないと考えます。練習の際にクラリネットの技術についてだけ考えたことは一度もありません。まずは表現したい音楽のイメージがあり、それを実現するために練習しています。こう演奏したい、という強い思いと実現に向けた工夫が技術力につながります。つまり、技術を培うためには想像力を鍛えることが重要です。例えば料理でも、「もっと美味しく作るには、こんな味が足りない。」「だから、こうやってみよう!」と考えますよね。音楽では、「こういう風に演奏したい。」という欲求がスタート地点です。技術は、技術を忘れるためにあるのです。
 若い生徒にアドバイスがあるとすれば、とにかく沢山のレパートリーを練習するように、そして自分で様々なことを考えて積み重ねることが大切だと伝えたいです。

クラリネットと奏者の関係は、ワインと料理のマリアージュ

  メイエさんは現在〈ビュッフェ・クランポン〉でテスターをされ、 “DIVINE”(ディヴィンヌ)を使用されていますね。いつから〈ビュッフェ・クランポン〉を使用していますか。
メイエ 最初から〈ビュッフェ・クランポン〉です。先生に選んでいただき、”Evette et Schaeffer”(エヴェットゥ・エ・シェフェール)という”E13″の前身のようなスチューデント・モデルを使っていました。それから機種は変わっていきましたが、クラリネットを始めてから40年ほど、毎日ビュッフェ・クランポンを吹いてきました。〈ビュッフェ・クランポン〉は私の人生の一部です。常に最高の楽器を吹きたいと考えているので、クラリネットの開発にも携わってきました。好きでなければできませんよね。情熱を注いでいます!笑

  テスターのお仕事とは、どのようなものなのでしょうか。
メイエ テスターと言うと試奏をイメージするかと思いますが、開発にも参加しています。〈ビュッフェ・クランポン〉の技術者、エリック・バレ氏や工場の職人たちと、どんな楽器を作りたいか話し合い、今使用している”DIVINE”や”TRADITION”(トラディション)を作ってきました。開発する時のチームメンバーとの交流や、開発によって楽器の音を変えられることに、やりがいを感じます。ミシェル・アリニョン氏 、ニコラ・バルディルー氏とも一緒に仕事をしていますよ。
 ちなみに、私はパリの自宅で全機種を吹く日もあります。異なる機種を吹けば、新しいアイディアや表現が見つかることがあるからです。

  ”DIVINE”の開発では、何を目指したのでしょうか。
メイエ 開発プロジェクトの方針は私が書きました。音程や音色、メカニズム、響きなど、あらゆる面での向上を目指しました。

  ”DIVINE”はどのような楽器で、どのような奏者におすすめですか。
メイエ 私個人として感じる”DIVINE”について説明するならば、「豊かで輝きがある音色、敏捷で鳴りも良く、音程やメカニズムも申し分ない楽器」です。
 しかしクラリネットは、同じ楽器でも奏者によって出る音色が変わります。どの機種にも特徴があり、個々の奏者の演奏スタイルとの相性があります。クラリネットと奏者の関係は、ワインと料理のマリアージュに似ています。そのため開発者としての立場からは、例えば「”DIVINE”はこのような音が出る」ということはお話できません。音色について語るのは難しいことです。
 更に、楽器の持つ音色は1つではありません。例えばストラディヴァリウスのヴァイオリンには150億の音色があるかも知れません。大切なのは、1つの楽器でどれだけ様々な音色を生み出すことができるかです。そもそも1つの音色には、様々な音が含まれます。ですから楽器選びの際に重要なのは、あなた自身が「どのクラリネットであれば、容易に様々な音を出すことができるのか。」という点です。

  メイエさんにとって、クラリネットとは何か教えてください。
メイエ 音楽を生み出すためのものです。そして音楽とは、音との芸術、感情の芸術、文化。偉大で素晴らしいものです。音楽がなければ人生はありません。

※ メイエ氏が使用している楽器の紹介ページは以下をご覧ください。
  ディヴィンヌ

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