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松井宏幸氏 プロディージュを語る

洗足学園音楽大学および東京藝術大学で講師を務め、東京佼成ウインドオーケストラ、MUSIC PLAYERS おかわり団、カルテット・スピリタスのメンバーとして、全国各地で演奏活動を行っている松井宏幸氏。ご愛奏される〈ビュッフェ・クランポン〉のアルトサクソフォーン”Senzo”を基に開発されたエントリーモデル、“プロディージュ”について、お話を伺いました。(取材:今泉晃一)
 

とにかく、僕は〈ビュッフェ・クランポン〉の楽器を使うと決めています

 
  〈ビュッフェ・クランポン〉のサクソフォーンとの出会いは?
 
松井(敬称略) 埼玉栄高校の吹奏楽部に入ったときに、当時の顧問だった大滝実先生が〈ビュッフェ・クランポン〉の音色が好きだったということもあり、代々〈ビュッフェ・クランポン〉の楽器を使うことが伝統になっていました。そういう理由で、僕も当然のように〈ビュッフェ・クランポン〉の楽器を購入しました。最初はアルトの“S-1”というモデルです。
 その楽器は東京藝術大学を卒業するくらいまで使っていましたが、一番練習する時期に酷使した楽器だったので、卒業する頃に買い替えようかと思い、2001年に同じ〈ビュッフェ・クランポン〉の“プレスティージュ”を買いました。“S-1”のしっとりした音に対して“プレスティージュ”はとても明るい音で、慣れるまで時間がかかりましたが、吹いているうちに“プレスティージュ”のよさが出せるようになりました。
 
 ところがその後“プレスティージュ”が生産終了になってしまったため、将来のために中古をいろいろと探しました。あるとき仕事で行った先の楽器屋さんに“プレスティージュ”が3本あって、試奏の末そのうちの2本を買ったこともありましたよ。
 そうしているうちに2013年に“SENZO”(センゾ)が発売され、出てすぐに吹かせてもらって、購入を決めました。“センゾ”は“プレスティージュ”とは違う音色を持っていて、特に僕が使っている銅の管体に銅めっきをかけた仕様のものは、“S-1”に似た落ち着いた音色がするものでした。一方で、真鍮の楽器は管体が自然に響く分、“プレスティージュ”のような明るさを持っています。材質と仕上げでかなり音が変わるのも面白いところですね。
 
 「新しい楽器だからよい」ということではなく、〈ビュッフェ・クランポン〉がこれからこの楽器でいくというのなら、自分が楽器に慣れて、よさが出せるようにしないといけないと思ったのです。とにかく、僕は少なくともアルトは〈ビュッフェ・クランポン〉の楽器を使うと決めていますので、セッティングを含めて、自分がその楽器に寄っていくという考え方です。
 
ご愛用されている〈ビュッフェ・クランポン〉のサクソフォーン“センゾ”を抱える松井宏幸氏
 
 
  そんなふうに〈ビュッフェ・クランポン〉にこだわる理由は何でしょう。
 
松井 一番は、音ですよね。やはり毎日自分が一番近くで聴くわけですから、音に関してストレスがあったら、吹くのが嫌になってしまうじゃないですか。その他のテクニック的なことに関しては自分が練習すればよいのですが、音は自分だけではどうにもならなくて、メーカーや楽器と自分が合わないといい音が作れません。だから僕は〈ビュッフェ・クランポン〉の楽器を使うんです。
 
 
  具体的に言うとどのような音でしょうか。
 
松井 言葉で表現するのは難しいですが、簡単に言うと「高級感のある音」です。もちろんモデルによって明るかったりダークだったりと、音の表面はさまざまですが、その根底には〈ビュッフェ・クランポン〉にしか出せない、スペシャルな音が共通してあります。
 「サクソフォーンを作ったアドルフ・サックスの正当な後継者が〈ビュッフェ・クランポン〉である」とよく言われますし、ダニエル・デファイエが吹いていたその音が皆のイメージとしてあると思います。他のメーカーは新しいモデルが出るとまったく違う方向性を持つ楽器になってしまう場合がよくありますが、〈ビュッフェ・クランポン〉のサックスは、もちろん進化はしていますが方向性が一貫しているのです。非常に木管ぽい響きを持っており、ゴージャスな音、低音の太い音も出せます。特に高音域の抜けのよさは抜群で、僕はどのメーカーよりも一番気持ちよく鳴ると思っています。
 
