検索

NEWS

渡辺尚洋氏 Interview

ブランデンブルク州立フランクフルト管弦楽団でソロ・イングリッシュホルン奏者として活躍される渡辺尚洋氏。ご経歴と現在の活動、愛用されているオーボエ”レジェンド・ハイブリッド“とイングリッシュホルン”BC4713“についてお話を伺いました。
(2024年8月、東京)
 
 
  オーボエはいつどのようなきっかけで始めましたか。
 
渡辺(敬称略) オーボエには14歳の時に出会いました。それまではピアノとヴァイオリンを習っていましたが、プロの音楽家を目指そうとは考えていませんでした。しかしオーボエは出会った瞬間に、しかもなぜか自分が楽器を手にする前から、これが自分のやりたいことだ!と思い込んでしまったのです。初めは中学校の吹奏楽でサキソフォンなどを吹いていましたが地域の合同演奏会でとある方の素晴らしい演奏に触れ、この楽器の虜になってしまいました。
 吹奏楽の名門、逗子開成高校の指導をされていた西野明男先生から手ほどきを受け、その後受験の準備のために当時東京フィルハーモニー管弦楽団の首席奏者、齋藤勇二先生に師事して東京藝術大学に入学しました。
 
  東京藝術大学では大学院に進まれ、在籍中にスイスのチューリヒ音楽院に留学されましたね。
 
渡辺 大学院在籍中に、藝大教授の小畑善昭先生から当時日本ではまだ知られていなかったスイス人のトーマス・インデアミューレ氏を勧められたのがきっかけです。インデアミューレ氏が東京で行ったリサイタルを聴き演奏に感銘を受けたことと、翌日に受けることになった公開レッスンで的確なアドバイスを頂いたので、その場で「留学をしたい」と相談しました。すると、氏から「スイスのチューリヒとドイツのカールスルーエで教えているが次の夏に入試があるから受けてみるか。」と言われ、時期が早かったチューリヒ音楽院に挑戦して入学することができました。
 チューリヒ音楽院には日本の大学院にあたるようなコースに都合4年間在籍しました。レッスンは月に1-2回程、それぞれ2日間でレッスンと発表会とを行うようなペースでした。ただそこでは実技レッスン以外のカリキュラムがなかった分、この時期はコンクールへの挑戦に集中することができました。
 
渡辺尚洋氏:「インデアミューレ先生にとっては自分が初めての日本人の弟子でした。草津音楽祭で長く教えていらしたギュンター・パッシン氏が来日できなくなった際に先生を紹介させて頂いたことがきっかけとなり、今年も先生が草津音楽祭に参加されていることを思うと感慨深いものがあります。」
 
  日本とスイス、ドイツで教育やコンクールに違いはありましたか?
 
渡辺 コンクールでは一つの国の中でも色々違いがあるので一概には言えませんが、入試や試験においては求められる曲数がスイス、ドイツでは比較にならないほど多いです。日本の入試では大概課題曲がありますが、スイス、ドイツには特に課題曲はなく、学生が任意の3、4つのスタイルの異なる曲(バロック、古典、ロマン派、現代音楽等)を持っていきます。また、卒業試験では日本では一曲を何分以内で、という形が多いかと思いますが、スイス、ドイツではリサイタルの形で演奏させられますし、数回に渡る試験があります。1回目の試験は多くが非公開でスタイルの異なる任意の曲を1時間程度のプログラムで演奏します。2回目の試験は公開試験で、室内楽を含む1回目のとは異なるプログラムを、オーケストラスタディを演奏させられる時もありますし、ソリストコースではその後オーケストラと協奏曲を演奏することもあります。単純に人との比較は難しいかもしれませんが、一人一人の個性を尊重した上で、その中での完成度を評価されるのではないでしょうか。
 

旧東ドイツのオーケストラ

 
  ノルトハウゼン歌劇場/ゾンダースハウゼン交響楽団はどのようなオーケストラでしたか?
 
渡辺 旧東ドイツ側、テューリンゲン州にあるオーケストラで、東西統一後約20km離れた場所にあった2つの町のオーケストラが合併した楽団です。オペラとコンサートが半々の活動を行っています。木管楽器は3管編成のオーケストラで決して大編成ではありませんが、リヒャルト・シュトラウスの薔薇の騎士とか、ヴェルディのオペラのような規模の大きな曲も多く演奏していました。温かく家庭的で、自由な雰囲気のオーケストラの中でプレッシャーを感じることなく思い切って演奏できた気がしますし、短期間ですが歌劇場での経験を積むことができたことに感謝しています。
 
