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Fabrice Moretti & Shinichi Iwamoto Interview 2019

最高級の楽器である “SENZO”(センゾ)の開発に携わったファブリス・モレティ氏と、日本で幅広い活動を行っている岩本伸一氏。共に〈ビュッフェ・クランポン〉の楽器を長く演奏し、伝説的なサクソフォーン奏者であるダニエル・デファイエ氏に師事した二人が、音楽と楽器について語り合いました。

偉大な存在だったダニエル・デファイエ

モレティ(敬称略) 岩本さんに初めてお目にかかったのは、たしか1988年に、私が初めて来日したときでしたね。その後は何度も、洗足学園音楽大学で学生たちを教えるという機会をいただきました。

岩本(敬称略) こちらこそ、ありがとうございます。モレティさんは長い間、〈ビュッフェ・クランポン〉の楽器を演奏し、テスターとしても活動されていますが、最初に〈ビュッフェ・クランポン〉の楽器と出会ったのはいつでしたか。

モレティ 16歳のとき、ダニエル・デファイエ先生と一緒に工房を訪れ、それ以来ずっとビュッフェの楽器を演奏しています。

岩本 私は18歳のとき、デファイエ先生が来日してツアーを行った際にコンサートを聴いたのですが、そのときは“PRESTIGE”(プレステージュ)を演奏されていました。それまではレコードで彼の演奏に親しんでいましたが、生の音を初めて聴いてとても感動したのを覚えています。最近まで洗足学園の副学長をされていた冨岡和男先生もデファイエ先生の演奏に衝撃を受け、〈ビュッフェ・クランポン〉の楽器を演奏するようになったとおっしゃっていました。所属されていたカルテット「キャトゥル・ロゾー・サクソフォーン・アンサンブル」のメンバーも全員“S1”(エスワン)を演奏していて、私自身もジャック・テリーさんに選んでいただいた“S1”を今でも演奏しています。

モレティ 私も38年間、“S1”を演奏し続けています。素晴らしいクオリティですね。

岩本 〈ビュッフェ・クランポン〉には素晴らしい技術者がいて、デファイエ先生という素晴らしい演奏者がいたのだと、あらためて思います。

モレティ 先生は私にとって、第2の父と呼べる存在でした。実は、まだパリ音楽院の学生だった16歳のとき、私は父を亡くしたのです。先生はその後、私が26歳になるまで教えてくれたのですが、決してレッスン料を受け取ろうとはしませんでした。サクソフォーンを教えていただいたというより「音楽」を教えていただいたといえるでしょうね。すべてのレッスンを今でも完璧に記憶しているほどですし、私が生徒たちに教えていることは、すべてデファイエ先生に教えていただいたことでもあります。その先生も、彼の師であるマルセル・ミュールから教わったことを生徒に伝えていたのでしょう。岩本さんは冨岡さんの生徒でしたね。彼もデファイエ先生の影響を受け、ミュールの流派を日本に伝えた一人なのです。

岩本 私も一度デファイエ先生に習いましたが、よく「ミュール先生はこう言っていた」と話してくださいました。とすると、我々はミュール先生から三代目となり、今活躍中の若手は四世代目となりますね。

モレティ 演奏者にはそれぞれの個性や考え方がありますけれど、私はできるだけデファイエ先生から受け継いだ伝統を後世に伝えるべく努めています。

岩本 カルテットとしての活動も素晴らしかったですね。現在のパリ音楽院では、カルテットを積極的に教えている教授が少なくなったと聞きました。カルテット演奏の伝統が途絶えてしまうのは残念に思います。新しい作品もデファイエ先生の時代以降はあまり積極的に書かれているとは言いがたいですし、新しいレパートリーが少ないのは事実でしょう。

モレティ 最近、パリ音楽院での卒業試験でサクソフォーン奏者が全員、新しい作品を演奏していて、とても残念に思いました。もちろんそれを否定はしませんけれど、ジャック・イベールやアンリ・トマジなど、もう少し前の時代のレパートリーも大切にしてほしいと思います。オーケストラでいえばモーツァルトやベートーヴェンのような作曲家だといえるでしょうか。昨年、パリで教えている若い世代の講師がやって来て、ポール・モーリスが書いた「プロヴァンスの風景」の楽譜を手に、間違いがないかをみてほしいというのです。彼は今まで(スタンダードだと思える)この曲を演奏してもなかったのか?と驚きました。今年(2019年)が没後20年となるジャニーヌ・リュエフの作品も4月に東京でのリサイタルで演奏しますが、演奏はとても難しい曲ですけれど、素晴らしい作品です。

