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Fabrice Moretti Interview 2019

サクソフォーンの現代の巨匠ファブリス・モレティ氏。伝説の奏者ダニエル・デファイエ氏から受け継いだこと、自らが学んだことを次の世代に伝えるために取り組む「教育」について、お話を伺いました。(2019年4月18日・東京にて)

教育者として必ず伝えていること

  教育活動に情熱を注がれているそうですね。
モレティ(敬称略)私の歳になると教育は最も大事な活動です。積んできた経験や学んだことを次の世代に伝えたいと強く感じています。

  教育者として最も大切にしていることを教えてください。
モレティ コンセルヴァトワールの私のクラスには、小さい子どももいるので、ドアをノックしてから入室したり、きちんと挨拶したりという礼儀から教えています。そして、楽器、リードなどの道具を大切にすることも教えます。楽器を大切にすれば、演奏も注意深く吹くようになります。逆に楽器を手入れしない人は、演奏も乱暴です。
演奏に関して、第一に教えることは「音色」です。もちろん、レッスンでは楽曲のスタイルや音楽へのアプローチについてアドバイスをし、技術的な課題があれば、解決策を生徒と一緒に考えます。そして、日々の練習方法についてアドバイスしています。

  日々の練習方法で重要なのは、どのような点でしょうか。
モレティ 日々の練習には計画とメソッドが必要です。
練習計画は自分で考えます。例えば私は、その日に練習する楽曲のリストと、それぞれの楽曲の中でクリアすべき項目をノートに書き出してから練習します。そして、必ずメトロノームを使ったスケールから練習を始めます。芸術家のイメージからはかけ離れた作業かも知れませんが、自分のベストな音楽を聴いてもらうためには、欠かせません。
また、正しい練習メソッドを身に着けることも重要です。基本は、はじめにメトロノームを使ってゆっくりとしたテンポで完璧に吹けるようになるまで練習し、そこから実際の演奏のテンポまで上げていくことです。技術的に困難なパッセージも、この方法で練習すれば、難しい部分を分析できます。また、上手く吹けないフレーズを、がむしゃらに10回、15回と繰り返す意味はありません。うまくいかないことには、常に理由が存在します。一度楽器を演奏する手を止めて、頭でよく考えて、なぜうまくいかないか、解決方法を考える必要があります。練習メソッドが正しければ、最短の練習時間で最大の結果を出すことができます。理想は練習しなくても本番に完璧に吹けることです。そんなことは不可能ですけれども、少しでもそこに近づくことができればいいと思います。

自分自身の演奏スタイルの見つけかた

  アドバイスに対して練習するだけでなく、解決策を自分で考えることも重要だということは、考える力を養う必要がありますね。どのような訓練が有効でしょうか。
モレティ 人間は好奇心がないと、受動的になってしまいます。自分の事だけでなく、周りの人にも関心を持つべきです。例えば、他の生徒の演奏を聴いたり、レッスンを聴講することは非常に大切です。学校の授業や他の活動で忙しいのはわかりますが、可能な限り努力すべきです。私は18歳でパリ国立高等音楽院を卒業した後も、デファイエ先生のクラスを聴講するために数年音楽院に通い続けました。聴講することにより、楽曲や演奏スタイルをより深く理解し、技術的な問題を解決するヒントを得ることができました。
しかし、私たちは一人一人違います。自分自身が自分のやっていることに、年齢を問わず意見をもたないといけません。教えを尊重することと、建設的な批判精神をもつことは両方大切で、バランスを取る必要があります。

  モレティさんご自身も先生の教えを大切にしながら、教えとは異なる演奏をされたのでしょうか。
モレティ はい。デファイエ先生には26歳まで師事しましたが、その26歳の時の話です。9月に開催されるコンクール準備のため、課題曲のレッスンを受けました。課題曲の一つにバッハのバイオリンのためのソナタがあり、自分で編曲することが条件になっていたので、楽譜を書きながら、フレージング、ニュアンスも自分で決めていく作業が必要でした。そこで、バイオリン演奏のCDを沢山買い、それを参考に聴きながら、かなりの労力を費やして自分の表現したいニュアンスまで決めていきました。ところがレッスンを受けた時、ある楽章で、先生とフレージングやニュアンスに対する意見が全く食い違ってしまったのです。レッスンの後に先生の教え通りに吹いてみたものの、納得できませんでした。それで、「いいや、自分の決めた表現で吹いてしまおう!」と決めました。まるで、自分でへその緒を切ったように感じましたよ!先生はそのコンクールの審査員でしたが、無事優勝することができました。そして優勝後、「最もバッハらしい、見事な演奏をしたのはファブリスだ!」と仰っていただけたのです。長いサクソフォーンの学びの中で、私は常に先生の教え通りに吹いてきており、先生のアドバイスとは異なる演奏をしたのは、それが初めてでした。

