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アラン・ダミアン氏 教授法


 
クラリネット界の新時代を築いた巨匠のひとり、アラン・ダミアン氏。クラリネットの教授法をテーマに、彼にインタビューしたハインリッヒ・メッツェナー教授の編集記事を、このたびメッツェナー教授、アラン・ダミアン氏、および掲載元であるルツェルン応用科学芸術大学のご厚意により、本ウェブサイトで掲載させて頂きました。ご厚意に対し深く感謝申し上げるとともに、本記事が日本でクラリネットの演奏、指導をされているアーティストのかた、学生のかたのご参考になれば幸いです。
 
参考文献:Hochschule Luzern-Musik, étude : “Clarinet Didactics”, auteur : Professeur Heinrich Mätzener
(ルツェルン応用科学芸術大学 音楽学部、研究テーマ:「クラリネット教授法」、執筆者:ハインリッヒ・メッツェナー教授)
翻訳:壇野直子
 
 

目次
 
1. レファレンス
2. スコラ・カントルムにブーレーズ吹き
 2.1. ブラームス、モーツァルトからブーレーズまでの世界
3. エコール・フランセーズ
 3.1. ソルフェージュ、初見演奏、リズム、吹奏楽
 3.2. クラリネット、それは対象でしかない――主体、それは音楽である
 3.3. クラリネットは作曲家にとって魅力的な楽器
 3.4. 音楽の時間とは何か
4. 教育の規範
 4.1. 音楽記号を理解する
 4.2. たくさん暗譜で演奏する!
 4.3. 音楽を演奏「する」のではなく、音楽そのもので「ある」
 4.4. 読む、頭の中で聴く、伝える
 4.5. 頭の中で聴く―そして、演奏する
 4.6. 猫のように動きを予測する
 4.7. 音楽の前の静寂
 4.8. 楽器の陰に隠れない
   4.8.1. エクササイズ 「7つの日より」
5. タンギング
 5.1. あらゆる可能性を使う!
 5.2. 音の終わり
   5.2.1. エクササイズ
6. 音名唱法VS母音唱法
7. クラリネットを支える
 7.1. エクササイズ
8. ブレスは大切?呼気こそ大切!
 8.1. 息を吐くとき第8肋骨から第11肋骨を開いておく
8.1.1. エクササイズ
 8.2. 途切れることなく、常にクラリネットの中を振動させる
   8.2.1. エクササイズ
9. 強弱法――ジェルジュ・クルターグの非常に大きなピアニッシシ
 9.1. 音の内側にある倍音に耳を傾ける
 
9.2. ラッヘンマン:音感を磨くためのpppの中の噪音
10. アンブシュアの形
 10.1. 最小限の圧力
11. スムーズな指の動き
 11.1. 指かけ――1つの位置に慣れる
12. イントネーション
13. グリッサンド
14. 重音奏法
 14.1. 倍音のエクササイズ
15. どのようにテクニックの練習をするか
 15.1. エクササイズ:吹きながら同時に歌う
16. 楽器、マウスピース、リード
 16.1. よい仕掛けは大切――しかし、それがすべてではない
17. 最後に一言

 
 
1. レファレンス
 
2018年3月3日にパリ・スコラ・カントルムで行われたアラン・ダミアン氏のインタビュー
取材・編集:ハインリッヒ・メッツェナー
 
 
2. スコラ・カントルムにブーレーズ吹き
 
ハインリッヒ・メッツェナー教授(以下、HM) パリ・スコラ・カントルムは「バーゼル・スコラ・カントルム」のように古楽を実践的に学ぶ学校ではありませんか。
 
アラン・ダミアン氏(以下、AD) その通りです。パリ・スコラ・カントルムはまるでフランス音楽史のようです。実際に起こったいろいろな事柄が絡み合ったフランス音楽史のほぼすべてがここにあります。大分裂も起きました。メシアンが教え、エドガー・ヴァレーズが教え、パスカル・デュサパンなどがスコラで学びました。ここにはほぼすべてがあり、それこそが素晴らしいのです。スコラは「フランスの伝統」的音楽教育をしています。1世紀前のもので、我々が変えることはできません。ヴァンサン・ダンディの教育理念に基づいた教育システムが学校の特徴となっています。
私は常にたくさんレッスンをしてきましたし、自ら希望しスコラ・カントルムで教え始めました。そのとき「はい、すぐにクラスを開いてもらって構いませんよ。ただ、クセナキス、グロボカール、ブーレーズだけのクラスではありませんよね」と言われました。確かにそれほどレベルの高い生徒はいませんでした。私立の学校ですから、生徒を集めなくてはならないという事情もあります。現在、私のクラスにはチリ、日本、中国などからの留学生が多く在籍しています。私は「不思議な感じがします。スコラ・カントルムにブーレーズ吹きがいるなんて。前例がないですから」と言っています。
 
 
2.1. ブラームス、モーツァルトからブーレーズまでの世界
 
AD 学生たちが20~27歳くらいということに、とてもやりがいを感じています。彼らは私と勉強するために来ています。学生というよりも友人ですね。先生と生徒の関係は、誰にも正解が分からないですから。私は、アンサンブル・アンテルコンタンポランで演奏していた時期に記憶に留めたことを伝えようとしています。学生たちは、現代曲のレパートリーに詳しく、ベリオ、ドナトニ、グロボカールを好んで演奏します。ですから、レベルが高い生徒と意見交換をしながらレッスンをすることができています。学生たちは、ブラームス、モーツァルト、ベートーヴェンから、デニゾフ、ブーレーズまで、好きな曲を勉強しています。このようなクラスです!自由に企画されたオーディションやコンサートがいつも開かれている小さなコンサートホールがあります。最近では、学生たちがメンデルスゾーンと、ジャレルの「バスクラリネットのためのアソナンス」を同じコンサートの中で演奏しました。聴衆は自分が現代曲も好きになれると想像していないので、変わったコンサートでした。
 
HM これらの曲を同じ楽器で演奏することで、聴衆は音色に慣れ、聞きやすくなるからでしょうか。
 
AD そうです。ジャレルのほかにブーレーズのドメーヌ、そして、モーツァルトのディヴェルティメントとシューベルトの作品を同じコンサートで演奏していました。私はいつもプログラムの中に異なる時代の作品を入れます。現代を生きるべきなのです。アンサンブル・アンテルコンタンポランに入って以来、私にとってそれは自然なことです。
 
