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カロジェロ・パレルモ氏 Interview

ローマ歌劇場管弦楽団、フランス国立管弦楽団を経て、現在ロイヤルコンセルトヘボウ管弦楽団の首席クラリネット奏者を務めるカロジェロ・パレルモ氏(以下敬称略)に、同管弦楽団や愛用されている楽器、音楽家として大切にされていることなどについて、お話を伺いました。(2023年11月、東京)
 

コンセルトヘボウは序列のない楽団です

 
  今回の来日ツアーはいかがでしたか。
 
パレルモ 素晴らしいツアーでした!イタリア人として、ファビオ・ルイージ氏の指揮で様々なプログラムを演奏できたことが嬉しかったです。初めて共演しましたが、演奏の細部にまで気を配る素晴らしい音楽家でした。
 
  既に何度か来日されていらっしゃいますが、来日ツアーではどのようなことを楽しまれていますか。
 
パレルモ 来日は6回目で、ローマ歌劇場管弦楽団、フランス国立管弦楽団、ロイヤルコンセルトヘボウ管弦楽団で、それぞれ2回ずつ来日しています。来日の際には、サントリーホールでの公演を特に楽しみにしています。音響が素晴らしく、どんなにピアニッシモで演奏をしても、ホールの奥にまで音が届き、オーケストラ後方の座席にも音が広がっていくのが分かります。また、ヴァイオリンやコントラバスの仲間の音が、あたかも私の隣で演奏しているかのように聞こえます。これは、通常のホールではありえないことです。私の知る限り、サントリーホールは世界最高のホールだと思います。
 
  コンセルトヘボウ管弦楽団はどのような楽団ですか。
 
パレルモ 優れた指揮者、同僚達と共に、充実した交響曲のレパートリーを演奏することができる素晴らしい楽団です。
 
 コンセルトヘボウ管弦楽団は26、27国籍の演奏家が在籍する、大きな家族のような楽団です。パートリーダーによる序列は存在せず、団員全員が重要なメンバーとして尊重されます。コンサートマスターとコントラバスの末席にいる奏者は等しく重要です。全員が難しい入団試験を受けて楽団に参加しているのですから当然です。そのため、リハーサルの時には、バスクラリネット奏者がフルートの第一奏者に、「ねえ、このパッセージをもう一度やってみよう。いつものように吹けていなかったから。」と気軽に言うことができます。ヴァイオリン奏者が休憩中に、「カロジェロ、トゥッティの時にヴァイオリンと合ってなかったよ。気を付けてね。」と話しかけてくることもあります。アンサンブルをより良いものにするために、皆が率直に話し合える環境なのです。
 
カロジェロ・パレルモ氏
 
 コンセルトヘボウは極めて柔軟性の高い楽団です。例えば同じ交響曲を4人の異なる指揮者を演奏すれば、指揮者の要望に合わせて全く違う交響曲を演奏することができます。なおかつ演奏の質は常に高く、スタイルを変えても大ホールで聴衆に素晴らしい音色を届けることができます。フレージングを変えつつも、独特の美しい音色のアイデンティティーは変わりません。入団試験のレベルは非常に高く、特に柔軟性が求められます。どんなに技術的に素晴らしい奏者でも、音程を完璧にコントロールできて、フレージングや奏法、音色を柔軟に変化させることができ、他の人とアンサンブルができる奏者でなければ入団できません。
 

理想の音色を奏でるために

 
  カロジェロさんは、〈ビュッフェ・クランポン〉のクラリネット“プレスティージュ”を使用されていますね。いつから、どのような理由で使用されているのでしょうか。
 
パレルモ “プレスティージュ”は私のお気に入りで、19歳の時から買い替えながら33年間使い続けています。新製品も試しますが、結局は“プレスティージュ”を買って帰ります。それは、“プレスティージュ”の音質が私にとって理想的だからです。
 
 私の音色の作り方は、オペラの音色の作り方に似ています。ローマ歌劇場管弦楽団に入団する前、私はカターニアのベッリーニ歌劇場管弦楽団で4シーズン演奏しました。オペラ座のオーケストラで演奏し、毎日舞台の上の歌手の声を聴き、歌手と一緒に楽器で歌う経験を積むことができました。私は“プレスティージュ”で自分の最も美しい「人間の声」が出せると感じています。機種名を「Buffet Crampon Opera」と呼びたいほどです。勿論他の機種でも美しい声は出せますが、自分には音色の芯が強すぎるように感じられたり、逆に音が広がりすぎるように感じられました。“プレスティージュ”はちょうどその中間で私の理想にピッタリと合い、様々な音色やニュアンスを作ることができます。
 
 コンセルトヘボウでは、1シーズンにオペラを一作品上演します。オーケストラの団員が、歌手と一緒に演奏し、インスピレーションを受けて音色を作ることは重要な作業です。最新の公演はドボルザークのルサルカでした。次回はベートヴェンのフィデリオです。
 
カロジェロ・パレルモ氏
 
  カロジェロさんは、理想の音色を出すために、どのようなこと工夫をされていますか。
 
パレルモ 私にとって音色は、「アイディア」+「リードと楽器」+「ホール」の音響です。3つの要素のうち1つでも変われば、結果も変わります。
 
 理想の音色は常に頭の中にあるので、それを実現するために、まずはリードをしっかり選んでいます。会場によって合うリードは異なるため、今回のツアーでは、8枚選びました。また、自宅で練習する時にも良いリードを使用しています。音色に注意して練習したいからです。このように、どんな時でも音色に注意を払っていますので、普段とは違うホールで演奏しても、私は自分の音色を出すことができます。
 
