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Eric Speller Interview 2019

卓越したオーボエ奏者として活躍すると同時に、ビュッフェ・クランポンのアンバサダーとして、楽器の開発などに努めているエリック・スペレール氏。自らが開発に携わり、革命的な楽器と太鼓判を押す「ヴィルトーズ」の魅力を中心に、ご自身のキャリアなどについてお話しをうかがいました。
(2019年2月・東京にて)

演奏者が、より自由になれる楽器「ヴィルトーズ」

  スペレールさんが開発に加わっていただいた「ヴィルトーズ」については、これまでも音楽誌のインタビューなどで語っていただきました。あらためて、この楽器のことをお話しいただけますでしょうか。
スぺレール(敬称略) これはまったく新しい楽器であり、革命的な楽器であると、自信をもってお話ししたいと思います。オーボエはボディが3つの部分から成る楽器ですけれど、上管を長くすることで吹き込んだ息が楽器の中へとストレートに届き、バイブレーション(振動)も長い上管へストレートに伝わります。結果的に、音が鳴りやすい楽器になるといえるでしょう。これはオーケストラや大きな編成のアンサンブルの中で演奏すると、音量などで他の管楽器とのバランスがとれますから、非常に有効だと思います。

  開発プロジェクトは何年にスタートしたのでしょうか。
スぺレール はっきりといつからとは申し上げられませんが、2015年の「国際ダブルリード・フェスティバル」で試作品を発表しましたけれど、もちろんプロジェクトがスタートしたのはずいぶん以前のことです。開発している間には大きな発見もありました。私たちが作ろうと思っていた楽器と非常に似た楽器を、ビュッフェ・クランポンが1890年に製作していたのです。

   その楽器が「ヴィルトーズ」のお手本になったといえるでしょうか。
スぺレール  1890年生の楽器が非常に大きな刺激になったことは確かです。ただ、この楽器はボディを分割する際、上管と下管をまたいでいるキーをドライバーで分解しなければいけないという難点がありました。そこで私たちはマグネットによるシステムを採用することにより、この問題を解決しました。その細かな調整にもずいぶん時間がかかったことは事実です。上管の長い楽器が欲しいと思っていたのは、私だけではありませんでした。「ヴィルトーズ」の開発に関わったシモン・フックス氏(チューリヒ・トーンハレ管弦楽団、ソロ奏者)やフランチェスコ・ディ・ローザ氏(サンカ・チェチーリア国立アカデミー管弦楽団、ソロ奏者)も、同じ考えをもっていたのです。全員、ビュッフェ・クランポンの楽器を演奏していたという共通点もありました。

  キーの位置などを微妙に変更した場合、ボディやトーンホールの位置など、あらゆる点を再考する必要があったのではないかと思います。
スぺレール その通りです。そういった意味で「すべてがオリジナルである楽器」であるといえるでしょう。楽器を製作する機械のセッティングも、この楽器のために変更せざるを得ませんでした。もちろん音響や音色にも多大な影響がありますので、かなりの時間をかけて取り組みました。個人的にはこの研究に携われたことで、楽器内部のことなどを深く知ることができましたし、その知識を得たことで演奏にも変化がありましたから、私自身にとっても素晴らしい体験だったと思います。すべての音域で音程も安定していますし、いろいろなことを試せる楽器だなと実感しています。演奏者が「より自由になれる楽器」だといえるでしょう。

  他のモデルから「ヴィルトーズ」へ移行しようと考えている演奏者には、どういった部分を強くアピールしたいですか。
スぺレール オーボエの場合、リードの厚みが厚いほど音が大きくなりますし、軽いと音が攻撃的になってしまいがちです。しかし「ヴィルトーズ」ですと、軽めのリードでも息がコントロールしやすいですし、口元が必要以上に緊張することもありません。演奏者が自分の音や個性を出しやすく、自分ならではの音楽を表現しやすい楽器だと思うのです。

  「ヴィルトーズ」には4種類のベルも用意されており、付け替えることができるというのも画期的なことだと思います。こうした発想はこれまでになかったのでしょうか。
スぺレール 私が知る限りではありませんでした。少なくとも、いくつかの種類が用意されているということはなかったでしょう。現在のラインナップはメイプル、グリーンライン、マホガニー、ボックスウッドの4種類ですが、それぞれ個性的ですから演奏者が要求に応じて自由に選択できます。ベルにキーがついていないことも特徴であり、簡単に取り替えられるのもメリットです。この開発も試行錯誤の連続でしたが、助けになったのは3Dスキャナーとプリンターの存在でした。アイデアをデータ化して指示を与えれば次の日には形になってしまい、すぐに試奏ができたのですから。ただし製品によってはカラフルなものもありますので、使う際には周囲の注目を集めると思います。私もオーケストラのコンサートでブルーのベルを使ったとき、指揮者や同僚の楽員たちから好奇の目で見られましたからね。