 
3. エコール・フランセーズ
 
AD スコラ・カントルムで教えていた作曲家に触れながら、フランスの伝統について話されていましたね。教育と関係があるクラリネットのエコール・フランセーズについても伺いたいと思います。この楽派の特徴である楽器を自在に操るさまは、まるで限界がないかのように思えます。技巧に優れた演奏、華やかで軽やかなアーティキュレーション、要するに、高度なテクニックです。ほかの地域と比べてより多くの奏者が習得していると思います。
 
 
3.1. ソルフェージュ、初見演奏、リズム、吹奏楽
 
AD 私には「エコール・フランセーズとは何か」という問いに答えられる、はっきりとした定義はありません。エコール・フランセーズという楽派は確かに存在します。それは、フランスが国だからですが、もう長い間フランスは欧州の一員です(とても大切なことなので、維持されていることに感謝です!)。そして、この楽派はフランス――北フランス、東フランス――に今もある伝統を起源としていると思います。音楽――クラリネットやサクソフォーン――の勉強は、音楽院や、皆が所属したいと思っていた町や村の吹奏楽団で行われていました。フランスには多くの吹奏楽団があります。人々はそこで学び、すぐに吹き始めました。私もその一人で、吹奏楽団で吹いていましたよ。ソルフェージュ、初見演奏、リズムなどの多くのことをすぐに教えてくれる学校と言えるかもしれません。しかしながら、伝統とは使いこなすことが難しい言葉です。伝統は変化を受け入れるべきです。時に人は伝統について話しますが、それだけで終わらせてしまいます。伝統とは素晴らしいものです。大切なのは、それでも伝統は変化を受け入れるべきだということです。なぜなら、もし誰かがクラリネットに固執し続けたら、私から見ればその人は対象に固執しています。対象もきっと良いものでしょうが、対象でしかありません。
 
 
3.2. クラリネット、それは対象でしかない――主体、それは音楽である
 
AD 主体、それは音楽です。そして、このことに関連して興味深いのは、特にドイツやオーストリアでは、クラリネットのレパートリーが少ないことです。ブラームス、モーツァルト、ウェーバー、シューマン、レーガーの作品、それしかありません。すなわち、最終的に多くのレパートリーを習うことはありません。フランスには、サン=サーンス、ドビュッシーの作品があります。そうですね、大曲ではありませんが、クラリネット奏者の誰もが、ブラームスのソナタなどと同じくらい勉強したいと思っています。確かにクラリネットはロマン派の楽器と言えます。ただ、ソナタ2曲、トリオ1曲、クインテット1曲だけで音楽家人生を送られるでしょうか。これはブラームスの作品のことを話しています。素晴らしい作品ばかりです!当然、モーツァルトの作品もあります。コンチェルト、ディヴェルティメント、ケーゲルシュタット・トリオ、クインテット。しかし、やはり少なすぎます。では、何ができるのでしょうか。私は学生たちに「クラリネットは20世紀に開花した楽器で、その事実を避けて通ることはできないのだよ」と言っています。
 
 
3.3. クラリネットは作曲家にとって魅力的な楽器
 
HM 20世紀はクラリネットのための独奏曲もあり、レパートリーが多くあります。
 
AD そうなのです!注意して見てみると、20世紀の作曲家はみな、クラリネットに興味を持っていたことが分かります。このことを私はよく話します。私は、ブーレーズ、ベリオ、ドナトニ、ラッヘンマンや、ほかの作曲家とも交流を深められた、という幸運に恵まれました。彼らは「作曲家にとってクラリネットは魅力的な楽器です。音域がおよそ3オクターヴと6度と広く、技巧的なことができ、潜在能力が高く、音の強弱の幅が広く、非常に様々なニュアンスも表現できます。そして、楽器の響きをさまざまに変化させることができます」と口をそろえて言いました。
ブーレーズは「作曲家を夢中にさせます!」と私に言いました。つまり、すべての作曲家がクラリネットに興味を持っていましたし、必然的に興味を持つようになるのです。魅力が溢れています。要するにクラリネットは、ロマン派の楽器ではありますが、正に20世紀の楽器なのです。
 
HM ロマン派の楽器ではあるものの、コントラストが大きいレパートリーということですね。
 
AD 私は比較をするのが大好きです。楽曲が作られた年を挙げて比較をします。例えば、1910年にドビュッシーはラプソディーを作曲しました。ペレアスはこれより前に書かれています。また、完全に古典的、ロマン派的な作品であるサン=サーンスのソナタは1921年に作曲されています。しかし、この時代にはすでに新ウィーン楽派が発展しており、ストラビンスキーやバルトークが活躍していました。もちろん、ドビュッシーやサン=サーンスを演奏すべきですが、フランス作品は数少ないです。私が魅力を感じるのは、私にとって重要な作曲家であるバルトーク(私にとっては古い作品)や、新ウィーン楽派の作品です。バルトークの作品ではクラリネットがたくさん使われており、ウェーベルン、シェーンベルクの作品でもクラリネットは存在感があります。アルバン・ベルクの「4つの小品」もそうです。
 
 私がこれらのことに気づき、そこから多くを学べたのは、紳士的でユーモアセンス抜群な人物のお陰でした。それはピエール・ブーレーズです。彼は私に「この楽器を演奏することで、常に比較をする機会があります」と言いました。例えば、まったく異なる2人のアメリカ人作曲家を挙げてみましょう。ニューヨーク・カウンターポイントを書いたライヒと、クラリネットコンチェルトを作曲したカーターです。同時代に存在していたまったく別の世界です。私はこういうことを考えるのが大好きです。そして、私は学生たちに「楽曲が作曲された年と内容を比べてごらん」といつも言っています。作曲された年は当然、何かを表していますが、同時にそれは重大なことではありません。リヒャルト・シュトラウスの最後の歌曲はブーレーズのピアノソナタと同じ年に書かれました。これは面白い事実です!結局のところ、20世紀の作品は最近のものであり、昔のものでもあるのです。1968年~1969年に作曲されたブーレーズのドメーヌを例に取りましょう。この曲とほぼ同じころにプーランクのソナタとフランセのコンチェルトが作曲されています。これらの曲にはそれぞれまったく異なる世界があります。
 