 よく自分の生徒から、「先生、僕はホールでいつもと音が違ったのに、先生は何故いつも同じ音が出せるんですか?」と聞かれます。それは、響かない部屋でも、残響の長いホールでも、どこの会場でも自分の音が出せるように常に努力しているからです。
 
  つまり、ご自身の音を良く聴かれているのですね。自分の音を聴くコツはありますか。
 
パレルモ 聴く耳は、経験と共に成長します。自分の音色をコントロールせずに演奏している人に、「本番はどうだった?」と聞くと、「うーん。あそこで間違えたかな・・・」と答えてくることがありますが、それではいけません。自分の音をきちんと聴くべきです。音を聴かずに音色をコントロールすることはできません。我々は常に聴衆が自分の音色と演奏を気に入ってくれるように、努力すべきです。
 
 私が自分の音を良く聴くことができるようになったのは、ローマ歌劇場管弦楽団での経験のおかげです。ローマ歌劇場では、オーケストラの配置は一般的な交響楽団の配置とは異なり、イタリア式の配置です。クラリネット、バスーン、フルート、オーボエの木管楽器が指揮者の左側、金管楽器が指揮者の右側で、弦楽器が指揮者の前に並びます。そのためクラリネットがトランペットと一緒に吹こうとすると、30m近く離れていたりして、さらにオーケストラピットの中なので、お互いの姿が全然見えないのです。そこで指揮者はこう叫びます。「ちがう!全然一緒に吹けていない!お願いだから、ちゃんとお互いの音を聴いてくれ!」 笑!
 
カロジェロ・パレルモ氏
 
 このような配置はトスカニーニが考案しました。オペラでは歌手とフルート、歌手とクラリネットが一緒にメロディーを奏でることがありますが、この配置であれば、管楽器奏者が歌手を直接見て演奏できるからです。一般的な交響楽団の配置であれば、歌手と楽器奏者がそれぞれ指揮者を見て合わせることになりますが、こちらのほうが歌手と楽器を合わせるのは簡単で、イタリアオペラでは理にかなっており、最高だと思います。特にプッチーニはこの配置でなければ完璧に合わせるのは不可能です。ベッリーニ、ドニゼッティ、ヴェルディなどでも、歌手と管楽器奏者が一緒にメロディーを奏でたり、管楽器がアルペジオで合わせたりします。歌手がメロディーを歌い、それに合わせて管楽器がアルペジオで緩急をつける際に指揮者を眺めても、それほど上手くいきません。但し、この配置では、オーケストラ奏者同士が合わせるのは大変です。
 
 このような環境だったので、他の奏者の音に注意しつつも、自分の音を良く聴くようになったのです。
 

オペラで表現の幅を広げる

 
  教育活動もされていらっしゃるのですね。
 
パレルモ ローマの私立音楽院Scatola Sonoraで、14歳~30代の67人の学生に教えているので、1ヵ月のうち7~8日はレッスンをしています。学生の中には、ミラノのスカラ座やフィレンツェ五月音楽祭管弦楽団、ベルン交響楽団など、有名なオーケストラの入団試験に合格した後にもレッスンを受けにくる若者たちがいます。まるで自分の子どもたちのような存在で、彼らを指導できることは大きな喜びです。
 
カロジェロ・パレルモ氏
 
  レッスンではどのようなことを大切にされていますか。
 
パレルモ 最も大切なことは、作曲家と楽譜を尊重することです。和声もとても重要です。例えば、モーツァルトの譜面には、フレージングやニュアンスが記されていません。フレーズを理解するための手掛かりは和声しかありません。私は作曲のクラスに4年在籍し、和声を重点的に学びました。ですから学生にも、楽譜と和声を尊重することを教えます。それが上手にできるようになった上で、それぞれの個性が発揮されるべきなのです。
 
  楽譜を尊重したうえで、個性を発揮する段階に至った学生が表現力の幅を広げるためには、どのような方法が有効でしょうか。
 
パレルモ 内向的な性格の学生であれば、例えばオペラを聴くことをお勧めします。オペラでは様々な人物が登場するので、役割毎にどのような表現の違いがあるかを見たり、聴いたりすることができます。それを、クラリネットで試してみると良いでしょう。私はモーツァルトのクラリネット協奏曲を演奏する時には、いつもオペラの舞台に立つ歌手を想像して、音調ごと、フレーズごとに違う声を想像します。とても楽しい作業です。オペラを通して表現の幅を広げようとする学生にお薦めなのは、ベルカントのオペラ、ベッリーニ、ドニゼッティ、ロッシーニです。キャラクター毎の違いがはっきりとしているロッシーニは特にお薦めです。
 
  最後に、音楽家として大切にされていることを教えてください。
 
パレルモ 音楽家は謙虚でなければいけません。音楽は難しいものです。どんなに高い評価を得ていたとしても、今日は完璧に演奏できたとしても、明日はそれほど上手く演奏できないかも知れません。ですから、自分を常に律し、高い水準を目指して挑戦を続けなければなりません。
 
 人生は短く、音楽家としての生きられるのは30年~40年くらいかも知れません。ですから私は音楽家としての挑戦を続け、できる限り新たな作品を演奏していきたいと考えています。音楽には限界がありません。
 
カロジェロ・パレルモ氏
 
  ありがとうございました。
 
 
※ カロジェロ・パレルモ氏が使用している楽器の紹介ページは以下をご覧ください。
〈ビュッフェ・クランポン〉クラリネット”プレスティージュ

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