岩本 モレティさんはこれまで何度も来日し、洗足学園音楽大学ではマスタークラスもしていただきましたし、デファイエ・カルテットの名バリトン奏者のルデューさんも交えたカルテットの演奏も披露していただきました。フランスの伝統的なスタイルを継承している奏者として、モレティさんから学ぶことはたくさんありますので、ぜひ多くの方にコンサートへと足を運んでいただき、生の音を聴いてほしいと思います。

自信をもって発表した楽器“SENZO”

岩本 2013年に発売された〈ビュッフェ・クランポン〉の“SENZO”は、どういった特徴があるのか教えていただけますか。

モレティ 「すべてのジャンルの奏者に向いている楽器」というのが開発コンセプトであり、〈ビュッフェ・クランポン〉の音色を継承すると同時に、幅広いレパートリーで個性を発揮できる楽器だといえるでしょう。音色はとても温かみがありますし、息を吹き込む際にはスムーズで、心地よい抵抗感もありますから、力まずに吹くことができるのも特徴です。

岩本 音の響きも素晴らしいですね。

モレティ 全音域にわたり滑らかで均一ですし、音程も極めて正確、キーワークも快適です。外観が素晴らしいことも付け加えておきましょう。すでにクラシックの奏者だけではなく、ジャズやポップスの奏者も演奏してくれています。先日、ポップスやファンク、そして即興演奏もする人気奏者のコンサートを大きなスタジアムで聴きました。彼は“SENZO”のシルバー・モデルを吹いていますが、とても素晴らしい演奏でした。その一方、オーケストラ・コンサートではビゼーの「アルルの女」で繊細な音色を奏でることもできますし、マウスピースを交換するだけでまったく違う音が出せるのです。私の所属する「クラシック・ジャム・カルテット」では、私とフィリップ・シャーニュ(アルト・サクソフォーン)が“SENZO”を吹いていますけれど、違うマウスピースを使っていますから音色がまったく違うのです。岩本さんからもご指摘を受けましたが“SENZO”は管がやや短いので、独特な音色を生み出しているのかもしれません。

岩本 “SENZO”の音色はとても柔らかで肉声に近いと思います。日本人にとってもキーポジションは最適で、低音から高音まで演奏しやすく、音程も良いです。そして何よりもビュッフェの最大の魅力は、西洋文化の中から生まれた“響き”でしょう。奏者にとってその中で演奏できることは、最高の喜びであり幸せです。

岩本 現在はアルト・サクソフォンのみ発売されていますが、今後の予定はいかがですか。

モレティ もちろんソプラノからバリトンまでを網羅するつもりです。次はおそらくテナーが発売されるでしょう。新しい楽器であっても、昔からの伝統や要素を残しつつ開発することが大事でしょうね。たとえば“S1”がいかに素晴らしい楽器であっても、それをもう一度作ることが目的ではありませんから、常に進化させなくてはいけないのです。もちろん私は〈ビュッフェ・クランポン〉テスターですから、完璧な状態の楽器を世に送り出すという責任があります。プロトタイプの楽器が完成したら、日本の演奏家にも意見をうかがうことになるでしょう。

岩本 それは、とても楽しみにしています。

モレティ 以前は〈ビュッフェ・クランポン〉もソプラノからバリトンまでを製造していたのですが、経営者が替わってしまった数年間、サクソフォーンの製造が中止されたこともありました。その後、アルトのみ製造が再開されて現在に至ります。そういえば、サクソフォーンを銅で製作したのは、〈ビュッフェ・クランポン〉が最初だったというエピソードもあります。あらゆる面から可能性を探り、独自の音を追究する姿勢も、このブランドの伝統だといえるでしょう。

※ モレティ氏と岩本氏が使用している楽器の紹介ページは以下をご覧ください。
  センゾ

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