 
3.4. 音楽の時間とは何か
 
AD 今お話ししたようなことに私はいつも心を捉えられています。なぜなら、私たちは質問せずにいられないからです。音楽の時間とは何か?2分間の音楽、ベルクの6分間、ブーレーズの18分間、カーターのコンチェルトの20分間、30分以上のブラームスのクインテットとは?どのようにして私たちはこの音楽の中で生きようとするのか?また、どのようにして自分が演奏している空間の中で生きようとするのか?そして、モーツァルトのケーゲルシュタット・トリオを演奏するなら、楽器に対してどのような態度をとるのか?ドナトニのクレールだったら?楽器の扱い方が違ってくるでしょう!これこそ探すべきことなのです。これらの曲を演奏することで、学生たちは考えさせられ、また質問せずにいられなくなります。
 
 この音楽の中には何があり、この楽譜の中には何があるのか?音の強弱、音の響きに合わせてどのように態度を変えるべきなのか?楽曲はどのように構成されているのか?結局、教育において、学生たちに楽器を習得することについて考えさせるだけでなく、演奏しようとしている音楽について考えさせ、そして、自分のやりたいことを見つけるために、生徒自身についても考えさせることに、クラリネットを使っているのです。私のクラスには、オーケストラ奏者になりたいと思わない学生もいます。彼らは、オーケストラの仕事に飽きてしまうのではないかと懸念しています。オーケストラのコンサートを聴くのは大好きなのですが、歌手と組むことや、即興や創作活動のような小さい集団を好みます。これは、とても良いことです。
 
HM それは優先順位の問題ですね。オーケストラのポストは経済的に安定しますが、型にはまっていてあまり独創的ではないかもしれません。
 
AD 例えば、ベリオのセクエンツァのレッスンでは、私は学生にダンテの「神曲」地獄篇を読むように宿題を出すつもりはありません。しかし、さりげない感じで「ベリオはそのことをよく話していたよ」と言うことはできます。私は彼らに「君はよく練習してあるね、でも、ルチアーノ・ベリオとはどんな人物だったのかな」と言います。「ラビリントスを聴いてみたら?テキストをよく聴いてみれば、どういうふうに作られていて、何が語られているのかが分かるよ。ダンテについて語っているんだけどね!」
さて、お分かりになりますよね。学生はもっと良い演奏をするようになります。なぜなら、自分がクラリネットを吹いていることを忘れるからです。
 
 
4. 教育の規範
 
HM 私たちが今話しているくらい高いレベルに達するためには、すでに多くの経験を積んでいなくてはなりません。このレベルに達するためには、順を追ってテクニックのレッスンを毎回する方がよいのか、それよりも、初心者のときからすぐに曲をレッスンし、その曲で必要なテクニックを少しずつ教える方がよいのか、と自問しています。私は、ソルフェージュの訓練をしっかり受けるとよいと思っています。スイスでは、どちらかと言えば楽譜の読み方を習うのと楽器のレッスンは同時進行です。読譜の能力と楽器に関する能力があまり分けられていないせいで、優れた技巧のレベルに達するまでに時間が掛かってしまうように私には思われます。
 
 
4.1. 音楽記号を理解する
 
AD そうですね、確かにフランスでは読譜や初見演奏、つまり、音楽記号の意味を理解することに早くから慣れさせます。結局、それらは記号なのです。他方で、リズムがどのような仕組みになっているか理解し、見たリズム、聞いたリズム、再現しようとするリズムを頭の中に覚え込ませます。このためのメソッドやワークブックがたくさんあります。テクニック習得の助けとなり、楽譜の理解に役立つので、このような練習をすることには無論賛成です。あとはこの楽譜をどのように音楽にするか自分で自分に問うべきです。ニュアンス、フレージング、音楽的な句読法などのテクニックの問題について自分で考えるべきです。レッスンでは、即席で一緒に練習法を考え出します。もちろん、音階もやりますが、聴く力や感覚を養うためのゲームのようにやるのです。
 
 
4.2. たくさん暗譜で演奏する!
 
AD そして、もっとレベルが高い学生には、練習中の楽曲で使われている調性の音階やインターバル(音程)を練習させます。ですから、レッスンに少しずつこの練習を入れますが、「来週は、変ホ短調の4度」などとは言いません。そして、暗譜で吹くようにと何度も言っています。たくさんです!
 
HM 曲、音階、レパートリーのどれですか。
 
AD 全部!常に暗譜で吹きます!なぜなら、楽譜は耳を塞ぎ、目を閉じさせます。もちろん、物理的には見えていますが、自分自身を聴くことができない状態になっています。音はどこか、場所はどこか、と自分に問うことを忘れてしまっています。振動からくるこの感覚を常に持っていることが大切なのです!音楽とは何か。それは振動なのですから!
 
 
4.3. 音楽を演奏「する」のではなく、音楽そのもので「ある」
 
AD 一風変わったことを説明させてください。これはゲームで、なかなか楽しいものですよ。音楽をしているときは危なくはなく、むしろその逆です。私は、舞台に登場する音楽家の役を学生に演じてもらいます。彼は、舞台上で自分の楽器を忘れたことに気づきます。そこからは、記憶だけが続きを任されます。体を固定してしまう楽器がそこにはありません。心の中にある歌だけが旋律を作ることができます。私たちは心の中で音楽を歌いながら、その旋律を探します。その学生は楽器を持っていないので、音楽を演奏することはできませんが、音楽そのもので「ある」ように努めるべきです。つまり、彼の心と体はもうそこにはほとんどありません。音楽のためだけの空間があるのです。人々が言っているように、目的は音楽そのもので「ある」ことです。私たちは人生の真髄を探すのです。
このようにして、学生が自分の体を再び感じ始めるとき、静寂を聴いているかどうかが私たちには分かります。時には、静寂が彼を笑わせ、時には怖がらせます。彼は自分がここにいることを意識します。彼はここにいて、今にいて、正にこの瞬間にいます。それは素晴らしいことです。同時に気分が良いです。その上、幸運なことにクラリネットは体に負担がかからない楽器です。音と息が詰まってしまうオーボエ奏者には敬意を払いたくなります。一方で、クラリネットの演奏では息を吐くことはごく自然にできます。
 