 〈ビュッフェ・クランポン〉の楽器はとにかく鳴りがよく、あまり楽器が音をまとめようとしません。最近の他の楽器はコンパクトに音をまとめる傾向がありますが、効率を高め、音色を均一にしてコントロールのしやすさを求めていくと、だんだんカラーがなくなってきてしまいます。でも〈ビュッフェ・クランポン〉は一貫して響き重視なので、明るく大きな音が出せます。コントロールするためには練習しなければいけませんが、意外なことに初心者が素直に息を入れたときに、すばらしい音が出たりするんです。余計なことをせず、楽器の持つ音がそのまま出てくるからでしょうね。
 
 
  音色的に、クラシック向きなのでしょうか。
 
松井 自分がクラシックをメインに演奏するということもありますが、もちろんクラシックを演奏するのに向いています。でも、ポップスやジャズを吹くときでも“センゾ”を使いますよ。セッティングは変えることもありますが、楽器は変えません。ジャズのプレーヤーからすると「ファットな音」つまり太い音は一番の誉め言葉なのですが、〈ビュッフェ・クランポン〉はまさに太い音で鳴りますからね。
 
〈ビュッフェ・クランポン〉のアルトサクソフォーン“センゾ”は、コパーの管体特有の温かく倍音豊かな音色と正確な音程が特長だ。
 
 

“センゾ”のノウハウを受け継いで軽量化した“プロディージュ”

 
  さて、以前からあったエントリーモデル“BC8401”“BC8101”に、新しく“プロディージュ”が追加されました。
 
松井 エントリーモデルであっても、〈ビュッフェ・クランポン〉の音がしっかりするところが魅力ですね。“センゾ”よりずっと安いのに、同じような音がするのが不思議なんですけれど(笑)。何か秘密があるのでしょう。吹き比べてみると、メカニックなど細かな部分まで入念に作られている“センゾ”が最高なのは当然なのですが、その部分はエントリーモデルであっても、吹き手の工夫とか慣れによってカバーできるものだと思います。
 
 
  “プロディージュ”が〈ビュッフェ・クランポン〉の最新のサックスとなるわけですね。
 
松井 2023年秋の発売で、伝統ある楽器作りのノウハウと、コンピューターを駆使した最新の設計が融合した楽器ということになります。キーの配置がかなりコンパクトに設計させているので、手を無理して開かなくても自然に届くようになりました。だから手の小さい女性や子どもでも無理なく操作できます。もともと西洋の人は日本人よりも体が大きいですから、従来の楽器だとあるキーを操作するときに手を浮かさなければならないような場合も出てきたわけですが、“プロディージュ”だとその必要がありません。
 サックスの場合クラリネットなどに比べるとひとつひとつのキーが大きいですから、関係ないキーに手が当たってしまってうまく音が出ないケースもあります。小学生などはあまり使わないキーを取ってしまって、トーンホールをテープなどで埋めて吹かせることもありました。“プロディージュ”ではそういうキーを低く作ってあるので、当たってしまう心配がとても少ない。もちろん、僕が扱っても違和感を感じるようなことはありません。
 
 同時に、楽器自体の重量が軽くなっていますから、楽器を保持するのも楽で、ストラップによる首への負担も少ないと思います。小学校中学年くらいの子がサックスを吹くと、その重さですぐ疲れてしまうこともあるので、“プロディージュ”は軽量化されている分、練習に集中できるのではないでしょうか。指を無理に広げなくて済み、右手や首への負担も減るということで、体に余計な力が入らず脱力した状態で吹けるので、演奏そのものにもよい影響が出るはずです。
 
〈ビュッフェ・クランポン〉のアルトサクソフォーン“プロディージュ”は、ブランドのDNAを受け継ぐ音色の豊かさと、最新の人間工学に基づいた設計による演奏のしやすさが特長。
 
 
  どうやって軽量化したのでしょう。
 
松井 U字管以外の管体自体の厚みが、若干薄いそうです。あとは接続部分のネジを減らしたりとか、本当に小さいものの積み重ねだと思います。重量は“センゾ”より軽くなっていますが、設計のノウハウは“センゾ”からかなり受け継がれています。元をたどれば“プレスティージュ”や“S-1”の流れを汲むとも言えます。
 たとえば、ネックの取り付け部分を見ていただくとわかるのですが、最高音のトーンホールがネックと重なってしまうために、ネックのジョイント部分がU字型にカットされているんです。これが〈ビュッフェ・クランポン〉のサックスの昔からの特徴で、“プロディージュ”も同じ形状をしています。つまり、トーンホールの位置や、ネックの長さ・太さなど設計がある程度共通しているということです。
 