バロック・オーボエも「ヴィルトーズ」開発のヒントに

  スペレールさんのキャリアについてうかがいます。オーボエを初めて手にしたのは何歳のときでしたか。
スぺレール 13歳のときです。オーボエに出会う前はクラシック・ギターを弾いていました。熱心に練習をしていました。私はパリで生まれ、少年時代を過ごしましたが、通った中学校にはオーケストラがあったのです。でも、当然ながらギターには出番がなく、顧問の先生に「フルートかオーボエなら空きがあるけれど、やってみるかい?」と誘われて、音色が好きだったオーボエを選んだのです。ギターを習っていたときに、ソルフェージュなどもしっかりとやっていたのは幸運でした。おかげでオーボエに転向してからも、上達は早かったと思います。顧問の先生が19世紀のイタリア音楽をお好きだったからでしょうけれど、年に一度は学校でオペラを上演していました。私はオーボエを手にしてあまり時間がたっていないのに、多くのソロを演奏することになり、今から考えるとやや乱暴な教育でしたが、おかげで楽器との距離はずいぶん早くに縮まったのだと思っています。

  練習もかなりなさったのでしょうね。
スぺレール 中学、高校と同じ学校に通い、通常のコースと異なる音楽のコースを選択していましたので、学校で音楽を学ぶ時間はたくさんありました。毎週月曜日に通常の授業が終わった後で夕方の6時から10時まで、しっかりと練習をするのです。もちろん自宅でも練習はしていました。両親は音楽家ではありませんでしたけれど、とても厳しかったのです。学校では毎年、エジプトやトルコ、ドイツなどを含むヨーロッパ各国への演奏ツアーもしていたのですよ。先生はとても熱心な方で、生徒たちになんとか音楽を好きになってもらおうと努めていました。毎日、ハードなスケジュールでしたが、とても楽しい日々でもありました。

  当時から、プロの音楽家を目指していましたか。
スぺレール いいえ、そうではありませんでした。当時の自分はとても恥ずかしがりで、人前で吹くことも躊躇していたのです。でもいつの日か、楽器を吹くことが最高の自己表現だということに気がつき、何かを成し遂げられるかもしれないと思うようになったのです。オーボエとの出会いによって私の人生は大きく変わり、音楽と楽器が道を開いてくれたのだと思っています。

  その後はリヨン国立高等音楽院へ進み、スイスのジュネーブ高等音楽院でも学んで、プロ演奏家への道を歩まれたわけですね。
スぺレール 1987年に若い人向けの音楽コンクールで優勝したことも、大きな転機でしたよ。なにしろその時の賞品がビュッフェ・クランポンの楽器だったのですから。それまでは別のブランドの楽器を演奏していましたので、私とビュッフェ・クランポンの原点がそのコンクールだったのです。その後、1994年にボディが木材の「プレスティージュ」を、その後に同じ「プレスティージュ」のグリーンライン製モデルを演奏してきました。

  モダンの楽器と共に、バロック・オーボエも演奏されていますが、バロック・オーボエから得られるものも多いのでしょうか。
スぺレール もちろんです。オーボエの主要なレパートリーを考えますと、まず近現代の作品が圧倒的に多く、バロック時代にも無限だといえるほどたくさんの作品があります。その間の古典派からロマン派音楽の時代は、オーケストラに加入していればレパートリーは豊富ですけれど、ソロや室内楽の作品はとても少ないのが実状でしょう。もちろんモダンの楽器でもバロック音楽を演奏することはできますが、バロック・オーボエで演奏することによって発見できることもたくさんあるのです。たとえば、静かで繊細な音を求められるとき、モダン楽器でしたらキーなどを駆使して細かな調整ができますけれど、キーの少ないバロック・オーボエの場合は息でコントロールすることが求められます。つまり弦楽器にたとえると、弓を駆使してコントロールすることと一緒ですね。そうしたことから、演奏者が工夫をして楽器とのいい関係を築くことが不可欠になるのです。実は「ヴィルトーズ」の開発にも、バロック・オーボエから得たノウハウを活かしています。特にバロック・オーボエの鳴りやすさは「ヴィルトーズ」にも受け継がれています。

  楽器との親密なつきあい方を模索するのも、演奏家として必要なステップだといえそうですね。
スぺレール どの楽器であれ、演奏することによって自分をどう表現するのかを試されるわけですから、深いレベルでの付き合い方を望むのであれば、そう簡単にはいかないと思います。ただ、オーボエの場合は楽器と戦わなくてはいけないことが多すぎますし、安易な付き合い方をすると楽器のほうが「No!」と反抗してくるのです。楽器に何かを求められ続けますから、常に解決の糸口を探して努力すること。これが楽器と完璧にひとつになるための解答なのです。「ヴィルトーズ」はその距離を少しでも縮め、演奏者の自己表現を手助けする楽器でもあるのです。

※ スぺレール氏が使用している楽器の紹介ページは以下をご覧ください。
  ヴィルトーズ

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