HM これらはとても素晴らしいイメージで、抜群のメソッドです。レッスンでどのように呼気や、ほかの重要なテクニックが機能しているのかを説明するために、あなたは解剖学上の考え方からではなく、イメージを語ることが多いのでしょうか。より芸術的、哲学的な見解ですね。
 
AD そうですね。それはまるで答えられない質問の答えを探すようなものです。このゲームの目的は、クラリネットがあってもなくても、私たちは常に空間、「ここと今」、音楽、クラリネットと関係があるということに気づくことです。それは大切なことです!私たちは自然の中にいても、静寂の中にいても、空間の中にいても、聞いています。私にとってそれが最も重要です!なぜ私たちは音楽をやっているのか?私にとってそれがとても大切です。
 
HM そうですね。楽譜、着想、楽曲の精神的な内容を聴衆に伝えることができるようになるために、これらの質問を自分にすべきです。
 
AD その通りです。それぞれが自分のスピリチュアリティを選ぶことができます。あなたのスピリチュアリティ、私のスピリチュアリティがあります。だから、私は「小説のように一つの音を奏でなさい!」というシェーンベルクの言葉が大好きです。最高です。そこにブーレーズが付け足します。彼はユーモアたっぷりの人でしたからね。「シェーンベルクの言う通りではあるが、それでは十分ではない。死活問題のように一つの音を奏でるべきだ」 分かりますか。これがユーモアです。
 

――ダンサーのように練習する――

 
HM 運指、アンブシュア、ブレスなどの重要なテクニックについて、そして、芸術的な考えを念頭に置いてテクニックを教えることについて質問したいと思います。音楽をするためには、やはりテクニック習得のためのノウハウが必要だと思います。それを習っていなくても舞台上で活躍している演奏家はいますが、それは天才だけであって、普通は違います。我々教師は、もっと一般的に役立つことを教えるように求められています。
 
AD 私には固定された指導法はありません。第一に、練習の仕方は学生一人一人違います。ただ、私はいつも、細部まで振付通りに練習するダンサーを例に挙げます。彼は同じ動作を繰り返し、立ち位置も含め少しずつ振付を記憶し、その動作はだんだんと美的、感情的に形になっていきます。しかしながら、最初は、ただ繰り返すだけです。止めることなく繰り返すのです。そして、最初からやり直し、動きを理解し、感じ、自分のものにして、記憶するために、同じ動きを10回繰り返します。それはとても大切なことです。私はちょうどダニエル・バレンボイムの著書「La musique est un tout」(邦訳無し、「音楽とは全てである」の意)を受け取ったばかりです。この本の中に同じ考えを見つけました。音楽は私たちの体の中にあるべきです。私たちは生きていて、それは本当に特別なことです。そして、音楽をしています。これは素晴らしいことです。この関係は最高におもしろいものです!!!
 
 
4.4. 読む、頭の中で聴く、伝える
 
AD 楽譜を、また楽曲を練習するときは、No.1私は何を読んだ?音楽を想像し、記号を解釈する。No.2 私は頭の中で何を聴いた?自分が想像した音と楽譜を比べてみる。No.3 私は何を伝えた?演奏する。それは楽譜と一致しているのか。そして、始める前には、No.0私は楽譜を読む前に何を聴いた?誰かの演奏をすでに聴いたことがあるか、ということを常にやります。この練習の仕方はとても時間が掛かります。私たちの時間は限られていて、学生にレッスンできるのはほんの少しのことだけです。それは、まるで美術館に行き、1枚の絵画しか鑑賞しないようなものです。その絵画の前にしばらくの間留まります。音楽の勉強に関して言えば、ただ1フレーズにしか没頭できないことを意味しています。学生にとっては、精神力を試されているのですから、厳しい試練を受けているようです!練習の中で何度も繰り返すことによって、私たちは習得していきます。
 
 
4.5. 頭の中で聴く―そして、演奏する
 
AD 頭の中で聴くことができる音は上手く演奏できると思います。それは当然のことです。練習は何カ月も、何年もかかります。ただ、基本的には、耳を使い準備をし、吹く前にすべてを頭の中で聴くようにします。このことを私は何度も言っています。
 
HM 演奏する前に音のイメージと、フレーズ全体のイメージを持つことはとても大切です。
 
AD そうです。まず頭の中で聴き、音を出すのはそれからです。自分がこれから演奏することを前もって知っているのは、とても大切なことです。
 
 
4.6. 猫のように動きを予測する
 
AD 予測は聴覚レベルだけで行われるのではありません。私たちは、猫やトラなどのネコ科の動物のようにクラリネットを演奏すべきでしょう。彼らはぴったり必要なだけエネルギーを使います。そして、すべてを予測しています。動く前に、猫もトラも予測ができています。彼らは自分がこれから何をするのか分かっています。
 
HM それは、アーティキュレーション、発音、リズム、運指、母音の発音などのすべての重要要素に応用すべき原理です。
 
AD 私は学生たちに偉大なピアニストを見て、彼らが弾き始める直前の体に何が起きているのかをよく観察するようにと勧めます。ピアニスト、ヴァイオリニスト、指揮者はすべてを予測しています。音を出す前からすでに音楽の中にいます。全身に音が宿っています。
 
 
4.7. 音楽の前の静寂
 
AD そして、私は彼らに「よく見てごらん、あなた方が舞台上に出てくると、聴衆はあなた方が演奏する前に静かになります」と言います。しかし、一番大切なことは、2回目の静寂、つまり音が出る直前の静寂です。この静寂を聞くと、あなた方はこれからしようとしていることが分かります。しかし、時には、自分自身の沈黙を聞くことでパニックになる学生もいます。つまり、鏡を見たようで怖くなります。時には、笑ってしまう学生もいます。これについても、個人差があります。フレンドリーな間柄の私たちは、音楽について話すことができますし、先ほどの状況についてもテーマにすることができます。時として私は、彼らにクラリネットを一旦置くように言い、手に何も持たないで1分間待たせます。私は彼らに「楽器を持って!」と言います。動作がとても速いので、私は「そうではない。今まで何回も、きっと数えきれないくらい君はクラリネットを手に取ったことでしょう。しかし、何が起きているかをまったく見ていない。楽器が近いづいてきて、今度は君が音を出すのだよ」と言います。音とのコンタクトを取る動作をする、その瞬間にこそ心を集中させるべきです。
 