〈ビュッフェ・クランポン〉のアルトサクソフォーン“プロディージュ”と“センゾ”の設計の違いを解説する松井宏幸氏。
 
 

価格が抑えられているのにかかわらず、特有の「音の高級感」を持っている

 
  “プロディージュ”の音はどのような傾向ですか。
 
松井 真鍮製ということもあって、ライトな感じで明るい音が出しやすく、昔の“プレスティージュ”に近い印象を受けます。息が素直に入るので吹きやすいし、上から下まで均等に鳴らすことができます。低音も高音も出しやすいというのは、〈ビュッフェ・クランポン〉の楽器に共通するよさでもありますね。本当にストレスなく、息を入れれば音が出るという感じです。最大の魅力は、価格が抑えられているのにかかわらず、〈ビュッフェ・クランポン〉特有の音の高級感を持っているということでしょう。
 
 これまでアルトにはフラッグシップの“センゾ”があり、最も入門者向けの“BC8401”、 “BC8101”というモデルがありましたが、「その間が欲しかった」という人も多かったのではないかと思います。そこに、まさに中間的な価格帯で“プロディージュ”が発売された。この楽器なら、小学生から高校生まで、趣味で楽器を演奏する大人まで幅広く使えると思いますね。
 僕らにとっても、「“センゾ”とは違う楽器」という位置づけで、音色の違いで使い分けたい感覚があります。“センゾ”より“プロディージュ”の方をあえて使う本番も出てくるかもしれません。そういう選択肢に上るだけの完成度があるということです。

〈ビュッフェ・クランポン〉サクソフォーン“プロディージュ”紹介動画リストより、松井宏幸 – Vacances / J.M.DAMASE

 
 
  “BC8401”、“BC8101”に関してはいかがでしょう。
 
松井 こちらは“プロディージュ”のような軽量・コンパクトの設計ではありませんが、この価格でしっかりと〈ビュッフェ・クランポン〉の音がするのが驚きですね。だから予算的に“プロディージュ”が難しい場合はこちらでも十分に演奏を楽しむことができますし、学校が限られた予算内で備品をそろえたいというときにも選択肢に上がってくるでしょう。それでも、〈ビュッフェ・クランポン〉というブランドですから、メカニズムの作りなど“センゾ”に比べれば簡素化されていますが、音や品質はもちろん、アフターケアも心配ありません。“BC8401”はネックの彫刻やキーの刻印など、マイ楽器として持っていて嬉しくなるポイントも多いですね。
 
  また、エントリーモデルとしてはテナーの“BC8402”、バリトンの“BC8403”もラインナップされています。以前、アルト“BC8401”、テナー“BC8402”、バリトン“BC8403”、そしてソプラノに“プレスティージュ”を使ってカルテットを行なったことがあるのですが、往年のダニエル・デファイエ・サクソフォーン四重奏団をほうふつとさせるような、それは美しい響きでした。デザンクロの四重奏曲の第3楽章の動画がありますので、ぜひご覧ください。

サクソフォーンエントリーモデル“BC8101”、“BC400”シリーズ紹介動画リストより、【BC SAX】 機種別ソロ演奏

2021年発売の〈ビュッフェ・クランポン〉サクソフォーンエントリーモデル“BC8101”、“BC400”シリーズを、サクソフォーン奏者として教育や演奏の第一線で活躍される瀧上典彦氏(国立音楽大学非常勤講師、Quartet颯 メンバー)、松井宏幸氏(東京藝術大学講師、東京佼成ウインドオーケストラ奏者)、東涼太氏(洗足学園音楽大学非常勤講師、カルテット・スピリタス メンバー)、田中麻樹子氏(サクソフォンカルテット桜 メンバー)に演奏いただき、お話しを伺った動画を合計5本公開中。

 