  長年の間、先生の教えを守って基盤を築いたうえで、自分自身で楽曲を深く分析したからこそ、先生も認める「モレティさんならでは」の演奏をされたということですね。
最近はコンクールが演奏家のキャリアアップには不可欠となってきており、「コンクール主義」を批判する声も多いと思いますが、どうお考えですか。

モレティ コンクールを批判する人もいるけれども、私は年齢制限ギリギリの30歳まで出場し続けました。最も出場数の多いサクソフォーン奏者の一人かもしれません。コンクール出場によって刺激も受けますし、自分の限界を広げることもできます。先ほどコンクールで優勝したエピソードを話しましたが、コンクールは最初は上手くいかないのが普通です。また、思い通りの演奏ができた!と思っても、審査員の評価は異なることがあります。だからと言って落ち込む必要はありません。私も1次落選から優勝まで、様々な結果を経てきました。失敗を恐れない精神をもつことが大事だと思っています。

舞台で集中するための秘訣

  失敗を恐れると、緊張して上手く演奏できなくなります。モレティさんは本番で緊張することはありますか。
モレティ 勿論です。今でもそうです。しかし、緊張は、良いほうに転換できるのをご存知ですか?生徒にも、本番で80%、150%、200%のパフォーマンスを出す人がいます。

  緊張対策として、具体的に何を考えればいいのでしょうか。
モレティ 「世の中には、戦争、死、貧困がある。それと比べて、人前で吹くことは、どれだけ『おおごと』なんだろう?失敗しても大したことないよね?」と、一歩引いて考えてみるのは一つの手です。とは言え、キャリアのために大切な試験もあって、「そんなことは考えられない!」という日もあるでしょう。そういう時には、心を落ち着けて、周りの雰囲気や他の出演者を気にせず、目指してきたこと、つまり自分の音と音楽に集中します。

  レッスンで最も大切にしていることは、音色だと答えられました。本番に自分の音に集中するためには、日頃から演奏中に音をしっかり聴く訓練が必要なのでしょうか。
モレティ 演奏者は、自分が自分の先生であるべきです。ですから、自分の音をよく聴くことは必須です。音色の練習をして、音色と音程を同時に聞くことができる耳を育てる必要があります。難しいことですよね。耳のトレーニングのために、例えば小さい時から声楽や合唱を学ぶことは有効です。合唱の場合は周りと社会的なつきあいも覚えますしね。アンサンブルやると周りの音色も聞かないといけません。
その点、日本の若いサクソフォーンの生徒には、個人演奏はさほど上手くなくても、アンサンブルになるとものすごく上手に吹ける人たちが多いと感じています。個人主義のフランスとは逆の現象です。学校の吹奏楽部でサクソフォーンを始める日本人生徒たちが多いと聞いていますので、それが原因かも知れません。逆に、そのような日本の生徒が上達する秘訣は、楽器をはじめる時だけでも良いので、レッスンを受けることです。レッスンを継続する予算がなくても、はじめの1か月に4~5回レッスンを受講して技術の基礎を身に着ければ、直せない悪いクセをつけてしまうリスクも減少し、その後の上達もスムーズになるでしょう。

  最後に、モレティさんの理想とする演奏と音色を教えてください。
モレティ 理想の演奏は、作曲家の書いたことを忠実に再現しつつ、自分の解釈を通して聴衆に伝えることです。そして、理想の音色は、作曲家、作品によって求められるものが異なるので、色で例えるとマルチカラーです。


※ ファブリス・モレティ氏が、管楽器専門月刊誌「パイパーズ」2019年1月号(バックナンバー)のインタビュー記事で詳しく紹介されています。また、吹奏楽専門月刊誌「バンド ジャーナル」でも、2019年8月号(7月10日号)インタビューが掲載される予定です。ぜひご覧ください。
※ “センゾ”の製品紹介ページはこちらからご覧ください。

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