 
4.8. 楽器の陰に隠れない
 
HM 演劇のようですね!私には、自分のパフォーマンスで空間と時間を満たす前の舞台上にいる俳優のために説明した行動であるかのように思われます。そのとき彼は、空間と時間の快感を味わっているに違いありません。
 
 
4.8.1.エクササイズ 「7つの日より」
 
AD 学生たちは演奏するときに、ときどき楽器の陰に隠れてしまうことがあります。それを感じ、彼らが自由に表現できなくなっていると分かると、シュトックハウゼンの作品「7つの日より」から得たアイデアを使います。それは15のテクストで、作品は言葉によるものなので記譜されていません。シュトックハウゼンは序文で「短い言葉によって音楽家たちが精神的に同調することから放たれるこの音楽を、私は直観音楽と名付けました」と語っています。最もシンプルなテクストを挙げます。例えば、「音を1つ弾け、その音をあなたのイマジネーションまで届け…」、ほかには「共演者の音を聴け」などがあります。私たちは楽しみながら音の中に入っていく態勢を整えるために一緒に演奏します。まるで水の中に潜るかのようです。私たちは泳ぎ、あるいはまた風を感じ、風の音を聞きます。シュトックハウゼンのテクストは強烈であり、1968年のものなので古くもあります。学生の心に訴えるものがあり、彼らが喜んでいるのを私は感じます。これを10分から15分やります。その後、落ち着いてブラームスやストラビンスキー、トマジのコンチェルト、またはエチュードなどのレッスンに移ることができます。これをやるべきです。私はやっています。
 
 
5. タンギング
 
HM タンギングの習得について何かアイデアを教えてもらえますか。
 
AD 私がクラリネットを始めたとき、唇でスタッカートをするように習いました。舌はリードに触れません。それが1つの方法でした。
 
HM フランスで習ったのですか。
 
AD そうです。それは、ジャック・ランスロのやり方に近いです。
 
HM リードに全く触れないのですか。
 
AD ほとんど触れません!確証はありませんが、ほとんど触れていません。したがって、あまりリードの振動を邪魔せずにすみますので、今もときどき使っています。横隔膜と息の流れにより直接的に関わっています。
 
HM それは、言葉を話すときの発音に似ていますね。
 
AD その通りですね。このように習いました。その後、私は変えなくてはなりませんでしたが。
 
 
5.1. あらゆる可能性を使う!
 
HM クラリネットの古典的メソッドから引用しますと、ユジェンヌ・ゲは、リードの先端を舌の先端で触れるべきだと書いていたと思います。
 
AD そうですね。しかし、それについては多く議論がなされます。そして、舌の真ん中、その後はもう少し奥だと言われます。
 
HM きっとそれぞれの体形…
 
AD つまり、口の形、あごの形、そして、唇が厚いか薄いかによります。
 
 
5.2. 音の終わり
 
AD 私は、舌を完全にリードに戻して息の通り道を塞いでしまってはいけないと考えます。音は鐘の響きのように、それ自体が消え去っていくように終わらなくてはなりません。「ターン」の「ン」でピアニッシモになり終わっていくはずで、絶対に「トゥーウ」とはなりません。
 
HM そうですね。一度リードから舌を離したら、タンギングをするときでさえも、肋骨を開いたままにし、喉も開けたままにします。リードの振動がほんの少しだけ途切れるくらいの繊細さで舌が触れ、振動はほとんど続いています。しかし、これは口で説明するのは難しいことですから、吹きながらお手本を見せるほうが分かりやすいですね。
 
 
5.2.1.エクササイズ
 
アラン・ダミアン氏によるスタッカートの練習法 音階とアルペジオをこのリズムで行う。
 
Staccato nach Alain Damiens(=アラン・ダミアンに倣ったスタッカート、ルツェルン応用科学芸術大学 音楽学部、「クラリネット教授法」WEBサイト https://wiki.hslu.ch/cladid/Hauptseite)
 
AD スタッカートは、細かい動きができるようになるためと、舌の筋肉を鍛えるために、私はリズム練習をすることが多いです。このとき、音が出る瞬間とタンギングをしている瞬間の舌のポジションが可能な限り変わらないように気をつけるべきです。
 
HM 舌の奥のポジションはレガートと同じにすべきでしょう。舌の先端だけを動かし、息は常に安定させるべきだと思います。
 
AD タンギングの瞬間に息は舌とリードの接点に達します。その後、舌はすぐに元の場所に戻り、息はリードの振動を続けさせるようにします。舌の後部は大臼歯まで下げておき、一度下げたらそのままのポジションを保ちます。
 
HM 口の奥の部分を外側から手で触り、安定していて動いていないかを確認することができます。力のかかり具合に関して話すことが必要です。ただ、実際は口の奥の筋肉のおかげである程度の安定感があります。
 
AD その通りですね。その筋肉が喉を開けます。
 
 
6. 音名唱法VS母音唱法
 
AD そうですね。フランス特有の教育があり、私たちは初見で楽譜を読むとき、音名を言う、つまりドレミで歌います。ですから、それが習慣になっています。例えば、二重の影の対話をドイツ人は「ドレドファミ」とは読まないでしょう。
 
HM 確かにそうです。私たちは音楽記号と運指を結び付けます。その目的は、これから演奏しようとしていることを頭の中で聴くと同時に運指も覚えることです。
 
AD 高さが違う2音は口の中で違った響き方をします。各音には、その音を最高に響かせる母音の発音があります。しかし、この母音の発音は多くの場合ソルフェージュのシラブルとは一致しません。
きっと役に立つと思いますので、手短にお話しします。例えば、ストラビンスキーの3つの小品の2曲目です。「レドミレファレレ…」(アラン高速で歌う!!!)私は気づきました。私だけではないでしょう。もし、演奏するときにそれぞれの音の音名を想像しすぎると、音は響かなくなり、フレーズが途切れ、音と音の間も切れてしまいます。ほかにも「ファミソファラレシ(ブラームスのソナタ第2番)」と歌うとします。ドレミで歌うことで、音名ごとに口の形が変わり、母音の発音と喉の状態が絶えず変わり、そのせいでフレーズが壊れ、音と音の間のレガートがかからなくなってしまいます。私は学生たちに、「ドレミで歌うことはやめなさい。もしそうする場合は、同じ音域内の音だけにすべきです」と言います。
 