「積極的に合わせにいく」という感覚も身に付きやすい

 
  これらのモデルを含めて、マイ楽器を持つことでよい影響はあると思いますか。
 
松井 たくさんありますよ。まず学校の備品は古いものが多く、これまでどのように扱われてきたかわからない上に、メンテナンスもきちんとされていない可能性があります。その結果、楽器に不具合があって音が出にくいのを自分のせいだと思って一生懸命練習しても上達せず、楽器が嫌いになってしまうかもしれません。信頼できる楽器を買ってそれで練習したほうがずっと早く上達できるでしょう。調子が悪くても楽器のせいにできないから、自分が練習してうまくなるしかないという、言い訳ができない状態にすることも大事です(笑)。
 気持ち的にも、自分の楽器だから愛着も湧くし、練習するモチベーションにもつながります。僕も高校時代、自分の楽器だからこそとても大切にしていました。トラックで運んでもらえるときにも自分で持って行ったりとかしてね。もしかすると、マイ楽器でなかったらあれだけ熱心に練習していなかったかもしれません。
 
 
  では、マイ楽器を選ぶときにどんなことを意識するとよいでしょうか。
 
松井 まずは、販売前にきちんとしたチェック体制のあるメーカーの楽器を選ぶことです。〈ビュッフェ・クランポン〉では日本に入ってきた楽器は必ず一度リペアマンがチェックしています。ネット通販で買えるような格安の楽器は、手元に来るまでどんな状態かわからないし、輸送の途中に何か不具合が起こる可能性もありますからね。
 
 それから、楽器店などで実際に吹いてみることが一番大事です。先生とか先輩に一緒に来てもらうのもよいでしょう。楽器店のスタッフは実際に楽器を演奏できる人も多いので、その人たちのアドバイスも役に立ちます。そして、まず楽器を構えてみて、違和感がないかどうか。“プロディージュ”などはそこがかなり工夫されていますから、ぜひ一度試していただきたい。楽器選びは感覚的なことが大きいので、「持ちやすい」「音が出しやすい」ということが大事なんです。
 試奏するときのポイントとしては、やはり音ですよね。最初にお話ししたように、奏者が楽器の音を一番近くで聴くことになるのですから、毎日ずっと聴いていられる音かどうか。もちろん他の人に意見を言ってもらうのもよいと思いますが、自分が好きな音の楽器を選ぶのが一番です。好きな音でなかったら、練習がストレスになり、楽器を吹きたくなくなってしまいますから。やはり、吹いていて「素敵な音だなあ」と思える楽器を選びたいですね。
 
松井宏幸氏
 
 
  よく議論されることではありますが、セクションで楽器をそろえた方がいいのでしょうか。
 
松井 僕はその必要はないと思います。東京佼成ウインドオーケストラのサックスセクションでは、4人全員が違うメーカーの楽器を使っていましたが、音程が合わないとか音色が合わないといかいうことはありませんでした。それぞれの奏者が出している音で、アンサンブルを作っていくわけですからね。
 ただ一方で、僕が埼玉栄高校にいた当時は、大滝先生の好みもあってサックスは〈ビュッフェ・クランポン〉で統一されていました。それはサックスに求めている音色がかなり木管寄りのものであり、クラリネットとともにバンド全体の核となるサウンドを作るという意味があったのだと思います。僕も〈ビュッフェ・クランポン〉の音の魅力はそこにあると思っています。
 音が太く、よく響く楽器で、なおかつ自分だけがでしゃばったり周りをじゃましたりしない音色なので、周りと合わせるときにも「引いて合わせる」のではなく、「積極的に合わせにいく」という感覚も身に付きやすいと思いますよ。
 
 
  ありがとうございました。
 
 
【演奏会情報】
カルテット・スピリタス 結成20周年記念コンサート

松井さんがテナーを吹くサクソフォーン四重奏、カルテット・スピリタスが8月14日東京の浜離宮朝日ホールにて、ジャン=イヴ・フルモーをゲストに迎えて20周年記念演奏会を行なう。プログラムはグラズノフやベルノーの四重奏曲をはじめ、フルモーのソロとカルテットの伴奏によるパスカルの《ソナチネ》、サックス五重奏に編曲した《プロヴァンスの風景》など。
 
カルテット・スピリタス 結成20周年記念コンサートのチラシ
 
※ 記事中で紹介されている〈ビュッフェ・クランポン〉サクソフォーンの製品情報については以下をご覧ください。
プロディージュ
BC8401
BC8101
センゾ

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