渡辺尚洋氏:「どこの町の歌劇場も同じだと思いますが、職場は国際色豊かです。当時ノルトハウゼン歌劇場/ゾンダースハウゼン交響楽団に所属する日本人は最初私一人でしたが、後に歌劇場に日本人がアンサンブルに加わって来たとか、日本人の音楽監督が在籍していた時期もあります。町を見渡したら道行く人間はほぼドイツ人しかいないのですが、劇場に入った瞬間に色々な国籍の人がいて、私のような外国人にとっては非常に楽でした。また、地方都市の歌劇場と言うのはそれ自体が大きな家族みたいな感じで、皆が助け合い、例えば引っ越しがあるときはオーケストラの練習の時に“誰か手伝ってくれませんか”と声をかければあっという間に親切な同僚が10名ぐらい集まるほど、つながりが密でした。」
 
  その後、2003年よりブランデンブルク州立フランクフルト管弦楽団のソロ・イングリッシュホルン奏者に就任され、現在も活躍されています。どのようなオーケストラですか。
 
渡辺 ノルトハウゼン歌劇場/ゾンダースハウゼン交響楽団でひととおり経験を積み、環境を変えるために移籍するか帰国するかを考えるようになりました。ちょうどベルリンから車で1時間ほどのフランクフルト・アン・デア・オーダーにあるオーケストラで、ソロ・イングリッシュホルンのオーディションがあり、合格しました。
 ブランデンブルク州立フランクフルト管弦楽団はシンフォニーオーケストラで、86名が在籍、オーボエ奏者は4人います。入団当初はドイツ人の他は特に東ヨーロッパ人が多かったのですが、この数年で急激にメンバーが入れ替わりました。旧東西ドイツ、ポーランド、ロシア、ウクライナ、ハンガリー、ベラルーシという国だけでなく、フランス、イタリア、スペイン、オーストリアからも奏者が加わり、中国、韓国、日本を加えると国籍は13に増え、急激に国際的になりました。なんと最近入団した若い首席奏者に加え副首席オーボエ奏者も2人とも日本人です。レベルも急激に上がり、ポジティブでやる気に溢れたとても居心地の良いオーケストラになったと感じます。
 
  日本とドイツのオーケストラでどのような点に共通点と違いを感じられていますか。
 
渡辺 他の国のオーケストラをそんなに知っているわけではないので単純に比較はできませんが、フランスやイタリアなどラテン系の国々では時間に割と自由なイメージがあり、ドイツや日本はきっちりしているのではないかと思います。とは言え日本はもっときっちりしていて、しかも態度をとても重視するかもしれませんね。例えばエキストラ奏者の方たちは誰よりも早く練習場に到着しますよね?ドイツではエキストラ奏者でも日本ではありえない時間に(リハーサル開始5分前くらいに)堂々と会場に現れる人も結構います。ただ、遅れてきたら勿論まずいですけれど 笑。違いと言えば、ドイツではリハーサルが始まった日はまず各自が勝手に演奏してバラバラ、本番の一日前くらいから急に揃い出しテンションとクオリティが上がってくる、というところしょうか。世界的に有名なベルリンのとあるオーケストラでもそうなる、と聞いたことがあります。
 
  日本のオーケストラはテンポやリズムが完璧に揃っていると評価されることがありますが、その点ドイツのオーケストラはいかがですか?
 
渡辺 私の印象では日本の場合はメンバーが前もってとても良く勉強してリハーサルに臨むので、最初の練習から本番までバッチリと合う気がします。反対にドイツでは、最初のリハーサルには敢えて合わせにはいかないかもしれません。中にはきちんと勉強して練習して来た人もいるし、そうではない人もいて様々ですがまずは自分が感じているのはこうだというものを前面に出して、その上で個々の違いをすり合わせていくように思います。もちろん最終的にはちゃんと合いますよ笑。おそらくヨーロッパのオーケストラは多かれ少なかれ同じような傾向なのではないかと思います。
 
ドイツはオーケストラ大国。「全ドイツで約130のオーケストラがあり、現在統廃合が進んでいるものの、オーボエ奏者や教師の人数はとても多く、その中でもドイツのオーケストラでポジション(定職)を持つ日本人オーボエ奏者の数は30名は下らないのでは。日本はアマチュアでもオーボエ奏者のレベルが高い。こんなに演奏人口が大きく、奏者が海外でも活躍している国は他にないかもしれない。」と渡辺氏。
 

〈ビュッフェ・クランポン〉のオーボエ“レジェンド・ハイブリッド”とイングリッシュホルン“BC4713”