HM 母音の発音は、演奏される音の構成要素によって変わるべきで、音名によって変わるべきではありません。確かにスイスのドイツ語圏では、音名で歌うことに秀でていませんし、楽譜を読むのも比較的遅いですが、このような問題はあまり起こりません。
 
 
7. クラリネットを支える
 
AD 私がテクニックで注意していることの話に戻りたいと思います。クラリネットの位置とアンブシュアの形もさることながら、額と鼻とその延長線の角度がしっかりしていて、喉とアンブシュアに対しての楽器の角度が鋭くなりすぎないことはとても大切です。
 
HM 自然な息を通すことができる息の通り道が大切ですね。
 
AD もちろんです。私たちは支えているということを絶対に忘れてはならず、常に楽器を天井、または上に向けて持ち上げていると考えるべきで、この感覚をいつも覚えていなくてはなりません。演奏するときにクラリネットが下がってしまうのは自然なことですが、それは避けるべきです!
 
HM 楽器の構え方はアンブシュアに直接影響します。アンブシュアがしっかり形作られ、下あごの開き具合が安定していれば、噛む力に頼ることなくリードに対する圧力の変化をつけるために、楽器をアンブシュアの方向に少しだけ押し上げることができます。このテクニックについてどう思われますか。
 
 
7.1. エクササイズ
 
AD 良いと思いますよ。私がよく学生たちに言っていることがあります。「あなた方はクラリネットを右手親指で支えています。それは申し分ないです。今から左手をベルの下に当て、手がベルそのものだと想像して下さい。左手をいつもの位置に戻しますが、まるでベルが手で持ち上げられているかのように、ベルが常に支えられている感覚を持ち続けて下さい。このイメージと右手親指の働きとアンブシュアを上手く結びつけることができれば、楽器の方がアンブシュアに向かって動くようになります。絶対に頭が楽器に向けて傾くことはありません」
 
HM 右手親指、左手、ベル、アンブシュア、結びつけるべき手懸りがいくつもあります。吹いているときの息の支えの感覚とブレスのノウハウの感覚に近いですよね。
 
 
8. ブレスは大切?呼気こそ大切!
 
AD もっともな質問です。私の答えはこうです。「あなたはブレスについて話していますが、私にとっては呼気が一番大切です。いずれにしても、私たちは息を吸っています。それは自然なことです。しかし、実質的には呼気がすべてを行っています。すべてです!」
親指によって支えられた楽器をアンブシュアの方向に押し上げる、常にクラリネットのベルが支えられている感覚を持つ、という今まで説明された要素が、最終的に肋骨の下にスペースを確保するために、肋骨から肘を離すことにつながります。人々はいつも「コロンデール(息の柱)」について話しますが、コロンデールを話すときに大切になのは筋肉です。ちょっとよろしいでしょうか…(アランが編者の肋骨に触れる)
 
 
8.1. 息を吐くとき第8肋骨から第11肋骨を開いておく
 
AD ここです、これは筋肉です。息を吸うとき、この筋肉が特に第8肋骨から第11肋骨を持ち上げることによって胸郭を拡大させます。私の手で肋骨を押し上げれば、息を吐くとき、また音を出している間も常に胸郭は拡大した状態を保てます!
 
HM 私もまったく同じ考えです。このテクニックを使っています。
 
AD 要するに、日本人が「はい」と言うようなものです。もっとシンプルに言えば、咳をし続ける状態と同じです!力が上にではなく、必ずここにあるようにするため、この肋骨のポジションを維持します。これは同じ動きですが、もっとゆっくりで、より長く持続されます。そして、ここです、肋骨の内側に息があり、音があります。
 
HM この筋肉には脊柱の両側にも筋肉機能があることを補足しておきたいと思います。両手の親指で押せば感じられます。そのとき、ほかの指は前に向けます。
 
AD 当然、背中側にも音があります。
 
HM 私たちが同じテクニックを練習していると分かり、とても嬉しく思います。しかし、このことを見つけるまで、そして自然な動作を身につけるまでとても時間が掛かりました。
 
 
8.1.1. エクササイズ
 
AD エクササイズもお教えしますね。私が考え付いたものではなく、ある講習会に参加したときに知りました。その講習会にヴェーグ四重奏団の第一ヴァイオリンを務めた、今はもう亡くなった偉大なヴァイオリン奏者がいました。当時85歳くらいでした。彼のマスタークラスがあり、私は興味を持ったので会場に行きました。そこで私が目にしたのは、彼が片足で立って演奏している姿でした!小柄で力強い人でした。彼は生徒全員に同じようにさせました。片足でバランスをとって演奏すると、先ほど説明した筋肉に一気に緊張が起こり、音のために使える力が得られます。そして、私たちは常に音を支えている状態になります。私は、「ツィガーヌ」(アランは最初の2音を歌ってみせる)を演奏する生徒たちと一緒にいる彼を見ていました。彼は、片足で立っていない生徒の演奏を聴きたがりませんでした。
 
HM 息を吐いている間の筋緊張の増加が自然になります。
 
AD すぐに私たちはそのことに気づきます。そのとき、私は「あぁ!何かが起きている!」と思います。耐えるのです。私たちはその状態を保ち続けます。常にそうします。
 
HM このメソッドの方が良いですね。抽象的なコロンデールについて話すべきではありません。
 
AD まったくですね。
 
HM 残念なことに、強めの音の響きを求めている若い奏者を見ると、暗い響きにするため、きつい仕掛けにしています。しかし、それでは振動させることが難しくなってしまいます。その結果、上より下に、つまり腹筋を強く緊張させるという、やるべきではない方法を採っています。私が気づいた傾向、風潮です。
 
 
8.2. 途切れることなく、常にクラリネットの中を振動させる
 
AD そうですね。しかし、管は細く、またすべての段階ごとに満たさなくてはならないことを意識すべきです。私たちは、アンブシュアからベルまで息を入れていますが、ソを吹くとき、クラリネットはこれだけの長さしかありません(アランはトーンホールを開けたり、塞いだりすることによって変わる長さを見せる)。つまり、楽器の中のコロンデールの長さに常に合わせることが必要で、この長さは演奏する音の高さによって変わります。息は流れる水のようなもので、絶対に途切れることがあってはいけません。
 
 
8.2.1. エクササイズ
 
AD 私はいくつかのパッセージや難しい部分で音を出さずに練習します。要するに、息と指だけで練習し、少しずつ普通の音、自然な音を出していきます。息の流れには安定感が必要で、その安定感のおかげでフレーズ全体をよりはっきりと感じられるようになります。フレーズのラインを描くことができるのです。
 
HM この息の音は楽譜の音によって高さが変わりますか。すなわち、異なる音域ごとに要求される母音の発音の練習もしていますか。
 
AD はい。しかし、すべては繋がっていなければなりません。教えることは、結局は多くの新しい勉強を見つけることです。おそらく私たちは楽器無しでも練習をしています。しかし、楽器無しの練習の中でも、私たちはアンブシュア、母音の発音、息の支え、運指、音楽的なフレージング、レガートなどの重要なテクニックをしっかり考えています!音は楽器との関係性を与えてくれるでしょう。私は学生たちに、たとえ上手くなくても歌うようにと言います。上手か下手かはどうでもよく、大切なことは、歌うと決めたパッセージを常に止まらずに歌うことです。
また、私はいつも、歩きながら吹くようにと言います。しかし、音楽のテンポとは合わせません。ゲームをする、楽器を構える、楽譜通り演奏する、歩く、同時に複数のことに集中するのに慣れるためです。エネルギーを少し開放するために、片足でバランスをとって演奏するという先ほどのゲームを入れてもいいと思います。音楽と楽器のテクニックは、すべてにおいて関係があります。
 
 
9. 強弱法――ジェルジュ・クルターグの非常に大きなピアニッシシモ

 
AD オーケストラはだんだんと大音量になっていると思います。デシベルの数値がだんだんと高くなっています。街の中、自動車、バイクなどの騒音がますます大きくなり、そのことで私たちはだんだんと聞こえが悪くなり、聴力が低下し、静寂が分からなくなりました。その結果、誰もがより強い音で演奏したがっています。このことは私がジェルジュ・クルターグと演奏した日を思い出させます。教養があり、紳士的で素晴らしい方です。彼はコンサートバスドラムを1音だけ鳴らす打楽器奏者に、最も強烈に、非常に大きくと要求しました。
 
HM それは、ビオラ、クラリネット、ピアノのトリオですか。曲の最後に1音だけコンサートバスドラムがある「ロベルト・シューマンへのオマージュ」のことですか。
 
AD その曲です。彼はピアノ(p)が3つのピアニッシシモ、つまりごくわずかな音が欲しいのです。「そう、私はピアニッシシモが欲しいのですが、それは非常に大きいものがいいです。非常に大きなピアニッシシモであって欲しいのです!」と彼は言います。私はすごいことだと思いました。最大限のピアノを、まるでフォルティッシシモのように演奏するのです。想像上のことですが。
 
HM コントラバスクラリネットのための独奏曲「György Kroó in memoriam」は下降音階だけというとてもシンプルな手法で書かれています。彼は常にピアノとピアニッシモを要求しています。曲はとてもシンプルなのですが、音楽の本質を多く含んでいます。
 
AD この曲のために、彼はセルマー社製のコントラバスクラリネットを指定しています。この楽器の響きと倍音を求めたからです。とても難しい曲です。
 
 
9.1. 音の内側にある倍音に耳を傾ける
 
HM でも、美しい曲です!
 
AD 動きがとても美しいです。ですから、私は学生たちに「演奏するときに少しでいいから、音に含まれる、また音の内側にある倍音に耳を傾けるようにしてみなさい。そして、音の中を旅してごらん!」と言います。
 
HM それは、音に含まれる倍音の中で耳を散歩させるようなとても美しいイメージです!コントラバスクラリネットとコールアングレのためのデュオの中で、クルターグは2本の楽器両方に重音奏法を用いて書いているところがあります。素晴らしいです。ただ、それにはあなたが説明されたように、耳を澄ますことが必要です。ほかには休止符が素晴らしいです。耳に音色の中を散歩する時間を与えてくれる繊細さがあります。
 
 
9.2. ラッヘンマン:音感を磨くためのpppの中の噪音
 
AD 作曲家や演奏家は、聴衆の注意を引くため、また彼らの理解を深めるためにピアノ(p)を用います!チェロ奏者を見てみましょう。振動、弦、反響、速さ… チェロ奏者は自分の楽器の弦とその振動の速さを見ています。私たちもマウスピースの中で作られる音色を見ようとすることができます。クラリネットをただ吹くのではなく、想像力を働かせて演奏をすべきです。20歳ですでに上手に演奏できる人はたくさんいます!そこからもっと先まで進みましょう!もちろん、モーツァルトのケーゲルシュタット・トリオはそのシンプルさからとても魅力的です。しかし、もっと先まで進むべきです。ラッヘンマンの「ダル・ニエンテ」で何が書かれているか少し見てみましょう。私は幸運にもラッヘンマンをよく知っています。素晴らしい方です。彼と息づかいの音、ささやくような音を研究するのが大好きでした。ただ吹くのではなく、響きや、息の音の高さを探すのです。私たちは一緒に探しました。それは本当に素晴らしい経験でした。
 
HM 探し当てた結果の音には本質があります。今までと異なる次元の聴く能力を使うのですから、今までにない特性の音色を出すことができます。
 
AD 私たちは響きだけでなく、音に含まれる自然倍音に更に耳を傾けることになります。ささやくような音を研究していると更によく自然倍音を聞くことができます。もっと先まで進むべきです。これらすべての微妙な変化を作り出す能力は、テクニックの一種だと言えます。
 
 
10. アンブシュアの形
 
HM どのようにしてアンブシュアの形を見つけますか。何が大切ですか。
 
AD 体に対するクラリネットの角度がアンブシュアの形に影響を及ぼします。下唇がリードの先端に近づきすぎないことが大切です。
 
 
10.1. 最小限の圧力
 
HM アンブシュアには力が必要ですが、どのようにして最小限の圧力にしますか。
 
AD 筋肉を使います。口の周りの筋肉がアンブシュアの形を作り、マウスピースを支えます。
 
HM 噛まないことですね!
 