 
  楽器は、これまでどのような機種を使ってこられましたか。
 
渡辺 これまでリグータ、M社、F社等、いろいろなオーボエを吹いてきましたが、偶然昨年夏にビュッフェ・クランポン・ジャパンで開催された新製品発表会がきっかけで〈ビュッフェ・クランポン〉の “レジェンド・ハイブリッド”に出会いました。試奏してみての第一印象は温かくスマートな音色で、しかも音程が素晴らしく取りやすい楽器だと思いました。しかも上管がグリーンラインであることの利点、この楽器のコンセプトやアイディアなどをマチュー・プティジャン、フィリップ・トーンドルの両氏から直に聞くことができたこと、そしてこの楽器での両氏の生の演奏に触れられたことが私にとってのまさに大きな出会いだったと言えます。今年の3月に改めてパリのショールームへと出向いた際に、開発と製造の責任者レミ・カロン氏、テスターのマチュー・プティジャン氏の立ち会いのもと、私が納得するまで調整をしていただいて、実際に私のオーケストラで試したのち “レジェンド・ハイブリッド” を購入しました。 “レジェンド・ハイブリッド” を演奏する時は、楽器の持つ個性に自分が振り回されることなく楽器が自分の表現したい音楽に寄り添ってくれる気がします。吹けば吹くほどこれが自分の求めていた音だ、と確信が持てるようになりました。
〈ビュッフェ・クランポン〉のオーボエ“レジェンド・ハイブリッド
 
 イングリッシュホルンは2014年に〈ビュッフェ・クランポン〉を購入しました。〈ビュッフェ・クランポン〉のイングリッシュホルン“BC4713” の販売が始まった頃、ベルリンの販売店で購入したのですが、既にドイツ・ベルリン交響楽団のマックス・ヴェルナー氏や、ベルリンドイツオペラのソロ・イングリッシュホルン奏者も吹いており、多分私はベルリンでは3番目の奏者なのではないかと思います。当時、他のメーカーの楽器も色々試していましたが、今日はワーグナー、明日はマーラーそしてラヴェルというように頻繁にスタイルの違う音楽を演奏する際でも、楽器の個性に振り回されずにそれぞれの音楽を明確に吹き分けることができるのが〈ビュッフェ・クランポン〉の“BC4713”だという確信をこの時も持ち、購入へと至りました。
〈ビュッフェ・クランポン〉のイングリッシュホルン”BC4713
 
  最後に今後のプロジェクトについて教えてください。
 
渡辺 オーケストラは今年の9月に中国への演奏旅行、10月にはオーストリアへと行きますが私にとって初めてウィーンのムジークフェラインザールで演奏できるのを非常に楽しみにしています。その後11月にベルリンにてピアノとのデュオコンサートを開き、平尾貴四男氏や細川俊夫氏の日本の作品も演奏します。また来年9月6日には東京でファゴット(鈴木一成氏)、ピアノ(黒岩悠氏)と一緒にensemble3.0の演奏会も予定しています。
 
  ありがとうございました。
 
 
【渡辺尚洋氏 プロフィール】
 
 東京藝術大学音楽学部を首席で卒業。藝大定期新卒業生紹介演奏会にて藝大フィルハーモニアと共演。同大大学院入学後スイスに留学。チューリヒ音楽院及びヴィンタートゥーア音楽院修了。第7回日本管打楽器コンクール入選。第10回日本管打楽器コンクールにて第2位入賞。第3回国際オーボエコンクール・東京にて日本航空賞、1992年マルクノイキルヒェン国際コンクールにて奨励賞。1996年ローザンヌにてハンス・ショイブレ・コンクール第2位入賞。1997年よりノルトハウゼン歌劇場/ゾンダースハウゼン交響楽団の首席奏者を務めた後2003年よりブランデンブルク州立フランクフルト管弦楽団のソロ・イングリッシュホルン奏者となり現在に至る。
 これまでオーボエを西野明男、斎藤勇二、小島葉子、小畑善昭、トーマス・インデアミューレ、ルイズ・ペレランの各氏に師事。ヴィンフリート・リーバーマンとドミニク・ヴォーレンヴェーバーの各氏からは個人レッスンにおいて多大な薫陶を得る。
 ゾンダースハウゼン交響楽団在団中は数多くのオーボエ協奏曲を同団と共演、2001年にはゾペテリス・ヴァスクスのイングリッシュホルン協奏曲のドイツ初演を行った後、2014年にもブランデンブルク州立管弦楽団フランクフルトの定期演奏会にて同曲を再演した。また2010年にシュトックハウゼン夏期講習会にて奨励賞が贈られたり、その後サンクトペテルブルクの現代音楽フェスティバルに招かれたりと、現代音楽にも意欲的に取り組んでいる。
 2001年旧東京音楽学校奏楽堂にて初リサイタル後、2016年、2018年、2024年にリサイタルを、またensemble 3.0のメンバーとしてトリオの演奏会も定期的に東京と東京近郊で行い高評を得る。
 2003年よりベルリン在住、現在に至る。 
 

 
※ 渡辺尚洋氏が使用している楽器の紹介ページは以下をご覧ください。
〈ビュッフェ・クランポン〉オーボエ”レジェンド・ハイブリッド
〈ビュッフェ・クランポン〉イングリッシュホルン”BC4713

Retour en Haut
Your product has been added to the Shopping Cart Go to cart Continue shopping