AD そうですね、噛みすぎないことです。
 
 
11. スムーズな指の動き
 
AD 私は学生たちに曲が速ければ速いほど、指を動かそうと思わないようにと念を押しています。なぜなら、速ければ速いほど、余計な力が入ってしまう危険性が高くなります。ですから、考えることをやめ、指の動きに任せます。とても大切なことで、このこつを掴むと、指は速くなります。私は学生たちに「気を付けて。このまま続けたら、腱鞘炎になりますよ!」と言います。
 
 
11.1. 指かけ――1つの位置に慣れる
 
HM 指かけの位置はスムーズな指の動きにとって大切ですか。親指は楽器の重さすべてを支え、アンブシュアまで楽器を届けるという役目があります。それと同時に、余計な力を入れることなく、ほかの指が自由に動けるように、手の安定性を確保しなければなりません。指かけの位置は、人差し指とほぼ同じ高さでしょうか。
 
AD はい、そうですね。私の楽器の場合は動かせないので悩みようがありません。もし動かせたら、高すぎる、低すぎる、と変え始めるでしょう…
 
 
12. イントネーション
 
HM まずは繊細な耳になるように鍛えることです。もし、2人で吹いたとき、イントネーション(音程)が合っていなければ唸りが聞こえ、合っていれば部分音にしっかり溶ける結合音が聞こえてきます。
 
AD そうです。ぴったり合っていると結合音がはっきりと聞こえてきます。
 
HM 結合音が調和していれば、2音間のイントネーションは正しいです。
 
AD そうです。すぐに適当なポイントが分かります。学生たちに自分が演奏するインターバル(音程)と結合音のバランスを聞くようにさせ、探させるべきです。
 
 
14. グリッサンド
 
HM グリッサンドは、極端かもしれませんがイントネーションを修正する方法と言ってもよいでしょうか。このテクニックで、私たちは音色の質を保ったまま、音を半音分低くすることができます。
 
AD もちろんです。グリッサンドの練習は、まずは4分の1音、次に半音低くします。そして、ゆっくりと元の音の高さまで戻します。
 
HM 高音を上手く出すには、一方では仕掛けに頼り、他方では息を十分なスピードで送ることができる舌の先端のポジションを見つける必要があります。しかし、息の圧力は下げなくてはなりません。自分がこれから出す音を頭の中で聴けていなければなりません!
 
AD 最高音域がたくさん出てくる場合は、演奏する曲に合った仕掛けにするべきです。しっかり鍛えられた耳の持ち主なら、歯をリードに当てれば、倍音から探り当て、イントネーションが正しい最高音域を出すことができます。しかし、最初に出したい音を頭の中で聴けていなければなりません!
 
 
15. 重音奏法
 
倍音のエクササイズ
 
HM C4を吹き、レジスターキーを押さずにG5、そしてE6を鳴らします。これによって、私たちは倍音を出すときに必要なアンブシュアと母音の発音の柔軟性を身につけることができます。高音域とシャリュモー音域の間のポジションを見つける必要があります。
 
AD その通りです。まったく同感です。あなたが話されたようにド(C4)からレジスターキーを押さずにソ(G5)を出す倍音の練習をし、それが上手くできたら、ミ(E6)の口のポジションを探します。
 
HM その上、耳の訓練も必要です。おそらく声門や声帯の緊張具合で何かを変えているのではありませんか。
 
 
15.1. どのようにテクニックの練習をするか
 
エクササイズ:吹きながら同時に歌う
 
AD 音を吹きながら同時にその音の3度、5度、4度を歌います。がむしゃらにエチュードや音階を練習して、「よし、よくさらった」とならずにすみますよ。
 
HM 例えば、音階を練習しながら主音を歌います。
 
AD また、私はよく学生たちと一緒に吹きます。何かを提案するときは吹いてみせます。
 
 
16. 楽器、マウスピース、リード
 
AD そして、私はいつも学生たちの仕掛けを吹かせてもらいます。そうすると、彼らの状況がよく分かります。
 
HM あぁ、そうですね!ただ、必ずこのマウスピースを使うべきだと決めつけることはできません。一般的なヴァンドーレンのB45、B40は良いと思います。
 
 
16.1. よい仕掛けは大切――しかし、それがすべてではない
 
AD そうですね。あとは頻繁に替えすぎないことです。ある学生が毎週マウスピースや、リガチャーを替え、その度に良くなっているとします。それは良いことです!しかし、まだ音楽ではありません!
 
HM 1つの仕掛けに固執してしまうと、それ以外では吹けなくなってしまいます。ただ、倍音が少ないのでプラスチックリードは使うべきではありません。
 
AD 確かに、倍音が少ないですね。私はプラスチックリードでも素晴らしいものができると思います。倍音が豊かなプラスチックリードが作られると思います。
 
 
17. 最後に一言
 
AD ウェーベルンの言葉の通りだと私は思います。
「まるで現代曲かのように古典音楽を演奏し、まるで古典音楽かのように現代曲を演奏する」
 
 
編集:ハインリッヒ・メッツェナー、リギ・シャイデック、チューリヒ、2018年8月12日
 

 
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オリジナル記事:ルツェルン応用科学芸術大学 クラリネット専門教育サイト
 
※ 本記事は、ルツェルン応用科学芸術大学 クラリネット専門教育サイト、ハインリッヒ・メッツェナー氏、アラン・ダミアン氏のご承諾のもと、同サイトに公開された記事を株式会社 ビュッフェ・クランポン・ジャパンが翻訳したものです。翻訳には細心の注意を払っておりますが、内容の確実性、有用性その他を保証するものではありません。コンテンツ等のご利用により万一何らかの損害が発生したとしても、当社は一切責任を負いません。

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